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01話「初めての……」

「あぁくそったれ!!」


 俺は頭に来て部屋にある椅子を蹴飛ばして頭を抱える。

 ここは咎人(とがびと)達の住まう町『エレディルム』。

 だが、咎人ってのは別に罪を犯した人って訳じゃない。

 殺傷とか強盗とか殺人とかそういったいわゆる『犯罪』を犯せば普通に牢屋に送られる。

 まぁ、そもそもそんなことをする余裕なんて今の人間には残ってなんていない。

 今の人間は最早、数千万人と残ってなんていないし、街中のカメラでそんなことをすればどうせすぐにバレる。

 化け物たちを殺せるのは化け物たちだけ。

 だから化け物を殺せるものは化け物である。

 そんな考えは当たり前だと思っていた。今だってその考えは変わらない。

 だが、俺は人間だ。化け物たちとは違う。

 なのに……。


「なんで俺はこんなところにいるんだ……?」



 ほんの10日前のことだ。


 俺は化け物を殺した。4足で歩く狼のような化け物を殺した。

 なんでそんなものが地下にいたのかと言えばそれは研究の為だった。

 そう、俺は研究員だ。

 化け物たちは一体どうしてこの世界にそ現れたのか?

 なぜ、こんな神話や伝説に出てくる獣のような姿をしているのか?

 そんな好奇心で、またそんな好奇心に同意するものたちと共に研究をしていた。

 化け物の死体を運び入れ、解剖し、調べていた。


 そしてそれがバレた。


 もちろんこれは極秘ではあるが、独断というわけではない。

 非公式ながら国に頼まれてやっていること。

 いつか化け物たちをこの地球から追い出すためにやっていること。

 だからバレたというのは世間にバレた。ということだ。

 何故バレたのか。

 それは、その日運び込まれた化け物の奴が生きていやがったからだ。

 傷だらけでボロボロの状態で、今思えばそれは仮死状態だったのだろう。

 てっきり死んでいるとばかり思っていた俺たちは離れた個室から機械を操り、奴の腹にレーザーメスを入れた。入れようとした。

 途端、暴れだした。赤い目を血走らせてその巨体で防弾ガラスを突き破って、牙で、爪で、火で俺たちを襲った。

 他の奴等は死んでいった。引き裂かれて、食われて、焼かれて、死んでいった。

 唯一生き残った俺もその爪で死にかけた。

 焼けるような腹の痛みよりも恐怖がその体を動かした。

 護身用の銃を使って、その場にあった薬品をぶつけて引火させて、奴は俺の目の前で燃えて死んだ。

 死にかけていた化け物の活動が停止したことに俺は安心して気を失った。

 もちろんこれは研究室だけの出来事で救助に来た連中もこの事を知っている仲間だった。

 なのに、それなのに俺が止めを刺した動画が何処からか流出した。

 そして俺は化け物になってしまった。

 俺は必死な思いで化け物に止めを刺しただけ、死にかけていた獣に無我夢中で抵抗しただけの事なのに。

 俺は世間一般でいう人ではなくなってしまった。

 治療によって瀕死の状態から目覚めた俺が訪れたのは裁判所だった。

 そこで俺は化け物を殺せる人間。かつて世界を滅ぼした化け物の同じ力を持つ『咎人』と認定され、人間達の暮らす地下都市『シャングリラ』で暮らすことが禁止される。

 結果、化け物のいない地下の『楽園』から化け物たちの蔓延(はびこ)る地上の『地獄』へと上げられた。追い出されてしまったのだった。



 そして俺は今に至る。

 咎人が生きるために作ったエレディルム。その町の宿で俺は九日間だか十日間だかを暮らしている。

 だがそれももう限界を迎えていた。

 仮にもここは町。宿泊施設や飲食店、娯楽だってちゃんと存在している。

 まるでゲームのファンタジーの世界に迷いこんでしまったかのようなそんな場所。

 だがやはり施設を利用するにはそれ相応の金が必要となる。

 金、といってもそれは硬貨や紙幣でも金貨や銀貨などの貨幣でもない。


 俺は小さな布袋から取り出した500円玉ぐらいの薄紫をした透明な石のようなものを持ってベッドに横たわると大きくため息をついた。


 火だったり雷だったりを化け物たちがその体から繰り出す事を『魔法』と呼ぶのならばこれはその力を生み出す小さな臓器。

 研究員の間では魔臓と呼ばれたそれは化け物たちが魔法を使うのに必要な部位であることが研究で分かっている。


 そしてコイツがここでの通貨の代わりとなっていることもここ数日の徘徊で分かった。

 ここの宿は1泊で魔臓が10個。いや確か単位は『(せき)』だったか?

 確かリンゴ一つで魔臓が1個――1石だったので、こいつの価値は100円から200円と考えられる。

 つまりここは1泊で1000円から2000円ということになる。

 旅行とか観光とかそんなことをしたこともない俺には分からないが、まぁそこそこ見た目もいいし、結構安い方だろうと思う。


しかし、だ。


 研究室から持ち出すことが特別に許可されたそれはもう残り5つ。

 研究のために持ってきた、袋一杯に入っていたはずのそれがもう今は数えるほどしか残っていない。

 今日ここで寝泊まりをすれば明日の朝には出ていかなくてはならない。

 だから俺が生きていくためには金を稼ぐしかない。

 結局どこへ行っても金っていうやつは必要になってくるようだ。




 部屋の戸締まりをして俺はとある場所へとやって来た。

 そこはこの町一番の酒場。

 いかつい親父たちが昼間から酒を飲み、ステージで踊り子が踊り、若者たちが化け物から作ったのであろう楽器で演奏をしている。

 ここに酒を飲みに来たわけではない。

 確かにここに来て数日はまだ袋一杯に魔臓があった頃はここで買った酒樽と樽ジョッキで一晩中飲んでいた。

 酒を一人で飲んで、愚痴って、泣いて、忘れていた。そんな時期が俺にもあった。

 だが今日はそんな目的で来たのではない。

 ここに来たのは人の集まる酒場にある掲示板を見るためだ。

 そこには町の連中がさまざまなお願いを張り付ける場所となっており、その内容は町の外を蔓延る巨大な化け物たちを討伐して欲しいという恐ろしいものから店の手伝いなんていう簡単なものまで多岐にわたる。

 恐らくかつて研究室に運ばれてきていた化け物もここにその依頼が貼られていたのだろう。

 俺は上から順に依頼を見ていくと出来そうな簡単なものを探していく。


≪店番のお願い。

本日手伝って頂けたら料理のご馳走と20石を報酬として支払います。


エレディルム道具屋店主『マーキン』 ≫


≪武器精製の手伝い

頼まれている武器の修理を手伝ってほしい。その出来に応じて報酬を支払います。


武器・防具店 店主『サーストン』 ≫


 その他にも皿洗いとか掃除とかなどの依頼もあったが報酬額はどれも雀の涙。

 報酬が良さそうなものは専門の知識や技術が必要そうで全く話にならない。


「ん?」


 ゆっくりと視線を下げていき、掲示板の下の方、他の依頼に隠れるようにあったそれを俺は発見する。


≪現在、肉が不足しています。

アルミラージの肉を30体分ほどお願い出来ませんか?

3日以内に持っていた方に報酬として100石差し上げます。


エレディルム肉屋店主『カーネル』≫



 皮の紙に筆記体でそう書かれたそれを読み、俺は考える。

 アルミラージ――確かツノを持った肉食のうさぎ……だったか?

 研究室に運ばれてきていたものを見たことはないが、資料ならあったはずだ。

 体格は実際のうさぎと比べたら一回り大きいが、突進による攻撃のみで比較的弱い獣である。

 俺は資料の内容を思いだし、持っている護身用の拳銃と鋼鉄の弾丸が数百発あることを思い出す。

 30体という数はそれなりに多いが、報酬額も結構なものだ。

 悪くないのかもしれない。

 俺はそう思い、それを持って『依頼の発注・受付』と書かれたカウンターへと向かう。


「いらっしゃいませ」


 長い髪をした女性は軽く一礼するとこちらに笑みを見せる。

 その顔は美しく、整った顔つきをした女性。

 だが彼女の髪は眉は目元は一様に真っ青だった。

もちろん顔色が悪いわけでも肌の色がアバターというわけでもない。

 彼女から生えている毛が青いのだ。

 また、それは染めているというわけではなさそうで恐らく地毛、自然に生えてくる毛の色が青いのだろう。

 そんな髪の色をした人間は今の世の中にはいない。

 俺はその彼女見てやはりここはそういう町なのだと再度実感する。


「どうかしましたか?」


 心配そうな彼女の顔。


 止めろ。そんな顔をするな。化け物め。

 そう、彼らは化け物だ。人間の姿をしている化け物だ。

 俺とは――俺たち人間とは違う存在だ。

 だが口には出さない。顔にも出さない。そんなことをしたところで今はなんのメリットはない。


「いえ、何でもありません」


 俺は首を小さく、軽く振るとカウンターに手に取った紙を静かに置くとハッキリとした声で言う。


「それよりもこれを受けたいんですが……」

「はい。かしこまりました。失礼ですが、ハンターバングルはお持ちですか?」

「はんたーばんぐる?」


 なんだそれは?


 短い沈黙。その間にこちらが意味を分かっていないということに気づいた女性は「少々お待ちください」と奥に引っ込むと真っ白な鉄の輪っかを手にして戻ってくる。


 手首を覆うガンドレットのような鉄の輪をカウンターに置いて彼女は説明を始める。


「これがハンターバングルです。討伐や採集など、この町から出ていかなければならないような依頼を受ける際に必要になってくるものとなります」


 なるほど……そういえばこの町をぐるりと取り囲む形で出来た外壁に2ヵ所ほど出入り出来る扉があったな。

 そこの為の通行書のような役割をするということか。


「ところでバングルを知らないということは討伐任務は初めてですよね?」

「え? えぇ、はい。初めてです」

「それでしたら少しばかり手続きが必要となってきますがよろしいですか?」

「えぇ構いませんよ」


 面倒だか、それが決まりだというのなら仕方がない。

 業に入っては業に従えだ。何かしらの書類やら仕事を要求されたりするのであればそれを甘んじて受けよう。


「ではまず登録料として5石お願いできますか?」

「はい……え、あっお金がかかるんですか?」

「えぇ討伐任務をこなすにはあなたをハンターとして登録しなくてはなりませんので……」


 あぁなるほど……少々高い気がするが、生きていくために必要な経費ならば背に腹は変えられない。

 大人しく支払うことにしよう。

 俺は残りすべての魔臓を袋から取り出すとそれを受付カウンターに並べる。


「はい確かに……では次に名前を教えて頂けますか?」

「俺はデモニオです。デモニオ・マスマニア」


 名前を聞き、彼女は手にした羽ペンで依頼の紙の裏に名前を書き込むと受諾を証明するハンコを押した。


「では次にバングルですが、どちらの腕に着けますか?」


 どちらに、と言われても正直どちらでもいいのだが……まぁ邪魔にならないように利き腕の逆、左腕に着けるとしよう。


「じゃあ左腕でお願いします」

「かしこまりました。では少し失礼します」


 そういうと彼女は不意にカウンターに置いていた俺の左腕に触れてきた。


「何を……?」

「あぁ、すみません。バングルのサイズを決めるために腕のサイズを計らせてもらっています」

「あぁ……」


 全く、驚かすなよ。

 そもそもメジャーも何もなしで触るだけでサイズを確かめられるのか不安ではあるが、彼女も一応はこれを仕事としている以上は慣れているということなのだろう。

 しばらくして彼女はハンターバングルと依頼用紙を持って奥に行き、今度は灰色のハンターバングルを持って戻ってくる。

 色によってランク分けのようなものでもされているのだろうか?


「マスマニア様……これで登録は完了となります。そしてこれがあなたのハンターバングルです」

「はい。ありがとうございます」


 バングルを受け取って早速腕に着けようと試みるが、バングルは金属製。

 手で引っ張ったところで伸びるはずはない。

 どうやれば着けられるのか苦悩していると彼女は親切に教えてくれる。

 装飾の一部がスライドして動き、バングルが少し開く。

 手を出来るだけ細くしてバングルをなんとかはめることに成功する。


「きつくは無いですか?」

「えぇ、大丈夫です」


 少し緩い気もするが、むしろこれぐらいがちょうどいいだろう。


「それは良かったです。それではこれで登録及び依頼の受付は完了となります。ここまでで何か質問はありますか?」

「えっとそれじゃあ一ついいですか?」

「何でしょうか?」

「この依頼のアルミラージはどこに生息していますか?」

「アルミラージは東の門から抜けた先の草原にいます。よく群れを作って行動しているので戦闘の際はお気をつけ下さい」

「分かりました」

「その他にも何か質問はありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「かしこまりました。では最後に依頼の報酬等についてですが、頼まれていものをこちらのカウンターに持っていて頂けたらそれで構いません」

「分かりました」

「またこの以来は3日を過ぎたら報酬額が半分の50石となりますのでご注意ください」


 そんなことは関係ない。

 俺は今日中に終わらせるつもりだ。

 なぜなら俺のなかで制限時間はあと半日しかないからだ後、半日しか宿屋にはいられなくなる。

だから半日だ。


「では失礼します」


 俺は彼女にそう言ってその場を去る。

 もう俺は戻ることは出来ない。化け物のいるここから逃げることも出来ない。

 それなら、生きるには殺すしかない。化け物を殺して生きていくしかない。

 やるしかないんだ。


「御武運を」


 そう言った彼女の声を聞きながら俺は両の手を力強く握りしめた。

んー……もっと主人公の葛藤描写を上手く書きたいなぁ~

上手く伝わってるといいけど……

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