第72話 『大魔法使いのちから』
グライドは、俺が知っている限りでは、かなりの魔力を持った強い男だ。そのグライドをボロボロになるまで叩きのめす奴なんてそうはいないはずなのだ。
恐らく理不尽な数の敵を相手にしてきたんじゃ無いんだろうか。
「おいっ、誰にやられたんだよ、グライドっ」
「うううっ、あ、あと5分だけ……」
おいっ、寝起きの学生さんかよ!
俺は、思わず重症のグライドの頬を引っ叩いた。
「はっ、タ、タケル、ぼ、僕の国が大変な事になってるんだ。悪いが手を貸してもらえないか? 見ての通り僕は、奴との戦いでやられてしまった。それでも奴らの相当な人数を倒したんだが結局はこの有様だ。今も頬がヒリヒリと痛むよ」
それは、俺のしわざだ、すまん……
「詳しい事情はわからないけどプライドが高く、へそ曲がりのお前がそこまで俺達に助けを求めるなんて只事じゃないな。わかった、先ずはお前の回復が先だ、その後に話を聞こう」
そう言って俺は仲間達の顔を見た。みんな何故か浮かない顔をしている。そうだよな、グライドは敵側の人間だし、話を聞くまでも無く超危険な香りがするよね。
「「「「お腹が空いた〜」」」」
そっちかよ! お前ら
そう言えば、俺がダンジョンに入っている間、お嬢さま方を待たせていたんだった。そうだよな、お腹が空いて当然だよなぁ。しかし、この塔に食料なんてあったかな。
「レイラさ〜ん、聞こえてますかぁ〜!
なんか食べ物あったら分けてほし〜いんですけど〜レイラさ〜ん、レイラさ〜ん、レ・イ・ラさ〜ん♪」
俺は、ありったけの大声で叫んだ。レイラが思念体でなければ何らかの水や食料があるはずなのだ。
「うるせえーーーーーーっ! タケルっ! マジうるせーーぞ!」
レイラがマジギレで現れた。寝る所だったのかパジャマ姿で眼が充血していた。どうやらレイラは思念体では、無かったようだ。
「レイラさん、オセロに勝ったご褒美になんか食べ物下さい」
「はああっ!? お前何言ってんの? カイゼルあげたじゃん」
「でも、あなたの曾孫がお腹を空かせているんですよ」
「何っ、私の曾孫だって? そんなハッタリが私に通用すると思うのか」
レイラは、お嬢さま方を1人ずつマジマジと眺めた。メルは、ミレシアによく似ているから一目瞭然だよね。
「た、確かにお前からは、強い魔力を感じる。それに可愛いし」
レイラは、自信有り気にヒナの前に立った。ヒナはどうしていいか分からず戸惑っていた。
おいっ! あんたわざとやってるよね、絶対に。
「いや、レイラさん、それは違っ……」
俺の話の途中でメルがレイラに飛びかかった。しまった! レイラを怒らせると世界が滅びてしまうかも知れないのだ。
「いやああっ、この子、超かわいいーーっ」
メルは、レイラに抱き付いて頬ずりをし始めた。かわいいものには、理性を失うのがメルの性癖だった。
「ぎ、ぎゃあーーーーっ、な、なな、何だこいつ」
予想外の出来事にレイラは、混乱していた。心なしか頬も紅くなっているような気がする。世界を滅ぼす程の魔力を秘めた魔女の弱点が歴史に追加された瞬間だ。
「メルっ! そこまでだ!」
俺の言葉にメルは、ハッと我に返ってレイラを離した。余程苦しかったのかレイラは、半泣き状態だ。
「ま、間違いない。やはりお前がミレシアの……」
「あたしは、メルだよ。よろしく」
「よろしくってなんだ、私はミレシアの母親になるのだぞ。もっと敬え、メルよ」
「えっ!」
メルは、驚いて眼が点になった。
てか今気付いたのかよ、メルっ!
相変わらずの天然ぶりにブレがない。
「ははあっ」
メルは、片膝をついてお辞儀をした。
それ、大ばあちゃんに対する行動としては間違ってるからな、メルっ
「うむ、わかったなら良かろう」
良いのかよレイラっ、あんたらズレてるよ!
「なるほど、この小さい子が一瞬で沢山のお菓子を出せる大魔法使いのレイラ様だったのか」
リンカが驚いたように呟いた。
「わたしも驚いた。エビグラタンを召喚できる伝説の大魔法使いがこんな小さい子だったなんて」
アリサが何気に要望を挟み込んだ。
「でも沢山の料理を一瞬で用意するなんていくら大魔法使いレイラ様でも無理だと思うんだけど」
ヒナが煽った。
わかったよ、腹ペコなのな、お前達
「レイラさん、何か食べ物があれば分けて欲しいんですけど」
俺は、もう一度レイラに頼んだ。
「タケル、お前の眼は節穴か?」
いつの間にかフロアには長いテーブルが現れていてそこには食べ切れない程の料理が並んでいた。そしてドヤ顔のレイラは、ニヤリと笑っている。
「ついでにそこの小僧の傷も直してやったぞ」
レイラの言葉に振り返るとグライドの傷はすっかり消えていた。
すげーーっ、レイラは詠唱も無しに全てをやってのけたのだ。俺は、大魔法使いの実力をまざまざと見せ付けられたのだ。
嬉々とした仲間をよそに俺はレイラに申し出た。
「レイラさん、魔王軍を倒すのに力を貸して頂けませんか?」
「無理だな。人は争いしか生まん、争う者に正義はあるのか? そこにはお互いの権利の主張があるだけではないのか。私はそれが嫌でこの塔に引きこもったのだ。お前の正義とはなんなんだ」
レイラの問い掛けに俺は少し言葉を選んで答えた。
「俺は、すべてを救いたいんです。それは、ただの理想でしか無いかも知れません。だけど守りたいものがあればそこに正義があるんだと俺は考えています」
「ふふふっ、そんな青くさいセリフ久し振りに聞いたわ。若い頃のアレスもお前と同じ事を言った。力は貸さんがお前にこれをくれてやろう」
そう言ってレイラは、俺にペンダントを渡した。
「聖者の雫、一度だけ人を生き返らせる事が出来る代物だ、使いどころを誤るなよ」
俺は喜ぶ訳でも無くむしろ少し心配になった。だって誰かが死んでしまうフラグが立ったのだから……
あらためて仲間達を見るともう料理を頬張っていた。
「お兄ちゃん、早くしないと料理が冷めちゃうよ」
ヒナが笑顔で俺を呼んだ。他のみんなも嬉しそうに俺を見ていた。
やれやれ敵わないな、俺は頼もしい仲間の待つテーブルに向かったのだった。




