第44話 『ミレシアの贈り物』
サクッ、サクッ、サクッ
エルフの森から帰った俺は、家でケインズとお土産のアレスサブレを食べていた。
「タケル、このアレスサブレ超うまいな」
「なんでこのサブレ、こんなにうまいんだろうなあ、メルなんか落としたサブレも食べていたくらいだからね」
エルフの街の名物アレスサブレは、何というかさっぱりとした甘みと軽い食感が絶妙だった。ケインズは、ワイン風のお酒『ダムダム』を飲みながらサブレをかじっていた。
「ケインズに聞きたい事があるんだけど」
俺は、マグナスシザーに、封印されていたアレスの剣をケインズに渡した。
「この剣は、いったい、どうしたんだ?」
ケインズは、細かな装飾の施された剣に驚いていた。
「わかった、タケルっ、俺はどこに謝りに行けばいいんだ」
いや、盗んでないから!俺っ!
「これは、マグナスシザーってカニに封印されてたものなんだ」
「な、何だって……」
ケインズは、動揺して俺のお土産を見廻した。
そんなに見てもカニのお土産はない。
「この剣に何かアレスの塔の手掛かりがあるんじゃないかと思うんだけど」
サヤの表面には、細かな文字が刻まれているのだが俺には全く読めなかった。
しばらくサヤを眺めていたケインズだったが、俺に剣を突き出して言った。
「剣を抜いてみろよ、タケル」
理由のわからないまま、俺はケインズの言う通りサヤから剣を引き抜いた。
サビた剣を予想していた俺は、驚いた。
剣の刀身は、美しく薄桃色に淡く光っていた。サビているどころか刃こぼれひとつない。
日本の警備の人が夜に振っているアレか!
「そうじゃないよタケル、その剣は、神が創った金属と言われる、オリなんとかという物質で出来てるんじゃないかな」
「ええっ、あのオリなんとかで出来てるのか、コレって」
そう言われれば、オリなんとかは、神々しい光を放っているように見えなくもない」
「ちょっと、試してみるか」
ケインズは、大きめの漬物石を持ってきた。あるんだこの世界に漬物って……
「ケインズ、こんなの切ったら剣が折れるんじゃないの」
「じゃあ、軽めで」
なんか美容室で「今日は、どうなさいますか」と聞かれた人みたいだな。
ええっと、軽めね……
俺は、漬物石をめがけて軽めに剣を振り下ろした。
アレッ、手応えが無い。
石を見たが真っ二つになってもいないようだ。
「ケインズ、当たってなかったみたいだね」
俺は、頭をぽりぽりかいた。
「いいや、凄いぞタケル」
ケインズは、床をドンとふみ鳴らした。
その瞬間、漬物石に亀裂が入り滑るようにふたつに割れた。
ケインズと俺は、コブシとコブシを合わせた。「イエーーィ」
すごいよ、オリなんとか!
その時、家のドアが激しくノックされた。
誰だろう、もう閉店してるんだけど。
「どなたですか? もう閉店してますが」
俺は、ドアのところで答えた。
「メルですが、開けて下さ〜い」
「もう、閉店してますが」
「メルだよ〜っ、タケルっ、タケルっ開けてよ〜っ」ドンドンドンっ
メルが詠唱を始めたので開ける事にした。
「メル、どうしたんだこんな時間に、てっきり偽物かと思って開けなかったんだからな」
「そうだったんだ。あたしは、タケルが意地悪してるのかと一瞬疑ったよ」
「こんな遅い時間に出歩いて大丈夫なのか、お前」
「大丈夫だよ、タケル、今日は泊まりだから」
メルは、カバンを持ってきていた。
「いいでしょ、ケインズさん」
「いいよ、こんな時間に返すわけにいかないからね」
ケインズは、姪に甘かった。というかミレシアだな原因は。
「おばあちゃんから連絡があってアレスの剣とメルは、タケルにあげるって……それで急いで届けようと思ってね」
俺は、アレスの剣のことしか頼んで無いんだがな!
急いで届けられたらしいメルは、早速アレスサブレを発見してサクサク食べていた。
俺は、アレスの剣をサヤに収めようとしたのだが刀身に文字が刻まれているのを見つけた。
ケインズに見てもらうと「クサナギ」と刻まれているそうだ。
「タケル、これは剣の銘じゃないかな」
"クサナギ"
それがこの剣の名前らしい。




