買い物当番
マルタ産のウサギの肉と、カナダ産の生サーモンとを交互に見比べて、腕組みをしている少年が一人。よく日に焼けた細い腕を組みながら、仁王立ちして食材を吟味している。その肘の辺りには買い物カゴーー本日は買い出しの当番だ。
上手な店で、どれも美味しそうである。上の棚には合わせて買いたいハーブ類が並んでいる。少年にとってはウサギならセージ、サーモンならタイムを使うのが定番だ。
こっちか。それともこっちか。
迷っていると、他の客がカゴから売り場にバジルを戻して去っていった。メニューを変えたようだ。少年はまだ迷っている。ウサギとサーモン……。どちらにもあまり差がないように思えるので、店員に話しかけて相談に乗ってもらうかと思っていた矢先、棚の上からタイムがふわりと落ちてきた。それを目で追いかけると、まさにサーモンのーーそれも、少年が狙っていたシッポの方ではなくーーはらみの方へと、ぽとりと落ちた。キレイなサーモンピンクに、白いサシがたくさん入って、マグロで言うならこれは『トロ』の部位だ。
少年の背景に稲光が閃いた。
「こ……これは、もしやトロサーモンにしろってことなのか!?」
いや偶然か? いやしかし、手の届く価格設定だ。
そんな言葉を売り場でぶつぶつ呟きながら、少年はまずタイムをカゴに放り込んだ。サーモンに決めて部位の吟味を始めるのだった。