第34話 『マジの魔女ですね』
「アレスに封印されていただって⁉︎」
「だからあれほどの鮮度を保っている、お兄さま」
鮮度ってなんだよ、アリサっ。
「しかし、なんでまたアレスの封印が解けたんだろう、期限切れみたいなものなのか」
「アレスの封印は、そう簡単に解けるものではない、おそらく誰かが封印の札を剥がしたんじゃないかと思う」
グライドが割となんでも知っていることに俺は、素直に感心した。
もしかしてアレスの塔のことも知っているんじゃないだろうか……
今は、それどころじゃないけど。
ふ、封印の札だって……
「ああ、多分白い札にアレスの文字が書いてあるはずだ、ここの温泉の由来にもなっているとガイドブックに書いてあった」
これガイドブックの知識なのかよっ‼︎
白い札にアレスの文字が……白にアレス……
あれっ、どこかで見たような記憶が……
「みんなっ、ちょっと来てくれ」
俺は、確認したい事があって一旦みんなを集めた。マグナスシザーは、封印から解放されたばかりでまだ上手く動けないようだ。
グライドの氷の魔法のおかげもあるのだが。
みんなが、集まった時点で俺は、スク水に言った。
「アリサ、どうやって、封印を解いたんだ」
俺の言葉にアリサは、ギョッとして目を逸らした。
「フウイントハ、ナンデスカ、オニイ……
時間が無いのでグリグリした……
「い、いたい、お兄さま、ごめんなさい、ごめんなさい」
アリサは、涙目に、なりながらことの成り行きを話しだした。
俺がグライドと話をしていた時、アリサはみんなよりひと足先に浴槽に入っていったのだった。アリサは、奥のモヤの掛かっているあたりがどうなっているか気になり浴槽をどんどん進んでいったそうなのだ。
およそ真ん中辺りまで来た時に足元に字の書いてある白いプレートみたいな物があるのに気が付いた。これを自分の胸に着いている布と同じ物だと思ったアリサは、誰かが落としたなら拾ってやろうという親切心で浴槽の床から剥がしたそうなのだ。
その途端、何やら地響きのような音がして来たのでなんだかまずいと思ったアリサは、プレートを自分の胸にペタッと貼って急いで元のところに戻って来ましたよ、という説明だ。
なんでそこに封印があったかというとアレスが、ここで封印したからという単純な理由だ。
であれば湯治中の武器を持たないアレスがとどめをさし切れなかったという可能性は、あるかも知れない。
封印が、簡単に剥がれた件については、はっきりとした理由は、よくわからないのだか……
ともかくアレスが、倒せなくて封印することしか出来なかったほどのモンスターだ、俺たちが、どうこう出来る相手ではないだろう。
マ グナスシザーの体は、高温のせいだろうか体の周りのお湯がブクブクと泡を作り蒸発している。奴がお湯を熱湯に変えたのは、間違いなさそうだ。
「グライド、お前の魔法じゃ倒せないのか」
おそらく、最も戦闘力が高いであろうグライドなら突破口を開けるのではと俺は考えたのだが……
「ま、まずこう言った場合は、か、管理人さん呼んで……」
まったく役にたたなかった……
マグナスシザーは、蒸気を上げながらゆっくりとこちらに近づいてきていた。
いっそ逃げれば良いのだが、まだ湯あたりした人達が残っている様な状況だったのでやらかしたアリサの責任もある俺たちは、せめて時間稼ぎぐらいは、出来ないものかと考えていた。
「何とかもう一度封印出来ないものかな」
とフリルが言った、いや、リンカが言った。
「そうだよ、こんな時にアレスの血を引く優しくて、可愛くて、頼りになる魔女っ子がいればなあ」
「そんな都合よく、アレスの血を引く優しくて、可愛くて、頼りになる魔女っ子がいて再封印してくれるなんてありえないよ、お兄ちゃん」
「そうだよなあ……」「そうだよ……」
「ちょっと待ったあああああああーっ」
メルの髪は、金色にひかり輝いていた
メルの本気モードだった……




