第66話 『信じてるから』
「アレスさんの武勇伝は、途中からレイラさんの話ばかりですね」
「ふふっ、そうなんだよリンカ、私の冒険は、レイラ無しでは語れないからね」
「あたしは、こっちの話の方が好きだよ、じじいと大おばあちゃんがどうして恋に落ちたのか知りたいし」
「そうかメルも気になるか、はははっ」
「私は、お父さんの本の取材になる、正しい歴史を残すことは重要だから」
「そうかアリサ、私の武勇伝が、皆の希望となれば嬉しいのだがな」
「だけど今の話は、ラブコメでしかないですよ、勇者が土下座したところなんか」
「ひどいなリンカ、私は至って真剣なんだぞ」
「「「「ははははっ」」」」
「ヒナ、さっきから黙っているけどタケルの事が心配なのかい」
「う、うん、アレスさん、お兄ちゃんは無事に戻ってくるよね」
「このダンジョンを作ったのはレイラだ。決して容易いものではないのだと思う、だがタケルは、私に勝った男だ。帰ってこれない訳がないだろう」
「だけど、だけど心配なんだ。私のたった一人のお兄ちゃんなんだもん」
「ヒナ、あたしも心配してるよ、でも信じて待つよ、今までだってタケルはなんとかしてくれたんだからね」
「メルちゃん……」
◆◇◆◇
どのくらい時間が経ったのだろうか?
どうやら俺は、気を失って倒れていたらしい。
10階層の悪魔の様なモンスターの姿が見当たらないようだが、今度は、再生することも無く倒せたのだろう。
「はあーっ、しんど…………くないっ⁉︎」
確かに全身にびっしょりと汗をかいている。だが不思議な事に疲れてはいない。疲れだけが回復していたのだ。このダンジョンのからくりは、恐らく、そう言う事なのだろうが同時にそれは簡単に攻略する事を許さないと言う主張であるかのように思えた。
俺は、ゆっくりと立ち上がり剣を拾った。
「さあ、頼むぜ相棒」
クサナギの剣は、桜のような薄桃色の光をたたえた。
タケルには、それが自分の言葉に反応したように思えて嬉しくなった。
「さあ、あと3分の2でお前を迎えに行くぜ」
最下層には、黒き使い魔『カイゼル・ソウル』が待っているはずなのだ。
俺は、下層に向かう階段に向けて駆け出したのだった。
ぐにゆっ!!
階段を下る途中、何か柔らかいものを踏みつけた。その感触に驚いた俺は、階段を踏み外し派手に転がり落ちた。
「いててててっ、な、何だ今のは?」
踏みつけた物が何なのか気になるのが人の性というものだよね。俺が戻って確かめると何だか丸いものが見事に踏まれた跡を残してピクピクと痙攣していた。
「い、生きてるの……か? いや派手に踏んだから死にかけているのかも……」
おおよそ直径30センチ程の大きさだろうか。
俺は、その丸い生き物を拾い上げ、様子を確認した。
「鳥? いやペンギンか、でもちょっと違うな」
「キューッ〜」
ペンギンは、気が付いたのか鳴き声、ちがうな、泣き声をあげた。
「キユーーッ! キユーーーーツ!」
今度は、鳴き声が荒い、多分怒ってますね、これは……
「わ、わかった。悪かったよ、ごめん」
俺は、ペンギンの踏んづけた所をなでなでしてやった。ヘコんだ部分がマシュマロのようにやわやわと戻っていった。
機嫌が戻ったのか「キュー、キュー」と嬉しそうに鳴いている。
「しかし、お前まさかダンジョンのモンスターじゃないよな……」
俺が目の前に持ち上げたペンギンの眼を見つめながら言うとこいつは眼をそらしたのだ。
「お前、俺の言葉がわかるのか?」
ドカーーーン!!!
突然、背後で爆裂音がした。どうやらこの階層のモンスターの攻撃が始まったようだ。爆風が洞窟を駆け抜け体をさらいそうになる。
眼前には、ワイバーンの姿があり口に炎の塊を蓄えていた。
「もう、雑魚敵じゃねーじゃん!」
「キューーッ!」
「お前も怒ってるのか? マシュ」
「キュ、キューーッ」
『マシュ』は、俺がたった今ペンギンに付けた名前だ。マシュマロのマシュなんだけどね、ははっ
ワイバーンは、小型の竜だ、攻撃力は通常の竜に比べると低いのだがそれでも相当な火力を持っている。しかも厄介なことに素早いのだ。
俺が魔法の一撃を外せばその隙に距離を詰められてしまうだろう。なにせ防御に関しての対処法を持たない俺にとって、それはゲームオーバーを意味するのだ。
「クサナギの剣に賭けるか」
ワイバーンの炎のブレスを避けた俺は、一気に距離を詰めた。奴の喉元への一太刀は、浅く入りその皮膚を少し傷付けた。
「くそっ、ダメかっ」
その瞬間、ワイバーンの尻尾が俺を狙いしなりをあげた。辛うじて剣を突き刺し直撃を交わしたが身体は、弾き飛ばされダンジョンの壁に叩きつけられてしまった。
クサナギの剣は、ワイバーンの尻尾に深く刺さっている。俺は今、全くの丸腰状態で次の攻撃を避けることが出来ない。
ワイバーンは、ゆっくりと俺を追い詰めるように近づいて来て……
バリッ、バリバリ!!
俺は、カミナリの魔法を放ったのだ。逃れようと移動したワイバーンだが、カミナリは俺の刺した剣を追いその身体を貫いた。
驚いた事に今まで放った、どのカミナリの魔法より強力な青い稲妻がほとばしったのだ。
「な、なんだコレ、どうなってんだ……」
ワイバーンは、光の粒に変わりやがて消えていった。
「レベルが、上がったせいでカミナリの魔法も進化したってやつかな、なあマシュ」
「キュイ」
もし魔法が強力になっているなら、少しは楽に戦えそうだ。
俺は、マシュを連れて次の階層に向かったのだった。
心配して待っているだろうヒナ達の為に俺は先を急いだ。




