第42話 『闇の魔力だね』
アリサの二重詠唱のおかげで1問目からの負傷者は、無かったのだが肝心のエクシオスは、解答を間違えてしまったようだ。これで彼には、マイナス1ポイントのペナルティーが付いた。
サービス問題だっただけにヒナは、悔しがっていた。
だよなぁ、あの問題。
アリサの方は、『召喚獣フレシール』を出し終えて万全の体制だ。
ー 第2問、妖精の女の子は…… ー
問題の途中でアリサは、フレシールを使ってボタンを叩いた。フレシールの体格であれば、楽々叩けるほどの高さにボタンは、あったのだ。
召喚獣って結構物理攻撃もいけるんだな、と俺が感心しているとアリサが解答した。
「脱皮っ!」
「せ、正解です。1ポイント加算されます」
えっ、なに今の解答っ、問題が超気になるんだけど!
ー 第3問、20万部を…… ー
「アイス・キューブ・ミストーっ」
今度は、ヒナが、いち早く氷の全体魔法を放った。アリサは、既に防御魔法を唱えていたようで球状の薄い光に包まれていた。どうやらヒナとは示し合わせが出来ているようだ。
エクシオスとターメリックスは、防御が間に合わず体全体が氷の霧に包まれ足元から凍り始めていた。
ドワーフのベオグリッドだけが、斧で起こした竜巻で霧を拡散させて回避した。
「続・俺の娘図鑑っ!」
ヒナが、自信に溢れた声で答えた。
俺は、ヒナの解答にアリサを見たが、目を逸らされてしまった。アレンの本に違いない……。しかも続編ときたか
「正解です。1ポイント追加です」
しかし、ヒナは何気にこの世界の本読んでるんだなぁ。魔道書なんかも読まないといけないんだろうから当然なんだろうけど。
元の世界では、考えられないような事が当たり前のように起こり得るこの世界では知識を得ることは、身を守る重要な要因ともなりえるだろう。
魔族に囲まれた魔王城にいなければならないヒナには、相当な負担が、かかっているんだろうな。俺は、何もしてやれない自分の無力さが情けなくなった。
それでもヒナは、俺の為にチートの実を獲得しようと頑張ってくれてる。もちろんアリサにしてもそうだ。
こんな世界だからこそ仲間の絆は、余計に強くなるんだと思う、俺は、本当にいい仲間に恵まれた事を感謝しないとな……
「タケルっ」
気持ちを察したのかメルが、座っている俺の肩をポンと叩いた。
「おいしいよっ」 違ったようだ……
メルの手には、アレスサブレが握られていた。どうもさっきから静かだった3人は、サクサクとサブレを食べていた。
俺、今いい事、思ってたんだよ本当に。
メルからしょんぼりとしてサブレを受け取った俺は、一口かじってみた。
「えっ?なにこれ超うまいじゃん」
驚いている俺に、3人は親指を立てて"イイね"をしていた。
まさに抜群のチームワークだった。
こんちくしょう!
妙に馴染んできたグライドをみて、いずれ奴とも戦うことになるんだろうか、ふとそんな考えが頭をよぎった。
実際、カイザル以外の街では、魔王軍の被害が頻繁に起こっているとケインズからも聞いている。
やはりこの世界は、そんなに甘くないんだろうと思う。ツンツンの世界だ。
でも こんな世界のままで、いい訳ないよな、ヒナっ。
俺達が、この世界に残った本当の理由の為にも……
突然、膨大な魔力が、膨れ上がった。俺にも感じ取れるほどの魔力だ。
さすがにメルの顔が青ざめていた。
「サブレ、落としちゃったよ……」
ぶっとばすぞっ!
膨れ上がった魔力は、収束し、闘技場に向けて紫色の閃光が放たれた、その魔法は、ヒナひとりに向けられており、放った男は、闘技場の隅で気味の悪い笑顔を浮かべている。
運営委員のメリット・ランケットそいつが、タージリックの変装した姿だったのだ。
奴は、ヒナの後ろで魔力を溜めながらずっとチャンスを狙っていたのだ。解答した後の不意をつけるように……
俺が、声をかける間もなく紫色の魔法は、ヒナを直撃した……はずだった。
紫の閃光は、方向を変えニヤついていたタージリックを逆に吹き飛ばしたのだった。
いったい何が、起こったんだ、不思議そうな俺に目を見張って驚いているグライドのつぶやきが聞こえた。
「カオス・リフレクト……魔王だけが使える魔法だ」
なんだか、驚いてばかりいるグライドだった。




