第26話 『敵に塩を送りますか』
グライドは、俺に気付いていないようで鼻歌を歌いながら歩いていた。
様子を見る限りでは、体の状態は回復しているようだ、きっと魔王軍に回復魔法の使い手がいるんだろうな。
ここで俺としては、いくつかの行動が選択できる。
①隠れて鼻歌野郎が通り過ぎるのを待つ
②知らないフリをして通り過ぎるのを待つ
③近くの店で買い物をする。そして通り過ぎるのを待つ
全部、通り過ぎる事前提だった……
どんだけ、弱いんだ俺!
こんなことじゃ、エルフの森に行っても笑われるだけだ。
よし、やってやる、堂々とした俺をあいつの魂に刻み込んでやる。
決意を固めた俺の前をグライドは、気付かないようすで通り過ぎていった。
さすがに、昼前の商店街は人通りが多く、気付きにくいというのはあるだろう。
無益な戦いを避けられた事で俺は、ホッとしていた。もしここで交戦するような事があれば、おそらくケガ人が出るだろう、俺だけど
しかし、前回あった時もそうだがあいつ暇なのか?なんか友達もいなさそうだ……
「おいっ、誰が友達いないって!」
真後ろに、グライドが立っていた。
「お、お前、き、気付かないフリ、フリをしていたのか」
俺は、テスト用紙の回答欄が全部ずれていた事を終了3分前に気付いた田中君ぐらい動揺していた。
「いや、気付いてなかったさ、お前のブツブツ言っているのが聞こえるまではな」
あれっ、もしかして……
俺は、指輪をしていなかった。そういえば、さっきレベル測定器を使った時、外したのでした。
どうやら俺は、無意識にテレパシーを使ってしまうようだ。俺の思った事は、俺が意識している人に伝わってしまうらしい。
ある程度、制御することは、可能らしいのだが今のところは、アリサにもらった指輪で抑えている状態なのだ。
俺は、そっと指輪をはめ直した……
「今日は、お前とやり合うつもりは無い」
とグライドは言った。
どう言う風の吹き回しだ。
「あ、あいつと約束しているからな」
なんで動揺してるんだ、気になるだろっ
なんかグライドは、この前と別人とまでは言わないが、すごく変わった気がするな。
それと、じゃなーい、みたいな喋り方やめたのだろうか、キャラが薄くなった気がするぞ。
「お前、やり合う気は無いって言ったよな」
「ああ、お前らには、手出しをしない約束だからな、あ、あいつとの」
だから動揺するのやめろよ、気になるだろ
「だったら、何でここに戻って来たんだ?」
わざわざ文句だけ言いに来ただけとは思えない。
「ふふふっ、エルフだよ」
エルフかぁ、聞こえちゃったみたいね
「俺は、回復したとはいえ、まだ本調子ではない。お前にやられた傷がな、お前にやられた傷がな」
「い、いま何で2回言ったんだ」
俺は、あのセリフをまさかここで聞くとは思っても見なかった。
「大事なことだからだ!」
グライドは、決めた。
やばい、ちょっとカッコいい。
「なんで怪我とエルフの森が、関係あるんだ」
グライドの真意が、まったく見えてこない。
「お前、まさか知らないのか?う、うそだ……ろ」
動揺し過ぎだろ、でも気になるな……
こいつ、まさかチートの実のことを!
「エルフの森には、温泉があるんだ。効能は、超回復と美肌効果だ」
「何っ、温泉だって……」
まさかの展開に俺は、愕然とした。
「しかも、温泉はひとつしか無い、わかるな」
グライドの真意は、俺にも理解できた。
「こ、混浴だっていうことか、混浴だっていうことか」
「お前、なんで2回言ったんだ」
グライドの言葉に俺は、答えた。
「大事なことだからだ!」




