第58話 『アレスの塔一階層』
結局、アレスの塔について少しばかりの情報は手に入ったのだが攻略に至る方法までは分からなかった。
「ヒナ、ガブリエルは、もう大丈夫なのか?」
「うん、大っきいたまごが生まれたよ」
「そうか、頑張ったな、ガブリエル!」
俺は、ガブリエルの背中を撫でた。
俺達は、今クサナギの剣の光を頼りにアレスの塔に向かっていた。
ガブリエルには、俺とヒナ、アリサが乗っている。ミハエルには、メルとリンカが乗り、こちらをガン見していた。
全く毎回めんどくさい奴らだ。
しばらくの間飛んでいると光の筋が差している建物が見えて来た。
「あれがアレスの塔なんだな、しかし塔というほど、高くないような気がするなあ」
アレスの塔は、せいぜい4階建ての高さしかないように思える。
「攻略が楽でいい、お兄様」
アリサが、ポジティブな意見を述べたのだがどうにもそんなに簡単な話じゃないような気がする。何せミレシアによると塔には、あの『勇者の証』があるのだ。
「まあ、難しく考えてもしゃーねーか」
怯えても状況が良くなる訳でもないよな、俺には頼りになる仲間もいるんだから
「そうだよ、お兄ちゃんっ!」
「その方が、お兄様らしい」
ふたりに言われて俺は、ニヤッと笑った。つられてヒナとアリサも笑った。
そして、楽しそうに笑う俺たちを眉間にシワを寄せて見ているメルとリンカの視線は槍のように突き刺さる。
「妹は、別枠のはず、だから私とヒナはセーフだと思う」
「いつからアリサは、俺の妹になったんだよ! 別に嫌じゃないけど」
「すべての召喚獣は、妹扱いになると、妹辞苑に載っていた、お兄ちゃん、あっ、様」
アリサの言葉にヒナのスイッチが入った。
「遅いわっ!!」
ヒナが、アリサの頭をグリグリした。どうやら『お兄ちゃん』と言う呼び方に並々ならぬこだわりがあるらしい。
昔は、お兄たんとしか呼べなかったのだけどな。
頭をさすりながら、アリサは、「いたいよ、お兄たん」と言った。
「よし!」 お兄たん、頂きました。
「よし、じゃ無いわよ! お兄ちゃん!」
どうも最近ヒナは、どんどん強くなっている気がする。今パンチを受けたら俺はアレスの塔に突き刺さることだろう。
危ういところで俺たちは、アレスの塔の扉の前に降り立った。空気の読めるお利口なガブリエルに俺は干し肉をあげた。
もちろんミカエルにも忘れてはいけない。
アレスの塔の扉には思った通り鍵穴があった。虹色に光る大きな扉の中央には似つかわしくないほど小さな穴が空いていた。
「タケルっ、カギは」
「ああ、持ってきているよ」
俺は、ふうと息を吐いてから棒状の鍵を差し込んだ。
差し込まれた鍵は、中でカチャカチャ音を立てて動いているようだ。
やがてガチャっという音がして静かになった。
「開いたのかな、お兄ちゃん」
「う、うん、開いたんじゃないんじゃないかな」
「どっちよ、タケル、開いたのか? 開いてないのか?」
「あたしは、開いた方に賭けるよ」
「倍率は、どうする、お兄たん」
「あたしは、開いてるにミックスサンドをかけるわ」
「何かまだありそうだから、私はカリカリシフォンを賭けるよ!」
「私も、開いて無いに冷やしおでんを賭ける、お兄たんはどうする」
おい! そう言う事じゃないだろう。おまいら! なんだ冷やしおでんって。
「なあ、入る前にみんなに言っとくけど危険だと思ったらすぐ逃げるんだぞ、勇者の証なんかよりお前達の方が、大事なんだからな」
「「「「は〜〜〜〜い!」」」」
全く返事だけは、いいよな。
これっぽっちも緊張感は、無いけど……
俺は、力強く扉を押した。
「あれ、開かないぞ」
扉は、ピクリとも動かなかった。
俺たちは、何か他に試してないことがあるのかと思い扉を色々調べてみた。
挙句メルやヒナが魔法を放ってみたが扉はビクともしない。
こいつは、手強いぞ! アレスの塔は、徹底して侵入者を拒絶するらしい。
小一時間ほど経過して、諦めかけた時リンカが扉の上に何かを見つけた。
「タケル、あの矢印はなんだろう?」
リンカの指差す方向には、右向きの矢印が描かれていた。
まさかとは思うけど……
俺は、扉を横に引いた。
ガラガラガラっ
扉は、軽快に開いたのだった。
これは、ひどい、もはや知恵比べですらもない。
「流行っているのか、コレ」
俺たちは、全員が納得いかない様子で中に足を踏み入れた。ツタに覆われた塔の外見とは違い中は、光沢のあるタイルが壁面を埋めていた。発光性のある物質なのか部屋の内部は、明るく照らされている。
中央に魔法陣が描かれており、やがて赤い光を放ち出した。
「何かくるぞ!」
俺は、仲間に戦闘準備を整えるよう指示した。とはいえ一階層なら比較的楽な敵が現れるのはお約束だろう。
魔法陣から放たれた光は、やがて形を成した。
「よし、撤収だ!」
姿を現したモンスターに俺は、即断した。
「帰っちゃダメだよ、タケル」
リンカの言葉にみんなが同意した。
まじかよ、お前ら、ガチでこいつと戦うつもりなのかよ……
俺たちの前には、大きく口を開けた赤いドラゴンが姿を現したのだった。




