第23話『召喚士の秘密』
前々からしていた約束の為、俺はアリサの家の近くのカイザル公園に来ていた。早朝なので人影は、ほとんど無かった。
「いいのか、本当に召喚獣を見せてもらっても」
俺はアリサの実力を知る為に召喚獣を見ておきたかったのだ。
本音は、召喚獣がみたかっただけなのだが……
「構わない、お兄様、皆んなには見せておくべきだと思っていた」
そう、どこで聞きつけたのかメルとリンカもいたのだ。
どうも監視されてるような気がしてならない。
「アリサっ、あたしは期待してるから派手にぶちかましちゃってっ」
「この辺りが火の海に変わるかと思うとドキドキするな」
お前ら公共施設を何だと思っているんだ!あと、真っ先に俺らが黒こげになるだろ!
アリサは、ふたりのやじうまに動じる事なく、静かに精神を統一していた。
「もう少し、離れてもらえますか」
アリサは、静かに言った。
それ程の大きさなのか⁉︎召喚獣!
まったく期待させてくれるぜ!
俺達が、ある程度、距離をとった所でアリサがうなずいた。
いよいよだ!
アリサは、俺達を見回した後、深くおじきをした。
どうやら俺が思っている以上に神聖な儀式のようだ。
そして、懐から一本の笛を取り出した。フルートのような笛だった。
俺のイメージしていた魔法陣から現れる感じではないのかもしれない。
ふたりも黙って様子を見守っていた。
アリサは、フルートを構え、澄んだ音色を奏で始めた。心地よい音色に俺達の期待は、高まった。
しばらくして、演奏を終えたアリサはまた深くおじきをしたのだった。
それだけだった……
「おっ、おいアリサっ……」
違うよな、これだけなんて違うよなっ!
「今日は、うまく吹けた、お兄様っ」
違わなかった……
ふたりは、盛大な拍手をしていた。
当然、俺はアリサの頭をグリグリした。
「いたいっ、いたいっ、お兄様っ」
「練習してうまく吹けるようになったから聞いて欲しかったんですよっ」
まだ、ひりひりする頭を押さえながらアリサが言った。
「それは、わかったから今度は、頼むよ」
「はい、マスター」
艦長だのマスターだの忙しいな俺……
アリサは、魔道書を構え詠唱を始めた。
それとともに公園の中心に青い光の魔法陣が現れさらに中心が光に包まれた。
やがて、光は、人の形を成し具現化した。
「水と氷の召喚獣『フレシール』です」
フレシールは、青い光を身にまとい、薄着の女性のような姿をしていた。
「す、すごいぞ!アリサっ」
想像を超える召喚獣に俺は、素直に驚いていた。
アリサは、少し得意げだ。
「召喚の儀式は、今のわたしのレベルでは大量の魔力を消費しますがそれぞれ強力な魔法と攻撃力を持っています」
今まで、呆気に取られていたメルが我に返って言った。
「アリサっ、何か魔法を使ってみてよ」
それは、俺も気になるところだ。
「フレシールっ、氷の魔法を!」
フレシールは、近くの木に魔法を放った。
木は、一瞬で凍りつき、やがてサラサラと崩れ完全に消滅した。
公共物破損だった……
「ええーっと、そろそろ、か、帰ろうか」
俺達は、お互い目を合わさず公園を出てひとまずアリサの家に向かった。
門の所に表札があった。この世界にもあるんだなと思い、何気なくその文字を見た。
「スペンサー、だよな」
何だか馴染みのあるような名前だな。
こちらの世界では、よくある名前なのかも知れない。
「あれっ、ちょっと待てよ。こいつ前に冒険王って言っていたことがあったよな」
俺はアリサに問いかけた。
「アリサっ、お前、アレン・スペンサーって人知ってるか」
「えっ、どうしてお兄様は、父の名を知ってるの!」
どうやらアレンとは、避けては通れない深い縁があるようだ。




