マニア城の姫奏
以前投稿していたもの改稿して見ようと思って温存していたのですが、そのままお蔵入りになりそうなので以前のまま再投稿します。
初めて書いた文章のままなのでかなり見づらいですが、自分自身の歴史的資料としてこれはこれでありなのかな、と。
鉄道マニア、刀マニア、歴史マニア、ゲームマニア、切手マニア、深海生物マニア、工場マニア、占いマニア、育成マニア……。
この世界には、様々なマニアがいる!!
一般人から見れば、風変わりな事に夢中になっている変な奴ら。
だが、一つの分野にとにかく夢中になり、熟練したマニアはプロをも超えるスペシャリストになる!
そんな型破りなマニア達が集う共同住居、マニア城!
個性的で纏まりのない彼らをまとめるのが、城主かみやふくべえ。
この世界のあらゆるマニアを熟知したと言われる変態中の変態、どんなマニアも一目置くマニア界の神、けてマニアと呼ばれる男だ。
マニア城は人里から離れた美しい自然の森の中にひっそりと建てられている。かみやふくべえは自然環境マニアとして自然を友としマニア的活動を行うにあたり思索の対象として成長していける環境にとこの地を選んだ。
城の外遠くに望める山や川、森と林、田園風景は幼い姫奏にとって物理的な自然環境をもたらした。
そして、室内空間はかみやふくべえのインテリアマニアとしての拘りから、内装や備品に至るすべてが極めて独創的かつ変化に富んだ物が用意され刺激を受容しながら成長することができた。
そんなマニア城で生まれ育ち浮き世離れした生活をおくったため、立派なマニアとなった少女、八祇間姫奏。
希薄で澄んだ光、一片の純白の羽毛が舞っている。
名も知らぬ鳥が残した唯一の記憶の断片。
太陽から淡い陽射しが漏れる。
暖かで柔らかな日差しが、安らかな寝顔の少女を包み込むように降り注ぐ。
(朝……)
写真立てに入れてある写真にいる人物は少女と初老の男。
(おはようございます、ふくべえさん)
洗面等身支度をして朝の登校準備をする。
食堂の方から同居人の男の呼び声が聞こえる、着替え終わり同居人が集う食堂に向かう。
マニア城の食堂は、同居する全ての住人が一堂に会する事が出来るようにと広く開放的に作られている。といっても、住人たちが全員同じ時間に集まることは稀で長年住んでいる入居者でさえ実際に顔を合わせたことがないなんてざらである。そんなマニア城の食堂の朝で、姫奏と生活する時間帯が被る人物は3人。
「姫奏~朝食はちゃんと食べていけよ!」
「もう時間ないし、これで十分だよ」
姫奏と対話する男、見た目は20代後半くらいの青年、名前は茎放美競刃。
そして姫奏が言う“これ”とは粉末状の栄養素を水に溶かして飲むというお粗末なもの。これさえ飲めば一日の必要栄養素を補えるため。彼女にとっては食事の代わりになっている。
生きていくために最低限必要な栄養を摂取できるとはいえ、普通は何の病気もない成長期の子供が進んで飲むようなものではない。
食事とは単に栄養を摂取するだけではなく、食べ物の味や見た目を愉しむ行為でもあるからだ。しかし姫奏にとって食事とは栄養を補うためだけの行為だと割り切っている。
「よく、飽きずに毎日それで暮らしていけるねぇ……」
「美競刃が色んな味用意してくれているからね」
姫奏の事を思って、フレーバーを色々用意してあげたことが仇になったと後悔する。
食事を取る時間があればその時間を割いてでも本を読んだりレベルを上げていたりしたいという姫奏、ここマニア城の住人は基本的に個性が強く、それでもわがままをいう住人は今まで無視して食事を提供してきた茎放美競刃だったが、姫奏があまりにも食事をないがしろにするので、苦肉の策で“飲むだけで終わる食事”に至ったのだ。
「それは、俺が作った非常食だろ……、そんなこと言っていたらもうそれ作らないからな……」
「それは困る……美競刃はいつも意地悪言う……」
このマニア城と呼ばれる共同住宅で食事を提供する炊事班の役割を担うのが茎放美競刃と呼ばれるこの男で、姫奏とは年の離れた兄弟のような存在で毎日の様に食事の重要性を親代わりに説いている。
「なに寝ぼけたこと言ってるんだよ、いいから食ってけ!」
ご飯、味噌汁、サラダ、鮭、玉子焼き……。
バランスの良い理想的な朝食、こんな手料理を毎日作れる出来る男が茎放美競刃さん。理想的な主夫になること間違いなし! だがしかしなんとフリー! 狙うなら今!
「こんなの食べてたら遅刻しちゃうよ……」
不満を垂れる姫奏をピキピキと血管を額に浮かばせ恐怖の笑顔で包丁を輝かせ威圧する美競刃。他の同居人の食事も作っているので朝は忙しいのだ。
姫奏の隣には、別の入居者達が食事をしている、食べるのが遅い姫奏と自分の食事を見比べて、老人の同居人が不服な顔をする。
「ワシのご飯無いのか?」
空の茶碗をつき出すが、口の中には明らかにいま食べたであろうご飯が入っている。
「おじいちゃん今食べてるじゃない」
なんだと! と怒りだそうとする老人を止めに入るこの老人を介護する別の同居人が素早く間に割って入る。
「外組偽さん、お茶飲みましょうね~。あ、こっちにもおかずありますよ~」
素早く食べ終えた皿を隠し、なれた手つきで気を逸らす。
10秒前の記憶すら残せない認知症の進んだ老人、閤昊外組偽さん、髪は殆ど無い白髪のおじいちゃん。
これでも昔は凄い武闘の達人で今も若い頃を思い出しては暴れることがある。
ひ孫くらいの姫奏を見て同級生といってきたり、介護士を息子と言ったりすることがある。
普通の老人ホームでは暴れたら対処できず、迷惑行為になるため入居できないと言われ最近マニア城に入居することになった。
その外組偽さんを介護するのが同じマニア城の同居人の艦愈血鬼移さん、30代くらいの優しそうな人、顔は理由あって見せてくれない。
血鬼移さんはマニア城と地域社会を結ぶ架け橋として頑張っている役所勤めの人で社会福祉士の資格をもっている。このマニア城では珍しく“安定した職”の持ち主。
同居人に絡まれながらも食事を済ませて大広間を抜けて玄関に向かう姫奏。
玄関を見守るように大きな肖像画が掲げられていて、その肖像画の人物こそ、この大きなマニアの城を立ち上げた人物――“けてマニア”かみやふくべえ。
総勢22名の入居者がルームシェアのように同居するこの家はマニア城と呼ばれ、粗末だが趣があり風変わりなことに夢中になった人たちが集まっている。
家主のかみやふくべえは世界を駆け回るマニア界の頂点“けてマニア”と呼ばれる人物で本拠地であるこのマニア城にさえ滞在している期間は短く殆ど会える日はない。
老人から若者まで様々な入居者がいるマニア城で唯一の女性にして最年少――八祇間姫奏12歳。
偏食の為か背は普通の小学生の平均身長より低めで135㌢ほどしかない、髪はブロンドのロングヘアー。
彼女の親もマニア城の住人であったが、姫奏が幼いころに死去しその時の遺言により以後かみやふくべえが養子として育てていくことになった。
姫奏にとっては、かみやふくべえは本物の親であり、世界一尊敬する人物といえる。
物心付く前に両親を亡くし、記憶も残っていない姫奏だが寂しい気持ちは特になかった、同居する沢山のマニア達から娘や妹のように大切に可愛がられ育てられていったからだ。マニア城のお姫様として大切にされ過ぎた…とも言えるが。
いつもより朝食に時間がかかり小学校の門限まで急いで小走りする姫奏だったが、通学途中に自分と同じ制服の少女が【犬】を目の前にたじろいでいる姿を見かけた。犬は見た目こそぬいぐるみのような可愛い子犬だが、本質は全く別物。
――ヨークサイテリアと呼ばれる世界一臭い特殊犬。甲高い鳴き声でとにかく猛烈な臭気を放っている、アンモニア臭とも、薬品臭とも言えぬ不可解な臭い。とても耐えられるものじゃない。
「なんでこんなところにヨークサイテリアが…」
その悪臭故に第一種隔離生物に指定されている危険な動物。
爽やかな朝を一転して嫌な気分にされる匂い、たじろぐ少女の様子を伺う。
【犬】を目の前にしているからかも知れないが彼女は蒼白で全てが純白で美しかった。朝露に煌めく霧氷のような銀髪が揺れるだけで目の前の悪夢を忘却してしまいそうだ。
「あ……早くしないと学校に遅れちゃうよ! ちょっとそこの犬! 私達ここを通らないと学校行けないんだよね……通してよ!」
無駄だとわかっても思い切って犬に話しかけてみるが、一向に退く気配はない、むしろ人間が匂いで苦しんでいる姿を喜ぶようにクルクルと回転しだすヨークサイテリア犬。性格は最悪なようだ。
『ブールルルルル……ムニムニ』という謎の鳴き声をだすのがこの犬の特徴。ムニムニという言葉が好きで迂闊にムニムニ言うとコイツに好かれちゃうので気をつけよう!
「はぁ……こんなことなら傘持ってこればよかった……」
銀髪の少女がそっとため息をついてつぶやく。
「傘?」
そのつぶやきに相槌する姫奏だったが、銀髪の少女は慌ててなんでもないです……と言葉を遮った。
どうすることも出来ないまま、諦めて遠回りをしていこうとする銀髪の少女だったが、姫奏は十字架が先端についた綺麗な杖を取り出し魔法の詠唱の構えを見せた。
「大丈夫……私に任せて! えいっ! ホーリーライト!!」
姫奏が魔法を唱えると、杖から眩しい光が発生し、驚いたヨークサイテリアは一目散に逃げていった。
『キャウ~ン……ムニムニィ~』
「すごい……魔法が使えるんだね!」
目の前の脅威を追い払い緊張感が抜け自己紹介を始める。
「えへへ、凄いでしょ♪ 私は八祇間姫奏、6年生だよ」
「私は御徒原千雪……同じシャトレーヌ学園の6年生……姫奏ちゃんって魔法使いだったの?」
ヨークサイテリア犬を追い払った先ほどの閃光を思い出し尋ねる千雪。
「私は、聖職者だよ」
――聖職者、千雪はそのjobについては勿論知っているが、腑に落ちない表情を浮かべだすのがわかる、原因は姫奏自身が一番知っている。
聖職者というjobは仲間の支援に特化したjobで、様々なサポートスキルを使いこなし仲間を強化したり回復したりする支援職である。
「聖職者って…攻撃魔法持っていたの?」
……姫奏の予想したとおりの疑問を振りかけてくる千雪。聖職者が敵と戦う場合は基本的に自身を強化して殴る場合と仲間をサポートして戦うしか手段はないと思われているのが世の現状だ。
「一応攻撃魔法はあるんだよ、皆はただ光るだけの“照明魔法”だと思っているだけで……けど私はこの魔法が好きなんだ、支援するより自分で戦いたい方だしね」
姫奏の使う魔法〈ホーリーライト属性:光〉
現代文明の発達によって完全に過去の産物となったか弱き光魔法である。千雪も名前だけは知っていたが実際にそれを攻撃魔法として使用している人物を見たのは初めてだった。それだけに驚いていた、本来このホーリーライトという魔法は周囲を照らすくらいの力しか無く精霊レベルの弱い悪霊を追い払う程度の微弱な攻撃魔法だからだ。
「ただ光るだけなんてとんでもないよ! 姫奏ちゃんの魔法、すごい輝きだった、私初めて見た時ホーリーライトだと思わなかったよ」
今まで大人しかった千雪が初めて覇気のある声をだした、その表情は今までヨークサイテリアによって暗く不健康そうに見えていたが、今は無邪気な喜色に溢れる、それだけ感動しているのだ。
その姿を見て、姫奏は目の前の霧が晴れたような気持ちになっていく。
「この魔法はね、攻撃魔法としてはどの魔法よりも弱いけど、しっかり育てていけば、ちゃんと強くて使える魔法になるんだよ。 私は、証明してあげたい、どんなに弱くてもしっかり育てていけば強くなれるってことを…」
静かな口調の中に、只ならぬ決意と意志を千雪は感じていた。
「すごいね、この魔法は姫奏ちゃんに育ててもらうために生まれてきた魔法なのかもね」
「……えへへ、ありがとう」
お互いになんだかくすぐったいような気持ちになっていると、遠くで学校のチャイムがなった。
「あ、遅刻だ……」
「遅刻だね……」
駆け出す二人、姫奏が聖職者らしく速度増加の魔法をお互いにかける。
「足が早くなった」
「一応聖職者だからね、早くなる魔法だよ」
「へぇー、すごいね」
速度増加のお陰で校門を通過でき、無事に学校に入ることができた二人。不意に姫奏が質問する。
「ちゅきってさ、何組なの?」
「……1組だよ。ちゅき?」
突然のアダ名に戸惑う千雪に説明を続ける姫奏。
「ちゆきだから……ちゅきでしょ?」
頭の上にまるで吹き出しを用意したようにひらがなを書いて説明する姫奏。その仕草に「なるほど」と納得する。
「私は2組だから隣だったんだねー、じゃーねっ ちゅき!」
「うん、……またね」
教室に入るともうすでに1時間目が始まり遅刻を先生に怒られながらも、二人は穏やかな気持でいたのだった。
「初めて……私の魔法に感動してくれる子と出会えて嬉しいな…」
「ちゅきか……初めてのアダ名……八祇間姫奏ちゃん……自分の魔法を大事に育てる人……あの子なら……」
27年5月27日彼岸明様より頂いた、姫奏ちゃんのイラストです。
【初回掲載日時】
2014-12-17 10:48:23