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学園生活 開始

 シャトレーヌ学園中等部。


「八祇間姫奏、御徒原千雪2名は本日よりシャトレーヌ学園中等部の生徒とする」

『ありがとうございます』


 真新しい糊の効いた制服を着込み、他生徒とは異質の雰囲気を醸し出す二人。

 波乱の実戦訓練で生存した奇跡の生徒として既に注目を浴びる姫奏と千雪であった。

 すれ違う生徒達は不審そうに眉をひそめ、廊下で談笑していた生徒達もひそひそと何かと話しだす者がチラチラと存在する。


「小学校よりずっと広くて、迷っちゃいそうだね」

「うん、すでに結構迷っちゃったしね」


 中等部の校舎は広く、先ほどの職員室にたどり着くのも一苦労であった。


「案内標識とか欲しいよね、ちゅきがいなかったら一日中ぐるぐるしてたかも」

「姫奏ちゃんは、わざと寄り道してるのかと思ったよ」

「まぁ、それもあるけどねー、訓練室とか気になるじゃない」

「それで遅刻したらシャレにならないよ……」

「ははは……」


 中等部の校舎は小学校の頃よりずっと広く、より戦術的な授業が受けられるようにスキルの訓練施設など実践的な部屋が用意されている。

 グランドでは、剣や槍、スキルで戦うための練習に励む生徒もいる。


「授業も楽しみだね」

「うん」


 期待と好奇心で無垢な笑顔を浮かべる姫奏。

 だが、千雪の足取りは重く、浮かない顔をしている。


「ちゅきとはまたクラス別々になっちゃったね、今度こそ一緒のクラスになれるとおもったんだけどなぁ~」

「うん……残念……」

 中等部の授業はよりjob職業の特質が濃く反映されるため、1クラスに前衛職は何名までなどいう細かい規定があるそうだ。


「緊張してるの?」

「うん……」


 大きく長い溜息をついて不安げに姫奏を見つめる千雪。


「大丈夫だよ、ちゅき。授業終わったら一緒に帰ろうね」

「うん」


 心惜しげに千雪は背を向けて一番奥の教室へ歩いて行った。


「さぁ、わたしもこれから頑張らなきゃ……おはようございます」


 千雪を見届け、教室に足を踏み込み、第一声を上げる姫奏。

 教室は途端に静まり返る、まるで湖畔の水面のような静寂。

 教師が適当に編入生の姫奏だと進行し、用意されていた席へと歩み、鞄を机の上に置く。


(皆知らない人、しかも年上ばかり……皆強いのかな?)


 しかし、姫奏の期待に膨らむ楽しい授業風景は、蓋を開けてみればろくでも無いものだと気づき始める事にそう時間はかからなかった。


 スキル理論など教養の授業は、他人の口から勉強することは大事だと理解しても、マニア城で手に入る知識が大半で、学園で学ばなくてもいいのではないかという思いが強く……。


 魔力の実力検定は、射撃訓練場のような場所で、片腕を的に掲げ、片手をグリップで捕まり、集中することでどのjob職業でも正確な魔法攻撃力と正確さを測定する。

 魔力倍率補正が極小のホーリーライトだから目立たなかったが、実際の数値は測定不能のS級と診断され。

 測定ミス?と疑われて何度もやらされる羽目となる。


(何回やらされるんだろ……いい加減、疲れてきた……)


 一回試行する度に、反動で腕がしびれる、にも関わらず全弾必中の正確さ。

 教師には当然褒められ、まだ顔も名前も知らないクラスメートにも囲まれることになる。


 模擬戦の授業でも、姫奏のホーリーライトによる戦闘と自己支援・自己回復の出来る特殊なスタイルは異質で、更に格闘マニアである外組偽げっくい老師と日々手合わせしている姫奏にとって、同級生程度の格闘レベルは言ってしまえば子供遊び。

 上級生にも劣らない優等生ぶりを発揮し、あっという間に目立つ存在となる姫奏。


 放課後、約束通り二人で帰る姫奏と千雪。


「学校、結構余裕だねー、高等部のつなぎみたいなものだからかなぁ」

「そうだね……」

「ちゅき……?」


 何事も無く終わったと思ったのは初日だけだった。

 入学から数日たち、既に新しい校舎も制服にもトキメク事もなくなった頃。

 姫奏はこの学園の闇の部分を知ることになる。

 それは、自分でなく千雪の身に起きていた。



 ダァンッ!! ダァンッ!!

 訓練室に轟く音は、攻撃スキルによるものだった。


「私新しい魔法覚えたんだ~ちょっと威力試してこようかな~、御徒原さん、よけないでね~」

「ヒデーw もううってるじゃんw」

「あかなめに襲われて死なないくらいなんだからこれくらい平気だもんねー?」

「キャハハハ……こいつこんな弱エェのに良く、生き残れたなぁ」

「あかなめも気づかないくらい影が薄かったのかもねー?」

「ハハハハハハハハハ……!」

「……」

「次俺いきまーす!! いいか? これは前衛職の為の特訓だからな? ありがたく思えよ?」

「やれやれ~!」

「……」


 ボロボロの千雪を見つけたのは授業が終わり下校するときだった。


「な……どうしたの? ちゅき!」

「なんでもないよ、だいじょうぶ」

「……ちゅきが大人しいからって!!」


 とっさに仕返しに向かおうとする姫奏を止める。


「姫奏ちゃん……いいんだよ」

「なんでさ、そうだ、傘つかえばいいじゃない、なんで使わないの?」

「大事な傘だから、学校に持ってきたら盗られたら嫌だから……」

「くっ……」


 確かに、千雪の傘は高価なものでこんな荒れた学校に持ってきたらあっという間に盗まれるだろう。


「じゃあ……どうすれば……」

「私が強くなって、耐えれるようになればいいんだよ」

「それじゃ……結局やられたままじゃない!」

「剣士は壁職だからね……」


 間もなくして、千雪は学校に行くことを辞めた。

 このイジメの原因のなかには、強すぎる姫奏にうだつの上がらない生徒が腹いせに千雪に八つ当たりするものも多く、自らが原因で姫奏に迷惑を掛けるわけにもいかず、軌道に乗り強くなっていく姫奏の成長を阻害する事を恐れた事が理由にだ。

 それは千雪の思い込みも含まれているのだが、性格上状況を上手に伝えることも出来ず、いっそのこと登校拒否をするほうが良いと判断した。



 千雪のいない通学路は酷く長く感じる。

 物思いに耽ながら歩くには十分すぎる距離だった。

 最初は輝いて見えた校舎も、冷静に見てみれば落書きはあり、ゴミも散乱している。



(それでも、わたしは……この学校に通わなければならない……)


 姫奏が学園に留まる理由は、この学園の設立者アン・シャトレーヌの存在のためだ。

 あの事件以来、姿を眩ましているアン、彼女の手掛かりがこの学園にはあると考える姫奏は、どうしてもこの学園から離れるわけにはいかなかった。


 校内に入れば、今はもう姫奏に声を掛ける者もいなくなっていた。

 教室への曲がり角、そこを曲がろうとした時背後から声を掛けられ足を止める。


「八祇間さん、あなた生意気よ」


 突然声を掛けられて振り向けば、そこには一人の女生徒がいた。制服の色が違うので先輩だとわかる。


「何がですか? わたし、先輩に何かしましたか?」

「貴女、治癒職ヒーラーの癖に、外の世界では随分レベルの高いモンスターを倒しているそうじゃない?」


 中等部からは自由に外の世界に行き来できるようになるため、一人で狩りに行ける生徒やパーティーで必要とされるjobはスクールカーストの上位に君臨する。

 逆に一人で戦うことの出来ない生徒や、職業上パーティー向けでないスキルを覚えている生徒は下位にされる。


「治癒職は治癒職らしく、魔術師の真似事なんかしないで、後ろで支援しとけばいいのよ、わかる?」


 昔から同じことを言われ、耳にタコが出来そうだ、この世界ではjob職のもつ役割を頑なに守ろうとする頑固者が多すぎる。

 治癒職でありながら、戦闘も出来る姫奏は、カースト上位の人間には目障りなのだろう。


「わからないですね、わたしのホーリーライトのほうが魔法使いのスキルより強かったから、実戦訓練で生き残れたわけですし」


 姫奏は普段見せる表情と違い冷淡に、嫌味の入った言葉で言う。


「な……私達魔術師より貴女の魔法が強いですって!?」

 先輩女生徒の言葉に、呆れた表情で溜息をつく姫奏。

「なんなら、模擬戦でもしましょうか?」


 程度の低いいざこざにうんざりしていた姫奏は、公の場で実力を証明しておこうと思った。

 女生徒は安い挑発に簡単に乗ってくれた。

「わかったわよ……昼休み模擬戦室に来なさいよね……」


 昼休みになる頃には、飛び級聖職者姫奏と上級生魔術師との模擬戦の噂は瞬く間に生徒達に広がり、一種の観戦試合が始まった。


「よく逃げないできたわね、ほめてあげるわ」


 如何にもな三下の台詞に笑って挑発を続ける姫奏。千雪に会えなくて鬱憤が溜まっているのかもしれない。


「先輩こそ、治癒職ごときに魔法で負けちゃうかもしれないのに良かったのですか?」

「な……」

「わたしのヒールでは、身体の傷は治せても、心の傷は治せませんよ」

「き…き…き……しねぇ!!」


 激昂し魔法スキルの詠唱を始める先輩。

 ……遅い。

 恐らくは、これでも十分速い方なのだろうが。彼女のスキル詠唱は姫奏に、「その隙にホーリーライトを撃って瞬殺しようか、待ってみて相手の初撃をとりあえず様子見してから反撃をしようか」と考える余裕が作れる程遅い。


(中等部でもきっとレベルは高い生徒なんだろうけど、なんだろ……今時の魔術師は皆この程度なんだ。アンが衰退したと嘆くのも分かる気がしてきた)


「……ホーリーライト」

「うぐっ……ツ!?」


 魔術師のスキル詠唱中に放ったホーリーライトは相手の脇腹を突き、衝撃で後ろに倒れかけるが、なんとか踏ん張り持ちこたえる。

 ギャラリーは、素早い詠唱のホーリーライトの威力に歓声をあげた。


「次の次の攻撃で終わりかな、デュロックと同じくらいか」


 今の手応えで確殺数もだいたい把握し、余裕を見せる姫奏。

 しかし、相手の詠唱中にダメージを与えたことで、スキルを止める事に成功したと思い込んでいた姫奏に魔術師のスキルが発動する。


「フリージングエア!!」

「え……!?」


 周囲の空気を凍らせる程の冷気を作り上げ相手を凍結させ身動きを封じるスキルで、攻撃と拘束を兼ねた大魔法が発動し、姫奏の手足が氷に覆われていく。


「魔術師をなめんな!! サンダー……!!」

「ホーリーライト!!」


 反撃に驚愕したのは魔術師の先輩の方だった。


「な……なぜ凍らない……」

「びっくりした……詠唱が途中で止められない方法もあるんだね」


 崩れ落ちうつ伏せとなって気絶する先輩魔術師、姫奏の勝利が決まった。

 ギャラリーの誰かが、「レベルとステータスの差だな……」と呟いていた。


(この試合をみて、少しでもホーリーライトの事が知れ渡って、アンの手掛かりに繋がればいいんだけど……)


 波乱の昼休みが終わり、教室に戻った姫奏。

 先ほどの試合の結果を見たクラスメートに自分の実力を見てもらえて関係が良くなると思っていた姫奏だったが、逆だった。


 学校中で編入生が、生徒会の人間に手を出したという情報が広まり亀裂をうむことになる。

 姫奏は孤立していった。

 その生徒会に姫奏が探す人物が滞在していることなど、今はまだ知る由もない。

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