04話『ウサギ肉定食』
納得はいかないが、とりあえず大の男が女に抱えられて街中を歩くことになるというのは流石にマズイ。
というか嫌だ。
加えて言うと簀巻きにされてたから見えないとはいえパンツ一丁だったしな。
とりあえず先日の彼女には下で待ってもらうように言い、俺は宿の室内で準備を施す。
とはいっても大して荷物を持っているわけでもないので銃と服装の確認程度しかやることはないが。
「お待たせしました」
今日はあの女性に鑑定とやらに連れていかれるのだろう。
一体、何をされるのか全くの検討がつかないが、とりあえずは万が一の事があっても身を守れるようにはしなければならない。
「あぁ、来たね。それじゃあ早速行こうか」
「もうですか? 失礼かもですが、早すぎません?」
出来れば朝食を済ませたいところ……と思ったが、魔臓は残り15個。
節約するべきだろう。
「そうか……じゃまずは朝飯だな」
俺は頷くと彼女の後をついていくようにして歩き、一階の食堂へ。
朝早いからなのかすっかりと空席の目立つ座席の1つへと腰掛けた彼女を見て、俺も向かいの席に腰掛ける。
「よし、それじゃあ何か食うか!」
「え、えぇ……そうですね」
朝っぱらだというのに、元気そうなレムリーズ。
俺は店の人が持ってきたメニューを受け取りつつ、出来るだけ安いものを探す。
写真というよりは精巧な絵だろうか、それらが描かれたメニューは思わず目移りしてしまうし、ここ最近まともに食事もとれていないので腹は減っているのだが、肉はなぁ……。
「すみませーん、ウサギの焼肉2つください!」
「はーいかしこまりました。少々お待ち下さいませ」
俺が悩んでいるうちに決まったらしい彼女は手を挙げて注文。
カウンターの奥から店の人のハツラツとした返事が返ってくる。
しかし、二皿も注文とは朝からよく食べるものだ。
だがまぁあれだけの武器を振り回すのだからそれだけ摂るべきエネルギーも多く必要ということか?
単に彼女が大食いというだけかもしれないが。
と、そんなことより俺も早く注文しなければ……
そう思った矢先、机上で開いていたメニューを持っていかれてしまう。
「あ、ちょっと俺がまだ……」
思わず、そう言ってしまうが節約という意味ではある意味好都合かもしれない。
持っていかれたというレムリーズへの言い訳も出来るし。
「あぁ、安心しろ。私が奢ってやるからさ」
「へ? どういうことですか?」
「私が奢ってやるから」
「いえ、繰り返し言われましても……」
「だからさ、私が朝ご飯奢ってあげるって話」
「はぁ……え、いやそれは有り難いですけど……」
定食っていくらだったか?
あんまり高いと申し訳ないというか、返す当てを作らないといけなくなるし……。
いや、それ以前に肉か……。
研究結果ではこっちの肉を食べると熱を出して数日寝込んだっという意見もあったからなんとなく敬遠してたんだが、俺が食べても大丈夫なのだろうか?
調べても毒物が検出されたわけでもないし……うん、大丈夫。大丈夫だと思いたい 。
とはいえウサギ肉ってことは出てくるのは昨日のあいつらってことだよな……う〜む、襲われて殺されかけた奴らを食べるのか。
「大丈夫。食べきれなかったら私が代わりに食べるからさ」
「そう、ですか。分かり、ました」
複雑な気分だが……奢ってくれるってなら断るのも良いことではないだろう。
機嫌を損ねられても後々面倒なことになるかもしれないし。
「おまたせしました」
そう言ってトレーごと俺たちの前に置かれた料理。
並べられた皿に盛られているのは乱切りにされ焼かれたウサギ肉と野菜の炒めもの、お椀には米と汁もの。
と見た目はよく見る焼肉定食と変わりはない。
「よし、それじゃ食べようぜ」
「はい、いただきます……」
ふむ、獣臭さはないか。
まぁこうして店で提供されている以上、品質に問題はないのだろうとは思いたいが……。
「うん、旨いな」
「そりゃよかった」
歯ごたえのある肉質は硬すぎず柔かすぎず、甘辛いタレも相まって食欲が唆られる。
地下では養殖の肉よりも上手いという物好きの言葉を聞き流していたが……確かにこれは、こちらを好む者も多いだろうな。
問題は次の日にどうなるか……。
だが、今はこの食事を有り難く頂くとしよう。
なんてったって久しぶりのまともな食事だ。
朝からこの量は正直キツイ気もするが……いや、意外といけるか?
「ごちそうさま」
「ふふ、いい顔になったね」
「そう、でしょうか?」
「うん、さっきまでは明日にでも死んでしまうんじゃないかって顔してたからさ」
「流石にそれは……」
無いと言いたいけど……まぁ、最近は野菜ばっかりで栄養が偏っていたことは確かだし顔つきにも出てたのかもなぁ。
っ、何をやってんだ俺は……いかんな気を緩めすぎだ。
警戒心を強めないと、ここは言わば敵地のど真ん中だぞ?
「よし、飯も済ませたし行こうか」
「え? 何処に」
「なんだ。もう忘れたのか? 昨日、鑑定しに行こうって話したろ?」
「あー……」
そうだ、そんな約束をしてたんだったか。
一方的だし、俺は納得してないんだが。
というかどうしてそこまでこっちに突っかかってくるというかそんな、あー……なんて言うんだ? なぁんかキラキラした目を向けてくるんだよな。
俺、この子に何かしたのか?
まるで覚えがないんだが。