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季節感の喪失

作者: 光日曹長

ある冬の日、目が覚めたのだがある違和感に襲われた。

体にまとわりつくような違和感。

それがなんなのか小一時間布団の中にもぐって考えてみたが、何もわからないので、外へ出てみることにした。

別段、街の風景も、友人達も、ルールも、変わったところが見られなかった。

しかし、ある一点だけ、今までとは明らかに違うところがあった。季節の名前が変わっているのだ。

夏は冬に、冬は夏にと、季節の名前とその気候が正反対になっているのだった。しかしどういうわけか、春と秋はそのままらしかった。

元の状態に戻す手段はないが、ただ季節の名前が違うだけで特に不便もないので、このままこの世界に定住することにした。


テレビから聞こえてくる「夏」という単語。

それとは裏腹に凍えそうな寒さ。この状況と未だまとわりついたままの違和感には頭がおかしくなりそうだったが、なんとか生活を続け、季節が逆転してから幾ばくかが経った日に春一番が吹いた。


その春一番を体全体で受け止めてからあることに気づく。あの違和感が無くなっているのだ。それどころか、今まで何かが変わったはずなのに、その何かが思い出せない。とてつもなく大きな不安に包まれ、朦朧とした意識のままふらふらと自室に戻り、布団を被った。考えても考えても答えは出ない。春一番が吹いたとはいえ、まだまだ寒い。

が、部屋の中は暖房により暖められており、なんとも過ごしやすい気候になっていた。


布団にもぐって10年がたった。

彼は何も思い出せない。

あの春一番の後、寒ければ暖房を、暑ければ冷房をつける生活を繰り返した。これでは季節も何も関係ないので、季節の名前が変わったことなど思い出せるはずもない。


そのまま彼は、何も思い出せずに死んだ。

死ぬ少し前から、彼の頭から「季節」とか、「気候」だとかいう言葉はすっかり忘れ去られていた。

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