第31話 『いい湯だねっ、お兄ちゃん』
グライドが、エルフの森に来た、そもそもの目的は温泉療養だ。
エルフの森の温泉は、超回復効果があることで有名なのだ。
「僕は、そろそろ温泉にでも行ってくるよ」
グライドは、思い出したように言った。
いろいろと考えることが増えてしまった俺は、温泉という気になれなかったのでひとまずここでグライドと別れて行動する事になった。
まずは、チートの実だ、これが俺の本来の目的だ。
ガイドブックによればチートの実は、精霊樹に、一定期間ごとに実るのだが、その実は、エルフの街の管理下に置かれるらしいのだ。
つまりチートの実を手に入れる為には、盗み出すか、さもなくば一定の条件をクリアして手に入れるしか無いのだ。
「問題は、どうやって警備の隙を付くかよね」
「エルフは、魔力値が高いから手強いみたいだよ」
「わたしの剣で撹乱するという手もあるが」
「召喚獣で力押しすれば問題無い」
盗む気まんまんだな、お前ら、たが今日の俺はツッコまない。なぜなら成長したからだ。
俺は、落ち着いた大人の男として行動する事に決めたのだ。
「君たちの気持ちは、ありがたいけど危険なことをさせるわけにはいけないよ」
出来るだけ優しい口調で悟すことも必要だ……
「「「「疲れてるみたい」」」」
疲れてる扱いだった……
まるで疲れてなかったら、さあさあパチリに行こうぜ、エブリバディみたいなイメージなのだろうか
というわけで、温泉にやって来ました。
疲れてるみたいなんで俺……
そうです、皆さんのご好意に甘えて本来の目的もすっ飛ばしてやって来ましたエルフの湯
エルフの湯っていうとなんかインチキ臭い気がするが正式には GENESISなんとかHOT SPAみたいな名前らしい。英語で書いてはいないけど……
なんとかの部分は、ええと、オブアレスかな
えっ、アレスだって……
なんか、関係あるんだろうか、ちょっと気になるな。あとで、管理人さんに聞いてみよう
ちなみに温泉の入口は、男女別だった………
ですよねー、ですよねー
まあ、正直言うと混浴は、少し恥ずかしいとは、思ってたんだよ、ほんと
俺は、豪快に服を脱いでタオルをまとってガラリと浴槽への戸を開けた。
浴槽は、広く四角く削り出された石で枠組みが作られ奥の方は、湯気でモヤが掛かって見えないほどだった。
俺が立っている入口の右側にも戸があったようで、そこがカラカラと開いて黒髪の少女が出てきた。
「ええーーーっつ、ヒ、ヒナ!」
「は、はいーーぃっ?お、お兄ちゃん⁉︎」
「な、ななな、なんで、男湯に!」
「ち、ち、ちがうよ!こ、ここ女湯だよっ」
入口に立っていたヒナは、後ろから出てくる人とぶつかって前のめりになった。
瞬間、ヒナの身に付けていたバスタオルが、ハラリとほどけ…
「き、きゃああぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
浴槽全体にとどろく悲鳴だった……
我に返った俺は、ステルスダッシュして、その場にうずくまっている妹に落ちているバスタオルを渡した。
「み、みたっ?お兄ちゃんっ」
妹は、赤くなって、うるうるしていた。
「「「ああーーーっ」」」
妹にバスタオルを渡す俺のそばに悲鳴を聞きつけた3人が立っていた……
「「「有罪っ!」」」
現行犯だった。
メルは、バスタオルをヒナに掛けてやっていた。どうもお前の方がペタペタ触っているような気がするが……
あと、お前だけバスタオルで体が隠れてないんだけど、ややこしくなるから黙っていよう
一応、ヒナが説明してくれたおかげで俺の疑いは晴れたのだが、やれやれ本当に疲れてしまった。
心まで超回復してくれないかなエルフの湯。
そんなことを俺は、考えていた……




