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外の世界

 姫奏と千雪は街の出入り口に繋がる大きな門の前までやってきた。

 多くの冒険者が出入りする正門前には、警備員のおじさんが人々の行き来を見張っている。

 姫奏達も、他の冒険者達に続いて出ようとすると、おじさんが小さな子供の存在に気づいて呼び止める。


「ん? こら、きみはまだ小学生じゃないかい? ダァメだよぉ~看板読めないの? 小学生は外出禁止ってかいてあるでしょぉ?」


 立て看板が掲げられていて、そこには『モンスターが発生! 小学生以下は外出禁止!』などと書いてある。


「ここから外に出たらおっかないモンスターがでるんだかね、どうしても出たいなら大人の人とお出かけするんだよ、いいね!」


 子供に説教をする近所のおじさんみたいな口調で捲し上げるおじさんに、姫奏は得意気に通行手形を見せつける、学園中等部の学生証だ。


「わたしたち、飛び級生なんです、通っていいですか?」

「おお、飛び級さんか、すごいね。でも気をつけるんだよ、あまり遠くに行かないで暗くなる前に帰ってくるんだよ、わかったね。それから……」


 顔は怖いが心配性なのかいつまでもお節介が止まらないおじさんに、「おつかれさまですっ! いってきます!」と切り出して先を急ぐ姫奏だった。



「子供二人でここ出る人って珍しいのかな、すごかったね」

「ねー」


 この世界では、原則的には小学生以下は大人の保護対象とし、街の外を出ることは許されない。

 16歳からは成人扱いされ、モンスターを討伐することを生活にする冒険者になる。

(街の中で過ごす一般的な職業も存在する)

 中学生はその冒険者になる中間として、徐々に外の世界に慣れるために一部外出を許可され、モンスターとの実戦戦闘が解禁されるのだ。


 外の世界は、人間をみたらとりあえず襲ってくるモンスターが徘徊しており、当然のように死ねるファンタスティックな場所だと、学校では教わっていたが、今は一面の平野で見晴らしがよく、道路整備もしっかりされている。

 それに街の周辺だけあって人通りも多く、上級ダンジョンに挑む為の臨時のパーティーを募集する人がいたり、街で買い忘れた人の為にと道具屋が露店をだしていたりと、とても賑やかだ。

 近代的な普通の景色に、まだ特段に街の中と様子は変わらないが……。


「くぅ~~……」

「?」

「やったーーーーーー!! 外だーーーーー!!」


 急に立ち止まったと思うと、息を一旦とめ、大きく体を伸ばし喜びを表現する姫奏、彼女にとってそれでも外の世界は全てが新鮮だった。


「嬉しそうだね、姫奏ちゃん」

「そりゃそうだよ、中等部になれたらすぐにでも行こうって決めてたんだぁ! それにちゅきも一緒だしね! 最高だよ!」

「ふふふ、そっかぁ~」


 仲良しの友達と二人きり、お互いにこれから始まる新しい世界への旅立ちに期待で胸が踊るのであった。

 二人は、とりあえず人の少ない方へと歩いて点々と、木々が生える草原へ行き着いた。

 風にのって運ばれる草木の香りが心地よく、モンスターが現れる世界とは思えない穏やかさがある。

「ちゅきー、この花町では見ないよねー」

「そうだねー」

「ちゅきー、変なキノコあったよー、これってアサシンのjobの人に売るといいやつでなかったっけ?」

「あー。毒のスキルに使う材料で集めているやつだったかもね」


 草原を走り回り、何かを見つけては報告してくる姫奏に、ドックランに連れてきた子犬みたいだなと微笑む千雪だった。

 目を澄ますと、今なら姫奏の頭から犬耳が見えてしまう気がする。


「姫奏ちゃんって犬チックだよね」


 蟻の行列をみつけて(どこにでもいる)真剣に観察を始めだす姫奏に思わず思っていたことを口にする千雪。

 当然、なんだそれって表情で顔をあげると、姫奏も言い返す。


「そういうちゅきは、猫だよね」

「私が猫?」

「そうそう、にゃーんっていってみなよ~」

 迫る姫奏にもじもじと恥じらう千雪だが、開放的な外の世界でいつもよりは積極的になり、姫奏に反撃をしてみようと思うのであった。

「やだよ、恥ずかしい……でも、姫奏ちゃんがワンワンって言ったら言っても、いいよっ」

「わんわんわんーっ!! どうだっ!!」

「うわ……ほんとに言っちゃったし……」


 躊躇ためらいのない犬の鳴きマネだった、しかも満面の笑みでやられてしまい可愛すぎてかえってドキドキさせられてしまう千雪であった。


「次はちゅきの番だよ! にゃんにゃん言って!」

「うぅぅ……」

「にゃんにゃんだよ、にゃんにゃん♪」

 うつむく千雪を下から覗き込むように迫り、にゃんにゃん言え言え攻撃をしだす姫奏、本人がすでに出血大サービスのように可愛くにゃんにゃん言っている事に気づいていない。


「ちゅき~にゃんにゃん♪」

「もぉわかったよ、にゃんにゃん!」


 上目遣いでにゃんにゃん攻撃をやめない姫奏にさすがに耐えられず観念して猫の鳴きマネをする千雪だった。


「というか、なんか今日の姫奏ちゃんテンション高すぎだよ……なんかもう疲れてきたよ……」


 姫奏の可愛さにモンスターと出会う前にやられてしまいそうな千雪であった。


「え~、だってさ、12歳にして外の世界に到達した自分がなんというか……わたしってもしかして凄い天才なんじゃないかと思って……ふふふ」


 少しカッコつけてあさっての方向に向かって語る姫奏だった。


「それで自惚れて気合入っちゃってるの?」

「え……そんなわけないけど、ちゅきってケッコー毒舌だね!」

「え、そうかな……」


 お互いに、普段見せない一面を見せ合い、距離を縮め合うのを感じる二人であった。


「それにしても、モンスターすぐに出るとか言っていたけど全然いないね、つまんないんだけど」


 町からでればすぐに敵と戦えると思っていた姫奏にとって、昼間の草原は平和なマップそのものであった、このまま何も遭遇すること無くランチの時間になるのではと雲行きが怪しくなったその時だった。


「あっ! あれはヌメロドロでは!!」

「ほんとだぁ……いたね!」


 念願の初モンスターに遭遇する、〈ヌメロドロ〉はスライム系のモンスターで、正直最弱モンスターの代表選手なのだが、体内に餌を取り込んで溶かして食べる性質から、いろんな食べ物を食べることで結石がたまり、作られた結晶が実は優秀な素材として重宝され高く売れる。

 そんなわけで熟練の冒険者から初心者まで一攫千金狙いで倒されまくっている。

挿絵(By みてみん)


「えいっ!!」

「えっ……姫奏ちゃんなにしてるの!?」


 いきなりホーリーライトで倒すと思っていたところ、おもむろに、ヌメロドロの体内に手を突っ込みだす姫奏の奇行に驚く千雪。


「いやぁ……中身ってどんな感触なのか、きになって……」


 透き通り美味しそうなゼリーにも見えるヌメロドロ、それなのに普通に動いているときは泥も砂もつかず綺麗な謎の生体、姫奏は普段からこいつの表面の触り心地や内部の感触が気になっていた。

 腕をツッコミ、ぐにゅぐにゅとした感触を味わい不思議な感覚に悶える姫奏だった。


(あ~……こんな感じなんだぁ……)


「早く手を抜かないと溶かされちゃうよ!」

 余裕の姫奏に一人焦る千雪。

「そんなすぐに溶けないんじゃない……あ……」

 そう言いながら抜いてみると、腕が腫れぼったく赤くなっていて、結構ショックを受ける姫奏であった。


「ほらあ!」

「いやぁ……油断したね」

 火傷みたいになってしまい、フーフーと息を吹きながらヒールで治療する。

「女の子なんだから、肌とか気をつけないとダメだよ」

 もうやらないよと、心配して怒る千雪に身振りで謝る姫奏。

「ははは……あっ! あれ……なんだっけ……変なモンスターでた! って思ったらしんだっ! なんだいまの!」


 突然出現したモンスターだが、すぐにその場でバラバラになり消えていった。


「あれは……プリモちゃんだっけ? 何しに現れたんだろ、変なモンスターだねー」


 〈プリモちゃん〉不死アンデットモンスター、ゾンビなので体が腐っていて人を見つけて襲うために歩くと、踏み出した衝撃で崩壊するという脆すぎる雑魚モンスター。

 顔が昔流行ったおもちゃの人形に似ているからこの名前がついたらしい。


 その後も草原を探索してまわり、今日だけで10種類くらいのモンスターと出会い、戦うことが出来た。


 そうしていると、お腹が空いてきて昼の時間にすることにした二人。


「姫奏ちゃん……それなに?」

「ん? 昼ごはんだけど」

「え……それが昼ごはんなの?」


 例の粉を溶かしたものを水筒に入れてきて、喉を鳴らしながら飲む姫奏を不思議そうにみる千雪。

 謎の液体を飲む姫奏に、他に固形のご飯はないのか見渡すが、当然無い。


「昼ごはん終わり!」

「え? 終わりなの?」


 まさか、本当にさっきの謎の液体が昼ごはんだとは……と目を丸くしながら衝撃を受ける千雪だった。


「そうだよ、だってご飯食べてる時間もったいないじゃない、早くモンスター狩りの続きしたいしね!」

「そ、そうだね……私はまだ食べてていいの……?」

 というか、弁当箱すらまだ開かないでいる。

 それを見て姫奏はドヤ顔で語り出す。

「ほらね! これだとすぐ終わって時間の無駄がないんだよ! ちゅきも今度からこれにするのをお勧めするよ」

「うん……、考えておくね、姫奏ちゃんは適当に狩りしてきていいよ」

(おなかすかないのかな……あれで……)


 千雪が敷物をひいて、お弁当箱を広げゆったりと昼食を食べ始める。

 ポカポカした陽気な昼模様に、ピクニック気分で和む千雪をおいて、姫奏は忙しなくモンスターを見つけては倒しまくるのであった。


(本当にわんちゃんみたいだなぁ……可愛い)


 子犬が蝶々を追い掛け回している姿にそっくりで、はしゃぐ姫奏を見ながら食べる昼ごはんもいいものだと幸せな気分になる千雪だった。


 突然あっと喜ぶ声をあげる姫奏、レベルが上がったようだ。

 さっきよりホーリーライトの光が明るく感じる。


「ちゅきー、レベル上がったよ! あとポイント帳凄いことになってるよー」


 遠くまで狩りに行ったと思ったらすぐに戻ってきて“ポイント帳”を見せてくる姫奏。


 ポイント帳とは、正確には〈携帯型個人情報端末〉と呼び。モンスターを倒すとその強さに応じた経験値がポイントとして更新されていく仕組みの機械だ。

 そのポイントを換金することで、冒険者は生計を立てていく。


「わ~、ずいぶん稼いだね~、姫奏ちゃんだけすごい量あるんじゃない?」

「このまえのあかなめが凄いポイント高かったみたい」

「そうだったんだ~」


 すると、思いついたように姫奏が提案する。

「そうだ、わたし、このポイントで剣とか買ってあげようか? ちゅき剣士のjobなのに剣もってないじゃん」


 初任給でプレゼントを買ってあげるよと意気込むみたいに、ぶんぶんと剣を振る動作で煽る姫奏。


「え、いいよ、自分でそのうち買うよ」

「その内とか言ってたら絶対買わないよ、あかなめはちゅきと一緒に倒したんだから、このポイントはちゅきの分でもあるんだよ!」

「そっかぁ……」

「剣ってかっこいいよね、わたしは聖職者だから持ったらダメってことになってるけど、持てるならわたしも剣で戦いたかったんだ~」


 持っても罰則があるわけではないが、Job職業には得意武器がある、それはスキルの関係で剣士のjobなら剣をよりうまく扱えるというボーナススキル剣修練などがあり他職と差が出る様になっている。

 姫奏の場合、自分が使いたかったから、かわりに千雪に剣を持たせたいだけにも思える。

「じゃあ、買いに行ってみようか」


 姫奏の気持ちを勘ぐり、午後からは街に戻りショッピングをすることになった。






 外の世界から戻り、ショッピングモールのある繁華街にやってきた二人。

 真ん中にはなぜか大きな椰子の木のオブジェクトがある。

 とても広く、色んな店舗が並んでいて人も多く、迷子になりそうだ。


「正直、初めて来たからどこに何があるかわかんないね!」

 わからないことを自信ありげに告白する姫奏。実は、マニア城では過保護に言えば誰かが買ってきてくれるお嬢様状態だったので、こうして買い物に出向くのは初めてだったりする。

 店先のショーウインドウや買う予定もない適当な店内に潜り込んではウインドウショッピングを楽しむのであった。


「ちゅきー、この服可愛いんじゃない?」

「ほんとだー、いいね」


(武器買いに来たんじゃないのかな?)

 食事の時間を惜しむ割に、買い物の余暇に時間を潰していく姫奏の姿に女の子らしさを感じる千雪であった。

 目的の武器屋にたどり着く頃には、夕方になっていた。


 武器屋SORANO、この町一番の大きな武器屋である。

 店長は、商人のjobでも有名な鍛冶スキルをもっており、彼の作る剣はファンが多い。

 店内には、剣を始め、槍や斧、魔法系jobのために杖など色とりどりの武器が取り揃えていた。


「杖も色んな種類あるんだねー、白薔薇水晶の杖……500万円! たかっ!!」


 目玉商品だろう、女子が好きそうなピンク色の柄に、キラキラと輝く大きな水晶がやたらと眩しかった。

 杖も、人間の身長以上長い杖や、コンパクトで持ちやすい短い杖など使い手の好みで様々なサイズがある。

 自分のもっている蓄積杖の値段がきになるが、杖コーナーも相当広く探せなかった。


「杖はいいや、剣を見に来たんだもんね」

(あ、覚えてたんだ……)


 寄り道が激しすぎてもう忘れているのかと思っていた千雪であった。

 剣コーナーでも長剣ロングソード短剣ショートソードなど分けて飾っていて親切な店だと感心する。


「あっ、これかっこいいよ! 長い剣!」

 強さの性能でなく、見た目のかっこよさで決めようとする姫奏、もちろん使うのは千雪なのだが、お構いなしに勝手に取り出しては即断する。

 千雪は、黙って見ているしかなかった。


「おじさん、この剣ください!」

「ん? お嬢ちゃん聖職者だろ? え、使うのはそっちの女の子? う~ん……でもまだレベルが足りないかな? 買っても装備できないけどどうする?」

「えー、そんな制限あるのー!?」

「ははは、安全上ね」


 強くてかっこいい武器は高レベルにならないと使えないと学習した姫奏であった。


 結局何も買わず店を出る姫奏、欲しいもの以外は買わない主義だ、使うのは千雪なのだが。

「装備出来ないなら、買っても意味ないもんね、美競刃のコレクションで一個もらえないかなー」

 マニア城で炊事班をしている茎放美競刃けいほうみけいばは刀剣マニアで、自らの剣を日常的に使いたくて料理を始め、今ではむしろ料理マニアみたいな扱いにされている。

「そこまでしなくていいよ、それに剣があっても使わないかもしれないし」

「えーっ! なにそれ、狩り嫌いなの? 楽しいのに、剣士なのにもったいないよ」

「狩り楽しそうだったもんね」

「レベルが上がる度に、ホーリーライトが育っていくのを実感できて楽しいよ」


 蓄積杖を振りかざしてイメージを伝えてくる姫奏。


「ホーリーライトが育っていくの? 姫奏ちゃんじゃなくて」

「うん、この子がね」

「この子?」


 不思議な事を言うなという顔をする千雪に、姫奏は優しい表情で語り始める。


「わたしにとっては。この魔法が子供で、世話の焼ける子ほど可愛いっていうか……、っていうか、ちゅき言ってくれたんだよ?」

「私が?」

「うん、わたしに育ててくれるために生まれたんだねっていってくれたじゃん」

「あ~、言ったね」

「それから……なのかな? 余計にこの魔法ホーリーライトが好きになったのは」

「そうだったんだ」


 日が沈みかけた黄昏を背景にしみじみと想いを口にする姫奏。

 お互いに初めてあった日の事を思い出す。

 感傷にひたっていると、姫奏が急に立ち止まる。


「……というわけで、わたしはもう一度狩りにいってくるよ!」

「これから? もう夕方だよ」

「うん、だからだよ。ちゅきはもう家に帰っていいよ、今日は付き合ってくれてありがとう! じゃあね!」


 千雪の返事も待たず、そう言って駆け足でいってしまう姫奏。

 日が沈むとともに、繁華街の人混みにまみれ消えていく。


「……いっちゃった」


 置いて行かれて、少しさみしい気もするが、姫奏の場合一人でレベル上げをするほうが効率的なのかもしれないと勝手に納得し千雪は帰路につく。


(自分の子供か……)


 千雪はまだ、姫奏に両親が居ないことは知らない、姫奏の家族に対する特別な想いが自らの魔法に反映され他人には想像の付かない深い愛情がホーリーライトにかけられている事など、今はまだ知る由もない。



〈白薔薇水晶の杖〉

カラー・デザイン全てが女性的で持っているだけで美少女魔法使いになれる、可愛い自分を演出出来る杖。

性能も高く、全ての属性魔法に合わせて水晶が形状変化し、末永く幅広く使える一生品、武器屋SORANOオススメの品。



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