第40話 『バーニングシスター』
知力コンテストの競技内容は、ひねりも無くクイズだった。
「知力コンテストでクイズだなんて随分短絡的な話だよなあ」
しかしクイズだったらヒナも危険な目に合わずに済むだろう。俺も短絡的に考えていた。
「まずいな、このままだとあいつらは危険な目にあうぞ、早くなんとかしないと」
グライドは、ひとり熱くなっていた、額に薄っすらと汗まで滲ませている。
やはり、ヒナの事が心配で仕方がないのだろうか。お兄ちゃんとしては、そちらも心配だ。
「クイズで危険なんてありえないだろう、グライド殿下よ」
「貴様、僕を殿下と呼ぶな、いや今はそれどころじゃない、いいか聞け、ここのクイズは、バトルクイズなんだ。ひとつだけある解答ボタンを魔法もしくは物理攻撃で押してから解答するんだが解答ボタンは、早押しだから取り合いになる」
「変わっていると言えばそうかもしれないけど何でそれが危険なんだ、グライド」
相変わらず事情が、飲み込めない俺は、トボけた返事を返した。
「バカヤロウ!解答ボタンを押す時に魔法もしくは物理攻撃が他の解答者に当たってもお咎め無しなんだよ、ここのルールじゃ」
えっ、それじゃあタージリックが、ワザとヒナを狙っても事故ってことで……
「それやべえーーーーーーーーっ」
ヒナがヒナがヒナがアリサがヒナがヒナが
「よし、危険だから棄権しよう!」
俺の判断は、博多ラーメンのバリかたを茹でる時間よりも早かった。
闘技場の入口は、競技中は封鎖されており中に入れないようになっていた。棄権するにしても俺は、どうやってヒナに伝えたらいいんだろう。グライドじゃないが俺の背中にも汗が滲み始めていた。
途方にくれてガックリとした俺の肩をポンと叩く者がいた。
「あたしがついてるよ、タケルのメルがねっ」
タケルのパーティーのメルな、何度も言うけど……。
「あたしの最大魔力をぶち込めば、多分大会は、中止になるよ」
おい、何言い出した!
大会は、中止になるかもしれないが、ヒナとアリサの生命活動も中止になるだろう。
メルは、やる時はやる子なのだ。
「メルっ、それだとあの二人も無事では済まないんじゃないのか」
リンカは、いつも冷静な判断が出来る子だ。
「…………はっ、それは困るな、婚約にも差し支えそうだ」
誰と婚約するつもりだ魔女っ子‼︎
あれっ、待てよ。婚約だって……
「なあ、リンカ、俺たちって観客席に上がれるんだっけ?」
「私も良くは知らないけれどタケルのことだからダメでも上がるんでしよ、だったら私は、手伝うだけだよ」
女の子モードのリンカの優しい言い方が妙に心強く思えた。
俺たちは、係員と揉める事も覚悟してスタンドに向かったのだが幸いな事に、出場者用のスペースが、用意されていた。
ここからなら充分にヒナたちが見えそうだ。今は、ちょうどクイズの予選を行なっているようで、ある程度の出場者がまだ闘技場に残っていた。
予選は、おなじみマルバツクイズだ。問題に対して正しいならマルエリアへ、間違っているならバツエリアに移動する二択形式のそれだ。
出場者を見廻すとヒナとアリサの姿が確認出来た。ふたりとも他の出場者より年齢が若いせいかちっちゃくて見落としそうになる。
ほんとにちっちゃくて可愛いな、という顔で見ていた俺を3人が蔑んだ目で見ていた。
「くっ、視力が悪くてハッキリ見えないな」
という俺を3人が蔑んだ目で見ていた。
もう、いいじゃん俺そんなに悪くないよね!
「やっぱり、タージリックの姿はないようだな、変身してると考えて間違いないよな」
グライドは、蔑んだ目で頷いた。
しつこいぞ!
「グライド、本戦には、何人進めるんだ」
「5人残った時点で本戦に切り替わるはずだ、途中敗退であれば何も手出し出来ないはずだが」
早めにヒナに確認した方がいいな、もう結構人数も絞られてきているようだ。
俺は、指輪をはずして無くさないようメルに渡した。ポケットにしまい込むとまた付けるのを忘れそうになるからという理由でしかないのだが……
「タ、タケル、やっぱりあたしに婚約指輪を……」
俺は、黙ってメルから指輪を奪うとリンカに渡した。
「うああああーーーーーつ」
リンカが、左手に指輪をはめるのを見てメルが壊れたようだが今は構ってはいられない。
指輪を外した俺は、意識した相手に自分の考えていることを伝える事が出来るのだ。
相手の考えてることは、わからないのだが今は、この能力で充分だ。
俺は、ヒナとアリサに状況を伝えた上でタージリックに悟られないようイエスなら鼻をノーなら口を触るように伝えた。
ー 今すぐに棄権してくれ ー
ふたりは、同時に口を触った。
ー チートの実は、諦めてもいいから ー
ふたりは、同時に口を触った。
ふうっ、頑固なふたりだな、まさかとは思うけど……
ー タージリックを倒す気なのか ー
ふたりは、同時に鼻を触ったのだった。
マジかよ!ヒナとアリサの目に光がやどっていた。
くそっ、俺は、ふたりのハートに火をつけてしまったようだ。




