第33話『ハーフエルフ好きですよ』
ハーフエルフと言う言葉は、俺も聞いたことがある。確かいろんな説があったはずだ、例えば、不当な差別を受けていたりとか、強大な魔力を持つが故に皆に恐れられているとか、一部のマニアに絶大な人気があるとか、まあ、ゲームやアニメの知識だけど……
「ハーフエルフだと何かまずいのか、グライド」
俺は、何やらシリアスな展開に気を引き締めた。
「これは、魔王軍の機密事項になってるんだが……」
グライドは、用心するように声を潜めた。
「じ、実は、好きなんだ」
えっ、ちょ、ちょっと待て俺にも心の準備が必要だ。別の意味でシリアスな展開が……
「ちげえーーーーーーよっ!」
「お、俺は、てっきり暴君グライド王が……」
今、タオル一枚だしね…
「違うだろ、というか暴君ってなんだ、いやまあいい、実は、魔王様はハーフエルフが好きなんだよ」
えっ、まさかの一部のマニアなの魔王って
「ミレシアは、魔王と不可侵協定結んでるって聞いたことがあるけどそれが理由なのか」
「ああ、不可侵というよりミレシアがウザがって来て欲しくないからというのが本当の所らしい」
なんだか部下が、クーデター起こしかかってるのがわかる気がするな
「まあ、ミレシアも魔王に関わるアレスの話をしたがらないのもしょうがないか」
「タ、タケルっ、大変だよっ」
あわてたようすで、メルが駆け寄って来た。
「どうしたメルっ、グライド王国に敵が攻めて来たのか!」
「いや、それは、まだだけどお湯が、お湯が」
とにかくとメルに腕を捕まれ俺は、みんなの所に連れられて行った。
ヒナ、リンカ、アリサは、茫然とその場に立ち尽くしていた。
「どうした、みんな何があったんだ」
「お湯が熱くて入れない、お兄さま」
その格好でもじもじするのは、やめろよアリサ。
「熱いっていっても限度があるだろうよ、アリサ」
俺は、おそるおそる温泉のお湯に触れてみた。
これは、ひどい、お湯はまるで熱湯だった……
管理人を呼びに行っていたのだろうかメルが、何かを抱えて戻って来た。
「タ、タケル、急いでこれっ」
って、たまご要らないだろ、今っ!
「グライド、お前は、どうやってお湯に入ったんだよ」
「普通に入ったが、僕が入った時は特に熱いわけではなかったがな」
どうやら嘘を付いてるわけでもなさそうだ。
「タケル、どうもあの辺りが、やけに泡立っているような気がするんだが」
浴槽の中を見廻していたリンカが目を細めながら言った。
当然、浴槽の中には、誰もいなかったのだが確かにリンカの示した所は、泡がもりあがり2mほどの噴水のようになっていた。
「ジャグジーだよね」
もちろん違うぞ、ヒナっ
「わたしは、サイダーだったらいいと思う、お兄さま」
お前の希望は、聞いてないし熱々だろあれ
「時間が来れば吹き出す仕組みになっているのかもな」
温泉にそんなアミューズメントつけて誰が得するんだ、リンカよ
よし、ここは魔法だ、メルっ頼む
「ふぁ、もごもごっ…ごほっごほっ」
おいっ!温泉タマゴ食ってんじゃないよ!
慌てたメルは、咳き込んでいた。
グライドが、氷の魔法を問題の泡に目掛けて放った。
グライド、もう俺の仲間になってくれ頼むから……
実際この状況であれば、俺も魔法が使えるはずだがエルフという魔力の高い種族が集まった場所なら間違いなく制御が効かないだろう
グライドの魔法は、泡の噴水を捉え一瞬で凍らせてしまった。
まさに魔法のプリンスと言えるだろう。
王冠かぶってるし……
「おいっ、なんだあれ、赤いぞ」
「確かに赤いわ」
いや、色はそんなに問題じゃないから……
グライドの氷を割って現れたのは、巨大なカニだった。正確には、毛ガニみたいなやつだ
「やったあ、大当たりーっ」
メルっ、美味しくないだろうあれ
ヒナとグライドは、けげんそうな顔をした。
「ヒナ、なんか知ってるのか」
「うん、自由研究に……」
それどころじゃないよ!どうやって持ってくつもりだ!
「マグナスシザー、失われた古代種だ」
グライドが、まるでうちの博士のお株を奪うかのように言った。
そして、負けじとアリサ
「マグナスシザー、堕天した天使によって生み出された高級モンスター、とろけるような舌触りが特徴だ、お兄さま」
食感聞いてないから!うまそうに思えてくるだろうが!
「確かあいつは、アレスに封印されたはずなんだが」
どういうことなんだ
グライドの言葉に俺はただ動揺していた。




