第55話 『魔王さまの血筋』
「いらっしゃい、おばあちゃん!」
メルは、ミレシアの訪問に明るく答えた。
俺もこんにちはと挨拶をしてミレシアを見つめた。
おばあちゃんと言っても若々しいその姿は、寿命の長いエルフの血を引いているからだろうと最近になって気付いたのだが、メルもまた、そうなのだろうか。
偶然にもミレシアと会えた事は幸いだった。俺とメルは、魔王城での出来事を彼女に話した。
「あいつは、相変わらずバカだわね。魔王としては、もう終わってるんじゃないかしら」
魔王をバカ呼ばわり出来るのは、ミレシアぐらいのものだと思う。
呆れたような顔をしたミレシアは、何気なく近くのコップをとって緑の液体を飲んだ。
俺が、あっと思った時には遅かった、緑の液体を飲んだミレシアは、椅子ごと倒れて苦しんでいた。
「キャアアアーーッ、おばあちゃんが死んじゃうよ、誰が毒を!」
お前だろ、犯人は! みどり汁は劇薬指定されるべきだと痛切に願う……
「娘たちに追い返される夢を見たわ」
生き返ったミレシアがしみじみ語った。
顔色は、まだ蒼ざめており心なしか呼吸も弱々しく思えた。
「私は、もう元気一杯だから残りの、みどり汁はタケルに全部あげてね、メル」
なにを言い出した、この人!
「えっと、そろそろ門限なんで……」
俺が荷物をまとめ出すと、突然カラダが金縛りにあったように動かなくなった。
いたずらそうな笑顔を浮かべているそこの大魔法使いのしわざに違いない。
「ふふふっ、タケル、遠慮しなくていいのよ」
ミレシアのちからわざにはかなわない。
諦めた俺は、切り札を使う事にした。
「わ、わかりました、飲みますよ。その代わりひとつ聞いて良いですか、俺にとっては、大事な事なんです」
「タケルは、潔いわね。何でも聞いていいわよ」
ミレシアは、快い返事をしたのだが、今から聞く質問は、彼女を怒らせてしまうかもしれない、それだからこそ俺は、口にするのをためらっていたのだ。
「メ、メルは、魔王の孫なんですか?」
俺の質問にミレシアは、手に持っていたみどり汁のコップを落とした。
メルは、きょとんとして動きを止めた。
「だとしたら、あなたはどう思うの、タケル」
「俺は、魔王軍と戦うつもりです。ただ今の魔王を倒すつもりはありません。これは、魔王候補生の俺の妹とも相談した上での話なんです。だからメルが魔王の孫であるなら尚更、魔王には引退してもらう必要があるんです」
「あなたと妹さんは、そこまで考えているのね、そうなるとメルは、魔族の血を引いている事になるけど」
「そうですよね、メルは、勇者と魔王と大魔法使いの血を引いている事になるんでちょっとカッコ良過ぎですよね」
ワクワクした様子で話す俺に対してミレシアは、少し驚いたようだ。
「タケルっ、あたしはカッコいいのか!」
「ああ、本当にそうなら羨ましいくらいだよ」
「でへへへへっ、タケルに言われると照れるよ、あたしは」
メルは、恥ずかしそうにくねくねしていた。
「メル、やっぱりあなたは、いい人を見つけたのね」
ミレシアは、微笑みながらメルを見た後、俺の問いかけに答えた。
「タケル、確かにメルは、魔王の孫にあたるわ、そしてふたりの娘の内のひとりは、前の勇者と結婚したのよ、あなたもよく知っている男、ケインズとね」
「えっ、ケインズは、勇者の血筋としか言ってなかったんですけど実際に勇者だったんですか」
「そうよ、ケインズは、勇者であり、ソードマスターだったの、でも娘と結婚して魔王を倒す事をやめてしまったのよ、あの男の煮えきらない優しさに腹が立って少し酷い事をしたこともあったのだけれど」
そう言ってミレシアは、少しばかり昔話を語り始めたのだが、これが魔王軍との激しい戦いのキッカケになるとは、この時は誰も思わなかったのだった。




