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第36話『勇者のアカシックレコード』

「あたしは、やるよっ、タケル」

 メルは、やる時は、やる子だった。

 深呼吸をした後、俺をチラッとみて少し微笑んだメルは、時を巻き戻す魔法の詠唱を始めた。


 壊乱せし時の旅人よ

 流れに彷徨いし逡巡の諸人よ

 境界の隔たりを奪胎し

 全てを虚無に帰さん……


 ゆっくりと、確かめるような速さで呪文を唱えていく、失敗は出来ないことをメルが一番分かっているのだろう……


 あの顔を見ているとなんだか命と引き換えのような気がしてしまう、実際は、妹キャラがひとり増えるだけの話なんだけど、何かまだ打つ手はないのかな、くそっ


 ガガーーーーッ

 なっ、なんだっ、カニではなく台車だった。

 まだ、リンカは、台車を押していたのだ。

 おかげで浴場内に残っている人は、ほとんどいなくなっていた。

 台車を見ているとなんだか、スケボーを思い出すな。結構得意だったんだよね、俺っ


 ああっ!そうか


「リンカっ、それ急いで貸してくれーっ」

 俺は、リンカから奪うように台車を借りるとヒナとグライドを呼んだ……


「メルーーーーッ、まだ時の魔法をうつんじゃないぞ」

 俺は、台車に乗っていた。ちょうどスケボーに乗るようにだ。

 別にふざけているんじゃなく、これが正解なんだ。


 叫び声に驚いたメルは、詠唱を中断してこちらを振り返った。マグナスシザーは、もう近くまで迫っていて、もう一度詠唱を完成させるのは、間にあわないかも知れない。


 困った顔をしているメルに構わず俺は、グライドに風の魔法を撃つように頼んだ。

 目標は、俺の乗っている台車だ。

 グライドの魔法の追い風を受けて台車は、浴場を滑るように疾走し出した。


 俺の考えが正しければ、あいつは封印しちゃいけないんだ……


 うおおおおおーーーーっ


 勢いに任せてヒナの作ってくれた氷のジャンプ台に乗り入れ俺は、台車ごと宙に舞った。

 目標は、もちろんマグナスシザーの背中だ。


 天井のなくなった宙に舞いながらマグナスシザーの背中を見下ろすと中心に紋章らしきものが見えた。


「やっぱりアレスは、残してくれていたんだ」


 俺は、氷の魔法で大きなつららを作ると一気にその紋章を貫いた。


 紋章を中心に無数のヒビが入りあれだけ魔法の効果が無かったマグナスシザーの体は、四散してしまったのだった。


 メルに魔法を使わせなくて済んだ事を本当に良かったと思った。

 そんな事を考えながらそのまま浴槽に落ちた俺は、何かが底に沈んでいるのを見つけた。


「なんだこれ……」

 そこにあったのは、朱塗の鞘に収まった刀だった。柄と鞘には、エルフならではの細かい金の装飾が施されていた。


 それを掴みとった俺は、浴場の入口へ向かった、心配しているだろう仲間の元へと


「おいっ、みんな大丈夫だったか」

 爽やかに、みんなに声をかける俺。

 さぞかし、心配してくれていたことだろう、

 無事に戻った俺を見て喜んでくれるだろうし、泣いて抱きつかれるかも知れないな、参ったなあ……


「「「「「ぎゃああああーーーっ」」」」」


 全員が悲鳴を上げて目を背けた。


 あれっ、そういえば、さっきの衝撃で腰に巻いていたタオルは、どこかにいってしまったのでした……



「アレスは、マグナスシザーを倒せなかったんじゃあないんだよ。倒さなかったんだよ」


「いったいどういう事なの、お兄ちゃん」

「タオル、説明してくれないか」

 俺、タケルだよ、リンカ。


「アレスの封印のプレートには魔力に反応して文字が浮き出る細工がしてあったんだと思うんだ。実際アリサが魔力を使った時の矢印とひし形みたいな図形が浮き出てきていた。

 ひし形は、マグナスシザーの背中を示していてここが弱点ですよと。」


「どうしてアレスは、そんな事をしたのだろう、お兄さま」


「託したんだと思うよ。マグナスシザーを倒せる力のある者に」


「この刀をか?」


「違うよグライド、託したのはこのカギだと思うんだ」

 刀には、鎖でカギが巻きつけられていた。


「タケルっ、それって何のカギなんだろう」

 メルの髪の色は、もう元の銀髪に戻っていた。


 アレスがわざわざマグナスシザーの中に封印してまで託したもの……


「多分、これは、アレスの塔のカギだよ」


 金と銀で彩られたカギは、ゆらゆらと揺れながら美しい輝きを放っていたのだった……

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