第39話 『妹がんばるっ』
チートの実を獲得する為のコンテストは、正式には、『精霊樹の恩恵に敬意を捧げる競技会』という長い名称なんだが、通常は、親しみを込めてチーコンなどと呼ばれている。
チートの実コンテストの略称らしい。
チーコンには、3つの競技部門があり参加出来るのは、半年にひとり1部門に限られている。つまり、ここで優勝してチートの実を獲得できなければ、半年先までチャンスは、無いという事なのだ。これには、チートの実の独占を防ぐといった意味合いがあるのかも知れない。
今は、ちょうど開催期間に該当しており、その意味では、運が良かったのだが、ワンチャンに賭けるという事には、変わりないのだ。
今回は、どうやら知力部門が最初に行われるようだ。
「なあ、ヒナ、効率を考えたら3部門同時にやった方が、早いと思うんだけど」
「私もそう思ったんだけど、逆にみんなが見ててくれた方が安心だからいいかなって」
「俺もヒナの事をしっかり応援するからな」
「べ、べつにお兄ちゃんだけの為に頑張る訳じゃないからねっ」
「確かにチートの実は、みんなで分ける予定だけど、それでも大好きな妹を応援しても悪くないだろ」
「は、はは、恥ずかしい事、言わないでよっ」
ヒナは、赤くなりながら怒っていた。
「シスコンが始まる前にわたしも励まして欲しい、お兄さま」
シスコンじゃなくてチーコンだからな、アリサには、少し調教が必要かも知れない。
「がんばれよ、お前たち」
俺は、ヒナとアリサの頭を撫でてやった。
「が、頑張るから見ててねっ、お兄ちゃんっ」
ヒナが、少しうるうるしながら言った。
しかし、全然関係ないがこうして撫で比べると手触りというか質感というか随分違うものだ。
ヒナが、サラサラしているのに対してアリサは、なんだかふかふかしている。これは、もうどちらがいいかという事でもなく、甲乙付けがたい。例えればシルクとベルベットの肌触りというか……
「おいっ!」
グライドの怒鳴り声で俺は、現実世界に引き戻された。ヒナとアリサとメルは、涙目になっている、はて? メルは、撫でてないはずだが……
「チーコンは、観光の目玉だからな全部見れないようならどうしても観客の集まりが悪くなる。同時開催しないのは、まあ大人の事情ってやつだろ」
グライドの説明に俺は、納得した。
大人ってたいへんだなぁ。
実際、出場者以外には入場料が必要なのだった。
ヒナとアリサは、出場準備の為に控室に向かうと言い、それにメルとリンカも付いて行ってしまった。
まったく慌ただしい奴らだ……
俺とグライドは、ふたり取り残されてしまった。
突然、背後に冷たい視線を感じて俺は、振り返ってその正体を確かめた。
気味の悪いうすら笑いを浮かべた奴が、こちらをというよりグライドを見つめていた。
痩せ細った長身の男で赤黒いフードローブを身に付けていた。
グライドも視線に気付いており、驚いた顔をしていたが、その男に近づくとこう言った。
「くそがっ、付けて来やがったのか、タージリック」
「それは、ヒナちゃんとあなたが一緒に出掛けるのに気にならない訳は、ないでしょう」
男は、おどけたようすでグライドに言った。
「くっ、なんかしやがったら、ただじゃ済まないからな」
グライドは、どうやらこの男が嫌いなようだった。
「人聞きの悪い事を言わないで下さい。私は、この競技に出ようと思っただけですから、ふふふふっ」
そう言うとタージリックは、どこかに去ってしまった。
「おいっ、グライドっ!あ、あいつは何でヒナの事を知ってるんだよ」
「ヒ、ヒナのこ、ことをし、し、知っているのは当然だ」
おいっ!ヒナの事を言う時、いちいち動揺するのはやめろっ!
「タージリックは、魔王候補生の一人だ。あいつは、ヒ、ヒナの事を嫌っている。魔族であるあいつが、人間を嫌っていると言う理由もあるが、それより魔王に好かれているヒ、ヒナが許せないんだと思う」
えっ、それってヒナが危険なんじゃ……
グライドも別の意味で危険だが。
さらにグライドが、付け加えた。
「タージリックは、変身能力があるんだ、おそらくここの門の検査もそれでかわしたんだろうな、関係者を装って」
それは、つまり、どの出場者が、あいつか分からないという事になる。
俺の額から嫌な汗が流れた……
早くヒナに知らせないとまずいじゃん、俺が思うのと同時にリンカがこちらに走って来て言った。
「どうやら、知力の競技内容が発表されるようだぞ、タケル」
競技場は、コロシアムの形になっており出場者は、その闘技場あたりにいるはずだ。
「よし、急ごうか」
俺たちは、ヒナとアリサのもとに急いだ。
闘技場の入口に着くとメルが、わくわくしたようすで待ち構えていた。
「メルっ、ヒナは、どうした? 急いでるんだよ」
早くタージリックの事を伝えないと……
「話は、あたしを撫でてからにしてもらおうか、さあっ」
事情を知らないメルは、呑気なものだった。
俺は、迷わずメルの頭をグリグリやった。
「いたい、いたいよ、タケルっ」
メルは、涙目だ。
事情を手短に話すとメルは
「なんでタケルは、早く言わないんだよっ」
お前のせい以外のなにものでもない……
ー ただいまより、知力コンテストを開催い致します ー
アナウンスが流れた。
「くっ、間に合わなかったぜ」
それ、お前のセリフじゃないだろ、メルっ!
ヒナとアリサは、すでに闘技場の中央に集まっているようだ。
恐らくあの中にタージリックがいるに違いない。
ヒナの頑張るという気持ちを考えると、まだ棄権させる訳にもいかない。
俺の不安を抱えながら知力コンテストは、開催されたのだった。




