第43話 『絶対ぼーぎよ』
タージリックは、運営委員のメリット・ランケットに扮装してヒナに不意打ちを仕掛けたのだが、結局『カオス・リフレクト』を使ったヒナの返り討ちにあい魔族の姿を晒して横たわっていた。
魔法が直撃したはずのヒナは、全くの無傷だったが、まだ気を緩めてはいない様子だった。無事な姿のヒナを見て俺がホッとしているとメルが、難しい顔で近寄ってきた。
「『カオス・リフレクト』闇の魔法だよ、タケル」メルが、落ちたサブレを拾いながらカッコよく言った。
「メルっ、まさか、お前知っているのか」メルは、サブレについた砂を払っている。
「ハッキリとは分からないけれど反射魔法だと思う、そしてカオス系は、闇の魔法に分類されているんだよっ、サクッ、じゃりっ」確実に砂を食べたよな、今 。
「闇の魔法だって? ……大丈夫なのか」
俺は、ヒナの体に何か影響がないのか心配になった。
「それは心配はいらない、お兄さん」
動揺して黙り混んでいたグライドが、俺の気持ちを察して答えたのだが
てか、お兄さんってなんだ!その件を先に説明しやがれ!
「『カオス・リフレクト』は、絶対防御の魔法だ、一度だけ全ての魔法及び物理攻撃を無効化し攻撃を仕掛けた対象に反射させることが出来る。魔王様が魔王たる所以の闇の魔法だ。他にこの魔法を使えるものは、いないはずなんだ……伝承されない限りはな……」
グライドが、なぜこれほど驚いたのか理由は、明白だった。ヒナは、唯一魔王からこの魔法を受け継いだのだった。
その事は、恐らくグライドのみならずタージリックにも知らされていなかったようだ。
どれだけ魔王に気に入られてるんだヒナの奴め、あとで頭をなでてやろう。
会場の係員が、生死の確認の為、タージリックに近づいて行った。
「だめっ、危ない」
ヒナが、係員に叫んだ時にはもうタージリックは、立ち上がっていた。体中から血を流しているというのに魔族は、恐ろしい程の生命力を持っているようだ。
「くくくくっ、殺す、殺す」
おぞましい顔でヒナを睨みつけるタージリックは、腕をロープのように変化させ係員を巻きつけた。どうやら身を守るための盾がわりにするつもりだ。
これでは、迂闊に攻撃する事も出来ない。この為にタージリックは、誰かが近くにやって来ることをジッと待っていたのだ。
不測の事態に会場は、騒然となっている。逃げ出そうと慌てているものも少なくはない。
ドワーフのベオグリッドが、接近戦を仕掛ける為に、タージリックに駆け寄った。戦士としては見過ごせない状況だからだろう。
「ぐおおおおおーっ」
雄叫びを上げたベオグリッドは、斧でタージリックに斬りかかった。
手入れの行き届いた斧は、鋭く研ぎ澄まされ美しく光を反射していた。その様はベオグリッドがいかに真摯な武人であるかを物語っているようだった。
タージリックは、片腕をムチのようにふるいベオグリッドに向かって係員を投げつけた。
それを受け止めるような体制でこらえたベオグリッドに対してタージリックは槍のように変化させた腕でそのまま係員ごと貫いたのだった。
その場に崩れ落ちるように倒れるベオグリッドに会場からは大きな悲鳴が上がった。
ヒナは、肩を震わせていた。怯えているわけでも、泣いているわけでもないよな。ただ怒ってるんだよな……
「ヒナっ、倒すんだよな、そいつを」
俺は、ヒナに向かって叫んだ。
「うんっ、許せないよ‼︎」
俺の仲間たちは、みんな鼻を触った。
今、しゃべっていいから‼︎ お前ら
俺は、スタンドから会場に飛び降りてタージリックの前に立った。奴もかなり弱っているようだったが何をしでかすかわからないという威圧感がある。
「なあ、俺達は、あんたのことを許せないんだけど、できれば係員を解放して降参してくれないかな」
俺は、タージリックに最後の通告をなげた。
「コロス……ゼンブ……コロス……」
わかったよ、それがお前の答えだな
俺は、右手に魔力を溜めた。
タージリックは、警戒してもう片方の腕の係員を盾がわりに突き出した。
その瞬間、係員を巻き付けていたタージリックの腕は、観客席から飛び降りたリンカに切り落とされた。
その場に転がるリンカと係員をアリサの召喚獣が、素早く拾い上げタージリックから引き離した。
丸腰になった奴にヒナが氷の魔法を放つが、素早く張った防御魔法に弾かれた。すかさずグライドの二発目の魔法が直撃したがこれも弾かれた。
「まだだよっ、あたしがぶち壊す!」
メルの長めの詠唱呪文による魔法は、タージリックの防御魔法に亀裂を与えそのまま撃ち壊した。
俺は、右手に溜まった魔力を解放しタージリック目掛けてカミナリの魔法を放った……
◆◇◆◇◆◇
「結局ダメだったね、チートの実」
リンカが、残念そうにつぶやいた。
「あれじゃあ、大会が中止になるのもしょうがないよ」
魔族が、あれだけ暴れたら観客も集まるわけがない。
あの後、ドワーフのおっさんと係員は、回復魔法やら温泉のお湯やらでなんとか命を取りとめたようだ。
タージリックがすり替わっていたメリット・ランケットも会場の地下倉庫で気絶しているところを発見されたらしい。
タージリックは、俺の放った魔法で倒れた、というより消滅した。魔力値の高いエルフの街での俺の魔法は、凄まじい破壊力だったのだ。
逆に調整して使う事は、出来ないのだろうと思う。
チートの実の件でヒナとアリサは、がっかりしたのか今もしょんぼりと歩いている。
「ヒナっ、アリサっ!」
俺は、ポケットからクルミのようなハート型の木の実を取り出してふたりに見せた。
ヒナと、アリサの表情が途端に笑顔に変わった。
「「ハートの実だ」」
いや、違うから!
運営委員のメリット・ランケットから今回の御礼として内緒でもらったチートの実だった。タージリックに盗まれたという事で処理するとか言ってたけど。
「よく頑張ったな、ありがとう」
俺は、ヒナとアリサの頭をなでなでして感触の違いを味わった。
「わたしも今回は、頑張ったよ」
珍しくリンカだった。確かに今回は、一番危険な役回りだったよな。
あの時、俺は、タージリックと対峙する前に指輪を外してみんなに指示を出していた。リンカの活躍が、なければ違った展開になっていたかも知れない。
「ありがとうな、リンカっ」
リンカの頭をなでているとまた違う感触だという事がわかった。さらりとしたなかにもシットリ感がある。新感触だ!
俺は、また頭ソムリエのレベルを上げたようだ。
グライドは、俺を見て呆れたようなそれでいて気の毒そうな複雑な顔をした。
さて、おみやげを買って帰るかな……
「ちょっと、待てーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーつ」
頭をなでてもらっていない死神の雄叫びが、最後にとどろいたのだった……




