第22話『あきらめますかっ?』
グライドは、サーベルを構え俺達に向かって斬撃を放った。
とてつもない衝撃とともに地面が切り裂かれた。
俺達が、かろうじてかわせたのは、さっきの夢の話のおかげでしかなかった。
圧倒的な力の差を見せつけられたのだ。
「へえっ、よくよけられたね」
グライドは、ニヤリと笑った。
奴にとっては、まだ本気ではないのだろう。それでも俺には、次の攻撃をかわせる自信は、まったくなかった。
リンカも後ろで蒼ざめた顔をしていた。長引けばいずれやられる事は目に見えていた。
リンカの買ったばかりのピカピカの剣が目に入った。ここで終わったら剣を新しくした意味がないよな、リンカっ
俺は、覚悟を決めた……
「なあっ、グライド何で俺達が、お前の名前を知ってたと思う」
俺は、グライドがプライドの高い奴である事にかけた。典型的な貴族の雰囲気を感じたからだ。
グライドとプライドも似てるし
「どういうことかな、命乞いの時間稼ぎにしか思えないが」
グライドは、言った。
どうやら話を聞く耳は、あるようだ。
「俺達は、お前の事を知ってるんだよ。攻撃の癖もね。だからお前の攻撃は当たらないのさ」
俺はニヤリと笑い返した。心拍数は、大変な事になっているが……
「う、嘘をつくんじゃないよ」
グライドは、少し気になり始めたようだ。
「お前、魔王候補生だろ」
俺は、駄目押しした。完全に当てずっぽうだ。
「な、なな、なんでそれを……」
グライドは、かなり動揺していた。
魔王候補生の件は、外部の者が知っている訳がないからだ。
「お前さっき、俺達の剣のことを笑っていたが俺は、剣の素人なんだ。だが魔法で戦うならどうかな、それとも自信がないか、グライド」
「どうやら、ハッタリって訳でもないようだな。いいだろう魔法は、俺も得意なんだ」
グライドは、サーベルを収めた。
どうやら俺の直感は、正しかったようだ。
とはいえ俺に勝機が増えた訳ではない。
グライドが言ったように時間稼ぎでしかないのだ。
グライドは、詠唱を始め魔力を溜め始めた。
俺も詠唱を始めたがまだ魔法を放つ訳にはいかない。打ち合いになれば負けは確実だ。
俺のチャンスは、1度しかないのだ!
グライドは、充分に魔力を溜め魔法を放とうとした。
その瞬間、眩しい光がグライドの目をとらえ動きを止めさせた。
いまだっ‼︎
俺は、グライドに全力でカミナリの魔法を放った。
カミナリの魔法は、グライドに直撃しその体を吹き飛ばした。
リンカの剣は、鏡のように太陽の光を反射しグライドの目を眩ましたのだった。俺が、リンカに頼んだ事だった。
グライドは、あれだけの魔法をくらっても死んではいないようだった。
魔法耐性のある服を着ていたおかげだろう。
「しょうがないなあ、まったく」
グライドは、自分の部屋のベッドで目を覚ました。なぜ、ここにいるのかまったくわからなかった。
俺は、あいつに負けて死んだはずだ。
「おはよう、やっと起きたね」
知った顔が、目の前にいた。
同じ魔王候補生のヒナだ。
俺の体は、包帯でぐるぐる巻きになっていた。
ヒナは、倒れていた俺を拾ってここまで運んできたようだ。
「ふん、おせっかいな奴だ、借りは返すから礼は、言わないぞ」
「じゃあさっそく返してもらうわ。」
「はっ、いまだと」
「約束して欲しいんだ。君が戦った人とその仲間に今後手を出さない事を」
「ふん、いいだろう、あんな奴らどうでもいい」
「まあ、その人が君を連れてけって言ったんだけどね」
「はあっ、頭おかしいのかあいつ、自分を殺そうとした敵だぞ」
「その人は、みんなを救うつもりみたいだね。だって、わたしが見込んだ勇者なんだから」
ヒナが出て行った後、グライドは、ひとり考えていた。
敵に助けられるなんて僕の完敗もいいところだ、だが不思議と憎しみは湧いてこない。自分でもなぜだかよくわからない。
やれやれだ、僕ともあろうものが……
どうやら今日はいい気分で眠れそうなのだ。




