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02話『失敗と大剣使い』


 俺は町を取り囲む分厚い石壁にある門を腕のバングルを見せて通過する。

 それからしばらくして俺は逃げていた。


 歪なドリルのような角を生やしたウサギから逃げていた。

 銀ぶち眼鏡を何度もかけ直しながら腰の拳銃をしっかりと手に持って、追ってきているウサギの群れに銃口を向けて引き金を何度も引きながら逃げていた。


「ハァハァ……クソッ……」


 新しい弾倉に入れ換えて再び引き金を引く。


「クソッタレが! あれの一体何処が弱い獣だってんだよ‼」



数十分後前



 俺は草原で目的のウサギ――アルミラージを発見した。

 そのウサギは銀色の体毛を持って中型犬ほどの大きさであったが大きい事は知っていたから予想よりも大きかったが、さほど驚く事はない。

 はぐれなのかウサギ達の数は少なく、的が大きくなったことで簡単だ。という心の余裕も出てきていた。

 それは今思えばそれは油断であり、慢心であったかもしれない……。


 簡単だ。持っているこの拳銃で、あの頭に1発ぶちこんだらおしまいだ。

 それを数回するだけだ。


 心臓の鼓動が早くなっていき、呼吸が荒く、大きくなっていく。


 俺は銃の扱いに自信がある。大丈夫だ。大丈夫だ。


 身を低くして、限界まで低くして、頭のなかで何度も落ち着くように繰り返しながら照準をしっかりとウサギの頭に合わせる。

 高鳴る心臓を大きく深呼吸をしてなだめながらゆっくりと人差し指に力を込める。

 刹那、火薬が爆発し、放たれる弾丸が真っ直ぐウサギの頭部に向かって飛んで行く。

 血飛沫を吹き上がらせ、奴の命を刈り取った。

 銃弾で仕留めたウサギは短い断末魔を上げて横になると脚部を痙攣させ、まもなく活動が停止する。

 しかし、そこからその場で残りを一匹足りと狩ることは叶わなかった。

 銃声に気づいたウサギは一斉にこちらを見てきた。

 何十個もの血のような真っ赤な瞳がこちらを睨んでくる。恐ろしい。背中が凍りついてしまいそうだ。

 そして群れの中でも一際大きなウサギ、明らかに群れのボスが大きな声で咆哮する。

 ウサギのあの見た目からは想像もつかない雄叫びを上げて仲間に敵が来たことを知らせる。

 いや、むしろ餌がノコノコやって来たと笑っていたのかもしれない。

 とにかく、俺を見つけたウサギの群れは一斉に襲いかかってきた。

 身を隠していた岩が突進で砕かれ、命を危機を感じとる。



 それからもう何十発と銃弾を撃ち込んでいるはずなのに、しっかりと当たっているはずなのに、一向に数が減っている様子はない。

 いやむしろ増えているようにも見える。

 恐怖心から来る目の錯覚なのか、それとも現実なのかどちらにしろ体力的にもこのままではヤバイ。


「ハァハァハァ……クソッ……ハァハァ……」


 体の至るところから汗が吹き出て、喉が渇く。

 ここが先程までいた草原ではないこと以外には分からない。

 いつのまにこんなところにまで来たのだろう?

 岩肌のゴツゴツとした場所、足場がガタガタで走りにくい。

 だが立ち止まるわけにはいかない。

 ウサギたちはすぐそこにまで迫ってきて――


「ん?」


いない。先程まであれほどいたウサギたちがいつのまにか消えていた。

煙のように消えていた。仲間が傷ついたから逃げたのだろうか?


 とにかくどうやら助かったようだ。

 安心してその場にヘナヘナと座り込んで肩で息をする。


 「全く……全く冗談ではないぞ……」


 ただのウサギがなぜあれほどまでに恐ろしいのか。なぜあれほどまでに狂暴なのか。

 見た目はウサギだろうと結局は化け物だということか……。


「――っ!?」


 ゆっくりと近付いてくる足音。土を踏みしめ、石を蹴飛ばす音が近づいてくる。

 それが地面に横たわっていた俺の耳に届く。

 少なくとも先程のウサギたちではない。

 俺が追っていたものがウサギと呼べるものであるのなら、今俺を取り囲んでいるのはオオカミといったところか。


「あぁ……」


 一難去ってまた一難、とはこういうことを言うのだろうか? 言うのだろうな。

 ウサギたちとは違い、奴等はどうやら狩りに慣れている。

 オオカミたちは自分を取り囲んだ形をとってジリジリと近づいてくる。

 もし、俺があの中の一匹でも攻撃すれば奴等は一気に襲いかかって来るだろう。


 あぁこれは逃げられない。逃げることは叶わない。

 あの時の化け物はやはり偶然死にかけていた奴に止めを刺しただけのことだったのだ。

 たったそれだけなのに俺は仕事を失い、家を失い、何もかもを失った。

 最早何も残ってはいない。どうせ生きていたって何にもならない。

 たった20数年の人生……か。

 ふふっ……あー学生時代も研究員になってもまともな記憶が残ってはいないな。

 死を覚悟するとともにぼんやりと流れてくる走馬灯に俺はニヤリと嘲笑する。


 横たわる俺の耳には地面を通じてどんどんと足音が大きくなっているのが聞こえてくる。

 そして奴等はその鋭い牙を光らせて俺に飛び掛かってきた。

 あーー……苦しい仕事だったけどそれなりに楽しかったんだけどなぁ。

 瞳から流れる一滴の涙。

 それが頬を滴るところで俺の耳には大きな悲鳴が聞こえてきた。

 否、正確にはそれは悲鳴ではなく、断末魔。


「おい、ニィちゃんこんなところで寝てっと風邪引くぞ?」


 それは突然現れた赤茶色の髪をした少女が振るった身長ほどはありそうな大きな剣で切り裂いた時にオオカミ達から漏れ出た声だった。


「まぁその前におっ死んじまうかもしれねぇけどな。ハハハ!」


 そう言って彼女は白い歯を見せて微笑むとオオカミの方へ向き直り、手にした大剣を片手で軽々と振るって血を払う。


「ほら、早く来なケモノ共! この剣の錆びにしてやるぜ!」


 グルルと俺たちを睨み付けるオオカミのうち、1匹が遠吠えを上げると奴等は撤退を開始した。


「チッ、腰抜けなやつらだ」

「お前は…な…何っ」


 あぁくそっ、疲れているせいか舌がうまく回らない。


「ん? お前さん変わった格好をしてんなハハッ!」


 何がおかしい?

 灰色のシャツに紺のジーンズ、履き慣れた白の運動靴に真っ白な白衣。

 この格好がそんなに可笑しいか?


「いやぁ悪い悪い。お前さんけっこう変わった格好をしてんだな」


 そう笑う女性はノースリーブのシャツにグローブ、ロングコート、ショートパンツにロングブーツという格好だ。


「うるっい! ……えに、たくない! ゴホッゴホッ‼」

 お前には言われたくない。こんなヤバイところでそんなに肌をさらしているような奴に。そう返そうにも呼吸が乱れ、呂律が回らない。


「おい、大丈夫か? 水いるか?」

「いい……」

「いや、飲めって楽になるぞ?」

「どく?」

「そうじゃねぇよ。喉潤(のどうるお)しゃあ少しは楽になるだろ?」

「…………。」


 確かに喉が渇いて話せないんじゃ意味がない。

 俺はひったくるように皮袋を奪い取ると栓を開け、中身を飲み干していく。


「ぷはっ! ……悪かったな」

「良いってことよ。目の前で人が死ぬのは寝覚めが悪いからな」


 女性は俺から袋を受け取って笑みを見せる。

 そんな顔を見ているとなんというかよくわからない気持ちになる。

 いや、騙されるな。可愛らしい顔をしてはいるが、こいつらは化け物なんだ。

 細っこいくせにあんなばかでかい剣を振り回すような奴は人間じゃない。そう人間じゃないんだ。


「大丈夫か?」


 差し伸ばされる手。俺はそれから目をそらすと地面に転がっている拳銃を拾い上げる。


「いい、大丈夫だ」


 俺はそう言いながら拳銃をホルスターに納め、服の土埃を払い落とすと坂を下り始める。


「あ、ちょっと待ちなよ」

「……何だ? 言っておくが、今は文無し。助けた報酬を要求する気なら悪いが諦めて――」

「そんなんじゃないって、あんた『エレディルム』から来たんだろ?」

「ん? あぁ」

「あたしもそっから来たんだ。よかったら一緒に戻らないか?」


 ふむ、確かにこいつが強いのは今ので分かっているし、護衛として使えるか。

 そうなら、出来るだけ機嫌を損ねないようにしなければならないな。


「構いませんが、その代わり運ぶのを手伝って貰えますか?」

「ん、何を?」

「ウサギ肉ですよ」


 俺たちはアルミラージのいた草原を歩き、倒れているものを一ヶ所に集め、出来るだけのウサギを持ち運ぶと街の門にて回収、換金をお願いし酒場の別受付にて報酬を受け取った。

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