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パン○売りの少女

 授業終了のチャイムが鳴り響き、放課後の教室の窓からは橙色の夕日が差し込み、教室全体が染め上げられる。

 中等部になり、これで好きなだけ外の世界に狩りに行けるようになると思っていた姫奏だったが、小等部の頃に比べ授業時間も伸び、結局自由に狩りにいける時間帯は日が落ちた夕刻からとなる。

 今はまだ少し、昼間の空気の熱は冷めず体に纏わり付くのが苦痛だが、宵闇の濃さが強まればその苦も減るだろう。

 部活動などで教室に残る生徒達を背に、姫奏は一人外の世界へ向かう。

 校舎をでて、外の世界に続く門に着く頃には、橙だった景色は紫色になり宵の明星が輝く。


 門番のおじさんとはすっかり顔見知りになってしまった。

 最近は「今日も頑張るんだよ」、なんて言われて飴をくれたりする。


「ギルド員募集中でーす! メンバー同士楽しいハンティング! 力を合わせて戦いませんかー!」


 門の入口付近では、ギルドと呼ばれる特定の集団を集めた仲間の募集が盛んに行われていた。


(ギルドか……)


 一時的なパーティーと違い、ギルドは一つのチームとして常に行動を共にするため、より仲間意識が強まり、低レベルのjob職でも他のメンバーと協力すれば1ランクも2ランクも上の狩場を経験することができるのでレベルアップはより安全に効率的に出来るようになる。


(ギルドに入れば、もっと強くなれるかな……でも……)


 かっての実戦訓練でのトラウマが蘇り、胸が締め付けられる。


 そこに、姫奏が加入に対して思い止まる様子に見えた勧誘員のお兄さんが声をかけてくる。


「キミ、聖職者だよね、支援なら一人で戦うの大変だろ? うちのギルドに入らないかい? 治癒職はいつでも大歓迎なんだぁ♪」

「あ……、わたしは、支援出来ないので……」

「ん? 最初はみんな失敗ばかりさ、うちのギルド世話焼き多いから手取り足取りなんでも教えてくれるよ♪」


 明るく熱心に勧誘してくれるお兄さんの笑顔が、逆に申し訳ない気持ちになる。

 自分が、聖職者でありながら支援スキルを捨て、魔術師のように攻撃スキルを特化した異質の存在で、それにもかかわらず魔術師ほど多様な戦術が出来るわけでは無いと知れば、彼の期待を裏切ってしまうだろうと考える。


「ごめんなさい……ギルドはいいです……」

「あ……、ああ……」


 駆け足で逃げ出すようにその場を立ち去る姫奏。


 千雪が引きこもってしまい、常に孤独な戦いを続けている、しかし本人はそれが仕方ないと思い込み毎日誰の協力も無く狩りをする。

 おじさんからもらった飴が心に染みる。


「甘い……あれ、誰か居る」


 普段は誰も立ち寄らない静寂の森に、珍しく人影がみえた。


(あの人、うちの学校で同じクラスになった人かも)


 シャトレーヌ学園中等部の制服を着た少女が、大人の男性と話しをしている、男の方はどうやら興奮気味のようだ。


(なにしているんだろ、狩り中なのかな?)


 物陰で様子を見守る姫奏、狩り中のパーティーだとすると途中で他のパーティーが手を出す事は、モンスターの横取り行為などと言われマナー違反になる。


「莉杏ちゃん、寒くない? おじさんとそろそろアソコ行かない?」

「え~、どうしようかなぁ……」


 嫌そうな口ぶりだが、目は何かを期待するように男を見つめる少女。


「とりあえず、行ってみようよ……さっ!」


 少女の手をとり、どこかへ誘導しようと向かい始めるが、彼女は手を振り払い言った。


「ダーメ! そんなんじゃおじさん、誰もついてかないよーっだ!」


 そう言い残し少女は突然周りに訴えるように大声で騒ぎ出した。


「誰かー!!助けてー!!」

「えっ! いゃ……何言ってんだよ……こんな場所で人いるわけ無いだろ……いいからこいよ」


(もしかしてこれは……悪い男の人では)


「こら! その子の手を離せ!」

「はあ!? なんでこんな場所に人が」



 蓄積杖を輝かせた状態で、少女と男性の間に入る姫奏。

 誘拐された経験のある姫奏なので、この手の犯罪は許せないのだった。

 一瞬慌てた男だが、声の正体が中学生の少女だとわかると態度を翻す。


「よくみたら、中学生……か?」


 捕まっていた少女はこれ見よがしに逃げ出した。


(ラッキー、今の隙に逃げちゃえ~っと)


 しかし、身代わりのつもりで置いてきた姫奏に男は予想外の行動に出る。


「よく見たら、君のほうが可愛いし、おじさん好みかも……」

(え、そうなるの!?)


 一度は姫奏をおいて逃げ出した少女だったが、戻ってきて姫奏の手を引っ張り駈け出した。

「あ~ん、なんでこんな事に……今日が初仕事だっていうのに散々だよ……」

 逃げまわって二人きりになると、少女は息を切らしてへたり込む。


「初仕事? ごめんなさい……なんか邪魔しちゃったかな……」

 初仕事と聞いて、初狩りだと思い、先ほどのおじさんももしかしたら仲間の人だったのかもと勘ぐりだす姫奏。

 姫奏をみて、少女がバツの悪い顔をする。


(げ……、この子知ってる……飛び級で来た優等生だ、名前……なんだっけな……読みづらい名前だったんだよなぁ~……)


「や……やぎま……やぎさんだっけ?」

「やしまです」


 八祇間姫奏という名前を一発で読めた人は殆ど居ないが、やぎさんと呼ばれたのは初めてだった。


「え……けど確か、漢字の祇ってさ、ぎって読むよね」

「そうかもしれないけど……うう……じゃあ、やぎでもいいです……」


 姫奏を始め、マニア城の住人は名前の読み方を突っ込まれると身も蓋もないのである。


「でしょ~!! あたしは上下ハル、クラス一緒だったよね。これも何かの縁だしよろしくね、ヤギさん♪」


 気さくな感じに自己紹介をするハル、だが先ほど別の名前で男から呼ばれていたことを思い出す姫奏。


「あれ? さっき莉杏ちゃんって呼ばれてなかった?」

「あ~っ……あれね~……あれはネットで使っていた名前ってゆぅか~……あ! あれでしょ、あのおっさんが間違えてただけでしょ! あはっはあ~……」


 完全にはぐらかそうとするハルだが、別に大した気にも止めていない事なので姫奏もスルーした。


「それよりさ、やぎさんこんな夜遅くに一人で狩り? 親心配するでしょ?」

「わたし親居ないから」

「え……まじで……」


 話を逸らそうとしたら地雷を踏んでしまったような、気分で硬直するハル。


(う~ん……触れちゃいけないこと聞いたかな……)


「じゃあ、やぎさんは親戚の家とかに住んでるの~?」

「家でなくて城かな」

「え……城って……城の形をしたあの――!!」


 脳内でピンクの妄想を作り上げ、上下の頭にある城は一つしかなかった。

 姫奏が補足していく、が。

「うん、マニア城で、けてマニアのふくべえさん達と住んでるよ」

「え!? マニアのおじさん達と住んるの?」

「うん、お兄さんだっていいはる人もいるけど、31歳ならおじさんだよね」


 城で、美競刃がくしゃみをしているようだ。


(なんだ、この子……真面目な優等生かと思っていたけど、ロリコンマニアのおじさんと複数プレイするようなヤバイ子だったとは……親が居ないとか本当はお金目的で売り飛ばされたのかな……あたしなんか、今日勇気をだしてようやくパンツ1枚売っただけなのに……)


 姫奏の事を完全にロリコンキラーのマニア少女と思い込む上下ハル。

 すっかり顔を紅潮させ未知の世界に興味津々になっている。


「ハルは初狩りだったんだよね」

「そうです……今日始めてパンツ売りをするようなひよっこ初心者です……グスン」


 大冒険をしたつもりで、まだまだ上がいたと自信喪失するハルだが、姫奏は普通に驚いた。


「えっ……パンツ売るの!? て、そんなの売れるの?」


 自分の履いていた下着を売るという衝撃の発言に、マニア城に住んでいて知識量には自身があった姫奏にとって、青天の霹靂であった。


「え……売れるでしょ? 今日なんか買い取り募集したら1秒で相手みつかったくらいだし、中等部って言っただけで、めっちゃ高く売れたよ!! 現代の錬金術だよ!! 中学の今売らないでどうするのさ!?」


 下着売買のやり取りから結果まで力説する上下、先ほど買っただけのしま○らパンツが5000円で売れたばかりなので確証があるだけに言葉に凄みがあった。


 お互いに、こいつ何者なんだ? という顔で見合わせる。

 二人の思考は別方向に進んでいき、勘違いは加速する。


(何なんだこのハルって子は……パンツが売れるってどこで知ったんだろ……ちゅきは知ってるのかな……しかも中学生だから売れる?……ううむ、奥が深い……)


 自分だけ知らなかったような口ぶりに、これは一般常識なのかと混乱する姫奏、さらに上下のスカートはかなり短いので、もしかして今って……と想像すると同性でも恥ずかしくなってくるのであった。一方上下は……。


(そうか……マニアの上級者だと、逆に一般人がヤルようなことに興味がないから疎くなるのか……いや……、実際住み込みでヤッちゃうような子だし、今更パンツ売りなんて普通過ぎて眼中にないレベルなのか……ヤバすぎでしょ……)


 勝手にとんでもない想像をして、若干引いてしまう上下だった。


「はぁ……なんか自分が恥ずかしくなってきちゃった……」


 大きな溜息を吐き、知識量ならだれにも負けないと自惚れていた自分に落ち込む姫奏。

 それを聞いた上下は、驚愕する。


「ええっ!? 今更!?」

(あたしという一般人と接触することで、自分が上級レベルだと気付いて恥ずかしくなって来たのかな……よし、励ましてあげよう)


「やぎさんは、レベル高いから、普通が分からなかっただけだよ、そう落ち込まなくていいんじゃない?」


 バッチリフォロー出来たと、内心ガッツポーズをする上下だが、姫奏を追い詰めていくのであった。


「やっぱそうだよね……わたしって視野が狭いんだ……何でも出来るとか、知ってるとか思って……馬鹿みたい……」

「ええっ……ッ!!」

(そっか……ヤギさん自分なりにエロいって自覚あったんだ……)


 勘違いである。


「中学の3年間は拘束時間だと思って何も出来ないと諦めてたんだけど……」

(え? 拘束SMに3年? すごっ)

「中学の今だから……出来る、うん……今しかできないことがあったんだ」

「え……まってよ……」


 今あるチャンスを逃す訳にはいかない、今できることを精一杯する。

 支援職でホーリーライト使いだからギルドやパーティー向けじゃないと決めつけて、せっかくの勧誘を無にしたり、学校の授業も無駄と無関心だったり。

 今の自分がいかにダメだったか客観的に見直すことが出来た。

 悟りを開き、輝いた表情で言葉に熱が入る。


「ハルも、今しか出来ないこと頑張ってるんだね! 凄いな!!」

「あ……はい?」

「わたし、今出来ること、頑張ってする……縛られてちゃダメなんだ!!」


 ぐっと拳を握ってやる気を出す姫奏。

 それを見て焦りだす上下だった。慌てて姫奏を止めようとする。


「ダメだよ!! ヤギさんがそんなことしちゃ!!」

「え……なんで?」


(拘束とか縛りとか……そんな事できるこがやる気を出したら……)


「ライバルになるつもり……!!」


 パンツ売りで精一杯なのに、姫奏みたいな上級者がやる気をだしたら客が根こそぎ取られてしまう……上下は焦った。


「あ……そうか……」

(狩場で、わたしが本気で狩りしたら、ハルが倒すモンスターの数も減ってレベル上げうまくいかなくなっちゃうのか……)


 狩場に現れるモンスターは無限でないので、姫奏は同じ中等部として狩場を共にする同級生のレベル上げを邪魔してしまうのかと考えた。


 ……沈黙が続く。


 すると、上下が何かを企みだした。


「そうだ、ヤギさん! あたしと組もうよ!」

「おおっ!!」


(ヤギさんと組めば、この子のマニアプレイも覚えれて、お城にいるロリコンさんともあわよくば……ふひひ……これはビッグビジネスのチャンス!!)


(そっか、二人でパーティーを組めばいいんだ、ハルは頭いいな~)


『これからは一緒に頑張ろうね!!』


 二人の言葉は合わさったが、はたして……。


(学園再生するんだ……ちゅき、待っててね、わたしが必ず居心地の良い学校にしてあげるからね!!)


 ひょんなことから、自らの思考的弱点を克服した姫奏だったが、妄想勘違い少女上下からは、ロリコンキラーの大先生と慕われていることなど、知る由もなかった。

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