第62話 『アレスの塔四階層』
「最上階だよな? なんだか簡単に進んで来たようでありがたみがないなあ」
とは言うものの一階層のレッドクリフドラゴンにしても相当な強敵だったのは間違いないのだ。知らぬ間に俺のパーティが、強くなっていたと考えるべきだろう。
覚醒したリンカだけでなく、もともと潜在能力の高かった他の仲間も今までの戦闘でさらにレベルの底上げをしているようだ。これは俺にとって喜ばしい事であり誇りでもある。しかし、しかしだ、肝心の俺が弱いままなんだよおおおおっ!
「み、みんな聞いてくれ! 次の相手は、俺ひとりで倒したいんだ、いいかな」
「「「「ええっ!」」」」
いや、驚きすぎだろお前ら!
「無理だよ、お兄ちゃん!」
ヒナが、心配そうな顔で叫んだ。死亡フラグが立った瞬間だ。
「タケルっ、あたしを置いて行かないでよ」
メルの考えによると、どっかに行っちゃうらしい、俺ってば
「タケル、私の考えた新しいスイーツを食べたくないのか?」
それは気になるけど、なんで食べられない前提なんだ、リンカ!
「死なないでお兄様……」
おいっ! ストレートすぎるだろアリサ‼︎
俺は、心配してそばに近寄ってきた皆んなの頭を撫でてやった。
って、これ完全死んじゃう流れにしか見えないだろうが!!!
「お前らもっと俺を信じろよ!」
「わかったよ、お兄ちゃん」
ヒナが親指を立ててイイねをすると他のメンバーも合わせてイイねをした。
俺も無言でイイねを返した。
「さあて、最後の相手は、どんな奴かな」
魔法陣を振り返った俺の眼に飛び込んできたのはあの人の姿だった。
「う、嘘だろ……あ、あなたが最後の相手だなんて……」
俺は、言葉に詰まった。
なぜならそこに立っていたのは『勇者アレス』その人だったのだから……
アレスの姿は、エルフの街で見た石像のままで、長い髪に筋肉質の体躯は、まさに『勇者』としての風格を兼ね備えていた。
「よくぞここまで辿り着いたな若き者よ。私の名は、アレス、いやアレスの思念体と言った方がいいかな」
「俺の名は、タケルです。アレスさんの思念体って……実体は無いと言うことですか?」
もしかしたらアレスの幽霊のような存在なのだろうか。だったら俺はどう戦えばいいのだろうか……
「いや、召喚獣と同等に考えてもらっていい。物理的な攻撃でのダメージはもちろん有効だ」
「あなたは、ずっとここで待っていたんですか? 俺みたいな挑戦者が現れるのを」
アレスは、少し遠くを見るような顔をして、それからタケルに話しかけた。
「アレスの塔の鍵を手に入れるのは、大変だったかい?」
俺の質問にアレスは、全く別の質問を返した。
「はい、俺ひとりだったら無理だったと思います。ただ仲間がいたから封印された鍵を手に入れる事が出来たんです」
「そうか、タケルは良い仲間に恵まれたな、私が魔王と剣を交えた時、仲間がいれば完全に魔王を封じる事が出来たのかも知れないな」
「魔王との戦いを終えた後、あなたは、どうなったのですか? 魔王に倒されてしまったのですか?」
「いや、魔王との決着はつかず、再戦するはずだった。しかしその機会を待たずして私は病に倒れてしまったんだ。それで程なく命を落としてしまった。未来の勇者に全てを託してね」
「勇者……俺には正直そんな力はありません。でも俺にできる事があるなら諦めたくないんです」
「タケル、私は幼い頃、エルフの街でいじめられっ子だったんだよ」
「えっ⁉︎」
「エルフの種族は生まれつき高い魔力を持っているんだがどういう訳か私には魔力値が全くなかったんだ。だから私は皆に異端の者として蔑まされていたんだよ、異端だけにね」
今いいとこだった様な気がしたんだけど笑うべきなのかこれは……
「タケルっ、いま笑うとこだよ!」
そんなアドバイスいらないよ、メルっ!
「んっ、今叫んだ娘さんは、誰なんだ、タケル」
メルは、ミレシアに良く似ているのだ、アレスは、なんとなく気付いたのだろう。
「あの子の名はメルです。あなたの血縁にあたります」
「おおっ、そうか、道理で幼い頃の娘に良く似ている」
アレスは、メルに駆け寄り抱き上げてグルグル回し始めた。思念体だとしても嬉しいのだろう。
「そうか、そうか、お前がミレシアの孫なのか」
「わわわっ、眼が回るよ」
メルは、持ち上げられてグルグル回されている。
気が済んだのかメルを降ろしたアレスは俺の方を向いて問いかけた。
意外と気ままな人だなと俺は思った。
「タケル、魔王を倒したとしてもまた新たな魔王が現れる事になるが、君はそれをどう考える」
アレスの真剣な問いかけに俺は迷う事なく答えた。
「答えは、もう出ていますよ。魔王が何度も現れるなら勇者も何度でも現れます。あなたがそう考えている様に」
「良い答えだ! タケル」
そう言ってアレスは、腰の剣を抜いた。
「ならば、タケル、私から奪ってみるのだ。勇者の力を」
やっぱり戦わないとダメかぁ……
しょうがないよな!
俺は、覚悟を決めて薄紅色に光るクサナギの剣を抜いた。




