第48話 『初めての魔王城』
「ただいま戻りましたーっ」
ヒナは、門番の巨人に元気よく挨拶をした。
そう俺は、今、魔王城に来てます。
正直マジ帰りたいです……
妹とワイバーンのミハエルさんに乗ってやって来たものの門の大きさに、もうビビってます。門の遥か上にある城のてっぺんは、霞がかかって何だかよく見えません。俺が涙目になっているせいかもしれませんが……
誰か連れてくるべきだったかな。
仲間を思い描いたが、それはそれで爆弾を抱え込むような気がする。ダメダメだ。
そんな今の俺の心の支えは、妹だけだった。スイートエンジェル・ヒナたん、だけだったのだ。
俺に"ヒナたん"とまで言わせるとは、魔王城のプレッシャーは、半端ないな……
ん? そうか、これだよ、これ! つまりは、イメージの問題だ。
目の前に山のようにそびえ立つのは、巨人ではなく"巨人たん"なんだって事だ。
そう思うと何だか仁王像のような巨人たんが可愛く思えて来た。
「お兄ちゃん、何だか楽しそうだね」
ヒナが、不思議そうな顔で俺を見た。
「ああ、どうやら俺は覚醒したみたいだ、ヒナた……ヒナっ」
あっ、あぶねぇ、今うっかりヒナたんって
ヒナは、「ふうん」とだけいって門を開けてもらえるように巨人に頼んだ。
「巨人たん、おねがいねっ」
お前もかよ!
「はいっ、ヒナ様!」
「ヒナでいいって言ってるのに」
「それは、出来ません。皆ヒナ様をお慕いしているのですから」
ヒナは、どうやらみんなに好かれているようだ。兄としては嬉しくもあり、誇らしくもあった。ヒナの人気が、グローバルに認められたのだ。
巨人たんは、大きな門を開けてくれた。
ガラガラガラッ!
横かよ、おい!
門は引戸になっていて横にガラガラ開いた。なんだこの和風な感じは……
そういえば、どこかで風鈴みたいな音もチリンチリン聞こえる。
ファンタジー感、台無しだろう、コレ!
「おいっ、ヒナっ!」
ヒナは、目を逸らした……
ぜったい、こいつの仕業だ。このぶんだと中から耳の黒いネズミやら青いキツツキの魔族が出てきてもおかしくない。
「夜は、お城がピカピカ光るんだよ」
そっちは、実装済みかよ!!
城の門をくぐった後、入口までは古い石畳の道が続いており植え込みは、綺麗なハート型に刈り込まれていた。
門の入口には、受付らしきものがあり俺は、係のクマっぽい魔族に何者かを聞かれた。魔族らしくクマには二本のツノが生えていた。
「お前は、ヒナ様の下僕か何かか?」
「そうだ、俺はヒナの一番の下僕だ」
とりあえず即答した!
「ち、ちょっと、何言ってんの、お兄ちゃん」
慌ててヒナが、兄ですと訂正した。
「ああ、お兄さんでしたか、それは失礼しました。超ふつうの人間だったんで、これっぽっちも気付きませんでした」
全く失礼だと思ってないだろう、この野郎!ちょーふつうってなんだよ、へこむわーマジで。
俺は、激おこで見学用のバッチを受け取って胸の所に付けた。これである程度自由に行動できるはずだ。
「おかえりなさい、ヒナ様」
「ただいま、ベルナルド、今日は私の兄さんを連れてきたわ」
ヒナは、フクロウの様な魔族に俺を紹介した。これもツノが生えていた。
「ど、どうもいつもヒナがお世話になってます」
俺は、ベルナルドにヒナの兄として挨拶をした。
「いえいえ、ヒナ様には、いつも私共の方がお気遣い頂いておりますので」
ベルナルドは、魔王城の執事だろうか魔族の癖に折り目正しい口調だった。
さっきのクマ吉とは、明らかにグレードが違うようだ。
「ヒナ様、実は魔王様がお呼びでして、お越し頂いて早々ですがお兄様もご一緒にと申されてます」
へっ、今なんて……
想定外の無理ゲーに俺とヒナは、驚いて顔を見合わせたまま固まったのだった。




