過去占い
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と、内容についての記録の一編。
あなたもともに、この場に居合わせて、耳を傾けているかのように読んでいただければ、幸いである。
ねえねえ、つぶらやくん。いきなりだけどクイズね。制限時間は五秒間。答えてもらえる?
じゃあ聞くわよ。あなたの一週間前の夕ご飯が何だったか覚えてる? 教えて?
――はい、時間切れで〜す。さすがにぱっとは思い出せなかったかな? そもそも覚えていない?
まあ、今まで聞いた中でも、はっきり答えられた人は皆無に近いわ。深刻にならずとも大丈夫よ。
――答えられた人はいるのかって?
ええ、何人か。さほど考えるまでもなく、すらすらと答えてくれた人もいたわよ。本当かどうかの裏は取っていないけれど、とっさにあれだけの情報を盛り込めるウソをつけるんだったら、たいした言いくるめの才能ね。
でも、私はね。本当に記憶がある人がいるんじゃないか、と探しているわけ。もしかしたら、私と同じようなことを体験することに、なりはしないかとね。
ちょっとその時の話を聞いてみないかしら?
あれは小学生の時。
私の担任の先生は占いや心理テストが好きな先生でね。授業中もしばしば脱線して、私たちに心理テストを出してきたのよ。中にはプリントを回されて、それに記入していくアンケート形式のものもあった。
私たちは脱線大好きだったから、たいていの授業では、やるべきことを早く終わらせて、この心理テストに早く取り掛かりたい、という気持ちがだいぶ強かったのを覚えているわ。
それらのテストの中で、今回取り上げるのが、「過去占い」のこと。
これはこれまでその人が取った行動によって、未来を占う方法らしいの。その過去占いで尋ねられたことが、「一週間前の夕ご飯は何?」だったの。
あなたに尋ねた時には言わなかったけど、先生の占いはすべて「わからない」とか「覚えていない」は許してもらえないの。必ず何かしらの答えを書くことを強制される。
先生がおっしゃるには、「『わからない』で放棄するなら、占いをしてもしなくても同じこと。記憶、思い出、引っかかり……それらをかき集めて、みっともなくとも形にしなさい。そうでないなら、もう八卦に時間をかける意味がないわ』とのこと。
だから私も一週間前の夕ご飯を、必死に思い出そうとしたわ。けれども、想定外すぎて手掛かりすら見いだせない。仮に、この場に親がいて、問いただしたところで正確な情報が手に入るとは思えない。
やむなく私は、自分の好物をバランスよく並べた、自分の理想の食卓を用意して、先生に提出したわ。
更に先生は、いつもはその場で発表してくれる占い結果を、後日に持ち越した。そりゃ、ほとんどアンケートのようなもので、レパートリーに富む。仕方ないかな、と思ったわ。
その後は平常通りに授業が進み、下校と相成ったわ。
帰り際。空は晴れていたのに、小雨が降っていた。最近では珍しい天気雨だったけど、ちょうど暑い日だったから、シャワー代わりにちょうどいい。
私はじっくり雨粒を味わいながら、家に戻っていく。他のみんなも、どうやら同じようだった。
今回の過去占い。翌日、個人個人に封筒が渡されるという、なんとも大仰なものだったわ
結果は他の人に見せないように、としっかりくぎも刺されちゃって、家に戻ってから封を開けてみたわ。
中身は三つ折りになった紙が二枚。一枚目にはでかでかと「大吉」と書かれていたわ。
「いずれあなたは、誰よりも、何よりも良い目にあうことでしょう」とも。
なにこれ、て笑っちゃったわ。そりゃ、占い結果は具体的に書かないで、受け取る側がどうとでも解釈できるようにしておくことがほとんど。それが、ここまで手放しでほめられると、嬉しい気持ちと同じくらい、うさんくさい気がして。
そして二枚目を見た時。うさんくささが、格段に増したの。
「これから七日間、過去占いに付き合って欲しい」とのこと。
――あ、これは絶対、マズい奴だ。
そりゃマンガだったらね、先生とマンツーマンで占いごっこをするとか、色々とドキドキするシーンでしょうよ。
けれど、その空間を現実に展開されたらどう思う? 同じドキドキでもマイナス方向にびんびん振れちゃうでしょ?
どうにか断った方がいいんじゃ、と思った。だけど、小学校の担任の先生となれば、ほぼ全科目をひとりで担当してくれる。機嫌を損ねるのはもちろん、顔を合わせづらくなると今後が怖い。
それでいて、「他の人には見せるな」と来ている。
女のうわさは怖い。「内緒でね!」とお願いしたところで、翌日にはその案件がクラス全体の共通認識と化してしまった事態は、一度や二度じゃない。
誰かに相談などしようものなら、絶対にどこかでボロが出る。それが先生の耳に入らないなど、楽観視にもほどがあった。
先生に付き合って、波風を立たせないのが、長期的に見ればメリットか、と判断したわ。
まあ、それに対して、短期の苦痛の方が楽だとは、口が裂けても言うつもりはないけれど。
私の過去占いは、授業が終わった後の視聴覚室で行われたわ。
占いの仕方も、みんなと一斉にやった、先の過去占いと同じ。いずれも一週間前にあった、何かについて尋ねてきたの。
晩御飯の他に、帰り際に何羽カラスを見たか、とか空き缶がいくつ落ちていたかとか、予め気を張っていなくては、答えられないものばかり。
当然、私が覚えているはずがなく、かといって無回答が許されるわけでもなく、どうにかそれらしい回答をでっちあげていくしかなかったわ。
でも、私の答えを見る限り、先生はご満悦の様子だった。それでいて変わらずに、「大吉」の太鼓判を押していく。「これから絶対、いいことあるよ」って。
何が根拠か分からず、一方的にもらうはなまる。嬉しくないわけじゃないけど、なんで個別でこんなことをするのかも分からなかった。
とにかく、一週間やれば解放されるんだ。私はそう信じて、どうにか我慢。
そして占いは六日目。幸い、あの過去占いをした日のことはよく覚えている。問題のない回答ができそうだった。
六日目の当日。先生は私に、先に視聴覚室へ行くように促して、いったん教員用のロッカー室に向かったみたい。ほどなく、ぴしっとしたスーツ姿をして視聴覚室に入って来たわ。
いつにない、気合の入りよう。中途半端な受け答えはできない。
私は椅子に座りながら、背筋をピンと伸ばして、質問を待ち受ける。今までの五日間と同じように紙が渡されるのをじっと待っていたけれど、先生は私をじっと見つめたまま、動かない。よく見ると、これまで持ち歩いてきた、プリント入りのクリアファイルの姿もない。
「この六日目の質問は、口頭で行わせてもらうわ。それによって七日目がどうなるか決まるから、よろしく。じゃあ早速――一週間前の放課後の天気は、どうだった?」
来た。ピンポイントだ。
よく覚えている。あの日は晴れた空にも関わらず、雨が降っていた。
「天気雨でした」
即答する私。それに対し、いつもは諾々と受け入れる先生が、少し眉を持ち上げて問い直してくる。「本当に?」と。
「はい、狐の嫁入りです」
「――オッケー。分かったわ」
先生は質問し直した時の、怪訝そうな表情を一気に崩して、とろけそうな笑顔を見せる。
「大吉。それはもう文句なしよ。それじゃ、明日からはもう来なくていいわ」
「えっ、七日目は?」と私は思わず聞き返してしまったけど、先生はこともなげに答えたわ。
「あら。先生は七日間とは言ったけど、七日連続と言った覚えはなかったわよ」と。
「必要になったら、七日目を用意するから。それまでに周りのことに気を配っておきなさい。最終日を迎えたら、きっとあなたは幸せになれるからね」
それから、先生が過去占いをしてくれることはなくなった。私はほっとしたけれど、少し引っかかることがある。どうして六日目の返答で先生は満足したのか。
私はこっそり友達に確認した。あの日の放課後の天気を。
覚えている人は、口をそろえて答えてくれたわ。
あの日は、一粒の雨も降らない、いい天気だったって。




