第60話 『アレスの塔二階層』
アレスの塔の二階層は、少し涼しいと言うより肌寒かった。部屋の中央には、一階層と同じ様に魔法陣が描かれており、やがて光を放ち何かの形を造り出した。
「あ、あれは、いったい!」
俺は、眼の前にあらわれたモンスターらしきものに、戸惑った。
「たまごだね」
「うん、たまごよ」
「たまごにしか見えない」
「そうだよな、俺にも巨大なたまごにしか見えないよ」
二階層のモンスター? は、大きな、たまごだった。
「これって、うかつに割ったらダメな奴が出て来るパターンなんじゃ、ここは慎重に……」
俺がリンカを降ろして寝かせようとした時
全員が、たまごに魔法攻撃を仕掛けた。
「おいっ、ちょっと待てヤァーーッ!」
俺の言葉も虚しく、攻撃をうけた、たまごの殻には無数のヒビが入りぼろぼろと崩れ出した。
「いえーーぃ!」
ハイタッチを交わすヒナ達。
たまごが割れると中から3つの黒い影が現れた。それはヒトの形をしており、シルエットから予想するとヒナ、メル、アリサの3人の姿をしているようだった。
どうやらたまごは、攻撃した者の姿のクローンを創り出す能力があるようだ。
「ば、ば、ばけものーーっ!」
てか、お前らだけどな、メルよ
「わたしは、ライバルを倒す、お兄様」
アリサは、ヒナの影を召喚獣フレシールで狙った。魔法ではなく殴りに行ったのだ。
それを氷の壁で守るヒナ……!?
「おい、ダメだろヒナ! 敵を守っちゃ!」
「あっ、つい、へへっ」
どうにも、攻撃にまとまりがない。
俺は、カミナリの魔法で全体攻撃を仕掛けようとしたのだが、いつの間にか出していた影アリサの召喚獣の物理攻撃を受けた。
「召喚獣も出せるのかよ。しかも真っ黒だなんて属性あるのかな」
3人の影達は、能力までコピーしているのだろうか? だったらまだ使っていない魔法のあるオリジナルの方が、格段に有利なはずだけど、どうしてアレスは、こんな敵を……
メルは、俺のやろうとしたカミナリの全体魔法を放った。
カミナリの光の筋が三体の影の身体を貫いたと思った瞬間、バリッという音と共にカミナリの魔法を反射した。
「よけろ、メルっ!」
作りかけの防御魔法は、多少のダメージを軽減したのだが、メルは、反射された魔法をくらってしまった。
「大丈夫なのか、メルっ!」
「大丈夫と言いたいけど、結構厳しいみたい。だけど、あたしはやるよ、タケルっ」
「お、おい、少し休んでろよ、メル」
戦いながらメルの様子を見ていたヒナとアリサは、魔法攻撃をやめて防戦している。
影のクローン達は、能力までコピーしているようで魔法をバンバン放っていた。どうやらオリジナル同様に召喚獣以外の物理攻撃は仕掛けてこないようだ。
俺は、よろよろと立ち上がるメルの耳元でささやいた。だめだと言ってもこの頑固な娘が、いうことを聞くわけもない。
だったら……
「わかった、タケルっ、やってみる」
失敗したらメルの命にかかわるかも知れない。念の為、俺は指輪を外しヒナとアリサにテレパシーを送った。
ふたりがうなずくのを確認して俺は右手に力を込めた。
「試した事はないけど、やるしかないよな」
俺は、魔力を吸い続けた……この場にいる全員の。
俺の吸える魔力に限界があるのかわからない。もしかしたらすぐにパンクしてしまう可能性もあるだろう。でも、やるしかない。
やがて影達は、魔法を放たなくなった。俺に魔力を吸われ尽くされたのだろう。
ヒナ達の方は、まだ魔力を残しているようで防御魔法をまだ維持している、そして万が一の為にメルにも防御魔法を掛けてもらっていた。
俺は、吸い取った魔力をメルに渡そうと試みた。他人に魔力を渡せる物なのか、試した事はなかったが、上手くいく予感はあった。
メルの腕を触り魔力を流し込むイメージをする。
「タケルっ、なんだかいい気持ちになってきたよ」
「お、お前、へ、へんな事を言うんじゃないよ! 」
もじもじし始めたメルに気が付き、俺に非難の眼を向けるヒナとアリサ。
ひ、ひとつもへんな事をしてないんだからねっ、俺!
「よし! ぶちかませ、メルっ!」
俺の合図でメルは、影達に向けてカミナリの全体魔法を放った。
今度は、魔法反射も無く、カミナリは、影達を貫いてその存在を消し去った。
「いやったーーぁ、勝ったよ、あたし達」
メルは、喜んでみんなとハイタッチを交わした。
ほっとした俺にヒナとアリサが詰め寄り手を差し出してきた。ハイハイわかりましたよ。俺は、ふたりにも貯まった魔力を分け与えた。
「「あああーーっ」」
「お、お前らまでへんな声だすなよ」
「だ、だって気持ちいいんだよ、これ、お兄ちゃん」
妹にそんな事を言われるとなんだか俺が恥ずかしくなるだろう。
そんな時、背後に鋭い視線を感じた。まだ敵が残っていたのか……
振り返った俺の後ろには、眼を覚ましたリンカが立っていた。
俺の仲間はめんど臭い奴が多いのだ。
この後、リンカにも魔力を分け与えたことは、言うまでもなかった。




