第64話 『危険と覚悟』
アレスは、思念体となり塔の中で長い年月待ち続けていた、いずれ勇者となる者がここを訪れるであろう事を……
「いやあーっ、本当に待ちくたびれたよ。嫁のレイラの作ったこの塔の結界は、頑丈で魔王軍ですら破壊できなかったようだから、塔のカギを見つけられる奴が現れるまで誰もここへは来ないという事だからね」
アレスは、遠くを見つめるような顔をしながら語った。
「大変だったなじじい……」
メルが、つぶやいた。
「おおっ、わかってくれるのかメルっ!」
アレスは、感激してメルを抱き上げた。
「わわわっ、じじい、やめ、やめろっ」
メルは、バタバタ暴れていたがアレスは、お構いなしだ。結構気ままな人だと思う。
「そ、それでいい忘れた事って何ですか、アレスさん」
俺は、アレスを促した。このままだと話が進みそうになかったからだ。
「ああ、そうだったな。君たちがここに来た理由は、カイゼルの事なんだろ」
そうだった、俺たちがアレスの塔に来た理由は、黒き使い魔『カイゼル・ソウル』を探し出す事だった。俺はすっかりその事を忘れていたのだ。
「も、もちろんですよ。当たり前じゃないですか、やだなあ本当に」
みんな、俺をジト目で見るのはやめて欲しい……
「アレスさん、お兄ちゃんがすっかり忘れていたカイゼル・ソウルは、あなたを倒せば現れるものだと思っていたんですが、一体何処にいるんですか?」
とヒナ
「タケルが忘れていたカイゼルは、もしやもう生きていない何て事はないですよね、アレスさん」
とリンカ
「お兄さまの頭の片隅にすらなかったカイゼルは、ここには封印されていないのでは?」
とアリサ
ひどいなコレ、そこまで悪くないよ、俺!
「みんなが、手伝ってくれたにも関わらずタケルがすっかり忘れていた『カイゼル・ソウル』は、この塔にいる」
あんたが一番ひでーよ、アレスさん!!
「えーっと、それじゃあ、俺が片時も忘れた事などないカイゼルは、何処にいるんですか」
「下にいる!」
アレスは、ニヤリとして、人差し指を真下に向けた。
どういう事だ、一階にはドラゴンソード以外何も無かったように記憶しているのだが……
アレスに連れられて一階に戻った俺たちは、ちょうど魔法陣のあった辺りの中心地点に丸いくぼみがあるのを発見した。
「これってもしかして、勇者の証をはめ込む穴ですか?」
「そうだよタケル、やってみるといい」
アレスに言われるまま俺は、メダルの形をした勇者の証を穴にはめ込んだ。
その瞬間、床に魔法陣が広がり、地下へ向かう光の階段が現れたのだ。
「よし、あたしがやってやる」
メルが、階段に向かおうとするとアレスに引き止められた。
「メル、これはタケルしか入れないんだ」
「えええ〜っ、どういう事、じじい」
「地下は、ダンジョンになっていてたくさんのモンスターが存在している。カイゼルを手に入れるには、タケル一人で最下層に到達しなければならない、それが条件だ」
「俺が、一人で⁉︎」
「そうだ君が一人でこのダンジョンをクリアした時、初めてカイゼルに認められる事になるんだよ」
出来るのか俺に? アレスは、強さを自覚しろと言ったけど……
「わかりました。俺やります」
アレスは、ニコリとして頷いた。
「タケル、このダンジョンは、レイラが作ったものだ。安全の保証は出来ない。それでも行く覚悟があるのかい」
 
「カイゼルも長い間待っていてくれたんだったら俺が迎えに行きますよ」
今度は、俺が、困った様な顔をしている仲間達を見て笑って言った。
「行ってこい、勇者タケル!」
アレスの言葉で俺は、階段を駆け下りた。
背後からアレスの言葉が響いた。
「階層は、30階あるからなーーーー」
おい、先に言えよ、それ!
ダンジョンの中は、少し薄暗かったが魔力による灯りが中を照らしていた。
思えば今まで仲間に助けられて戦ってきたけれど今回は、俺ひとりでやり遂げなければならない。自分の力を信じて
俺は、再びクサナギの剣を抜いてまだ現れぬ敵に備えるのだった。




