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第20話『ヒナの大冒険〜大いなる野望〜』

 魔王城では、夕食の準備が行われていた。ヒナは、なぜか厨房に入りシェフの一人と話し込んでいた。


「だからっ、黒くて甘くて少し苦い感じなのよっ」

「と言われましてもヒナ様、そんなお菓子は見たことがありません」

 ヒナは、厨房のシェフに何かを依頼しているようだった。


「せめて原料がわかればなんとかなるかもしれませんが……」

 この世界には、コーヒー【正確には似たもの】のように一部の物は存在するのだがヒナが欲しがっているチョコレートの原料となるカカオは存在しないのだった。


 他の材料と言えばバター、砂糖、ミルクみたいな物は、なんとか調達できると思う。しかし、肝心のカカオ豆が手に入らないのでは話にならない。


「よし、決めたっ!」

 ヒナは、ひとり闘志を燃やすのだった。


「で、なんとかしろと言うことか」

「うんっ、おねがい、おねがい、お兄ちゃんっ」

 俺は、ヒナといつものカフェにいた。


 チョコレートが食べたいと言う気持ちは、わからなくもない。俺もラーメン食べたいと思ったことがあるし‥

 しかし、無い物は探しようが無いだろう。


 しかし結局ヒナに押し切られ代わりになるものを探す手伝いをする事になった。兄は、妹に弱いものなのだ。


「じゃあ、まず商店街の豆を売ってるところで話を聞いてみるか」

「うんっ、そうだね。カカオも豆だからねっ」


 俺たちは、商店街の角にある小麦や豆を扱っているビーンズ穀物店にやってきた。ビーンズは、もちろん経営者の名前だ、念の為。


「こんにちは、ちょっとご相談があって来たのですが」

「どうしました、お客様」

 店員が、カウンターの奥から出て来て言った。


「あのっ、ちょっと変わった豆を探しているんですが……」


「どのような豆をお探しですか、当店、豆の種類には自信がございますが」


「アラビカル豆【こちらの世界のコーヒー豆】以外で苦い豆ってありますか」俺は、ダメ元で聞いてみた。


「そうですね、苦い豆はアラビカ茶以外では用途がありませんから商品としては無いようですね」


 やっぱり簡単には、見つからないようだ。ヒナは、ガッカリしたような顔をしている。


「あっ、そう言えば……」

 店員は、何か思い出したのか、奥から一冊の本を持ってきた。


 "世界の豆紀行"

 すごく売れなさそうな名前の本だ。


「あれっ、これアレンさんの本だよっ、お兄ちゃん」

 確かに冒険王・アレン・スペンサー著とあった。


「この中にカブト豆と言う苦い豆が紹介されていたと記憶してますが、油脂分が多い為に商品には、ならないようですね」

「「それだ!」」

 俺とヒナは、思わず叫んだ。


「えっと、全員来ちゃいましたね」

 俺は、先日わかったカブト豆の探索の為に手伝いを打診したのだがまさかの全員参加に驚いた。


 連絡は、メルのハト通信で回したのだが、一体ヒナは、どんな手紙を書いたのだろう。


「お、お前ら今日の目的わかって来てるんだよな。単なる豆探しだからな」


「わかってるよっタケル、あのカリカリクッキーを超えるお菓子の素材と聞いては、命をかけないわけにいかないよ」

 ずいぶん安い命のようだ。


「リ、リンカは、無理しなくても大丈夫なんだぞ」

「お菓子と聞いては一歩も引けない、私の騎士道にかけても」

 騎士道関係ないだろっ!


「アリサは、怖いよな。モンスターでてくるぞ」

「心配無いお兄様、私は冒険王になる」お前、召喚士じゃ無いのかよ


 よく考えたら今日俺が一番危険なんじゃないのか、なんだかんだ、こいつら自分の身は、守れる気がする。


 「みんな今日は、忙しいのに集まってくれてありがとう、手紙にも書いたけどチョコレートって特別な日に渡すと恋が実る効果があるとされているのよ、だから頑張ろうねっ」

 これかっ!この異常なテンションは!

 ヒナ恐るべし‼︎


 ともかく出発する事になった。

 ヒナが2体のワイバーンを連れて来ており分散して乗る予定だ。ちなみに一体は、おなじみガブリエルでもう一体は、ミハエルだ。


 俺は、利口なガブリエルに飛び乗った。


「よし、出発だ、全員乗ったか」


「「「「「はい!艦長!」」」」」

 なんだよ、艦長って!


 てか、全員が、ガブリエルに乗っていた、ヒナを含めて……


 結局、くじ引きで決める事にした…


 ガブリエルチームは、俺、リンカ、アリサとなりミハエルチームは、ヒナ、メルとなった。


 ヒナとメルがこちらをガン見しているのは置いといて……

 まあ、バランスの良い組み合わせだと思う。

 さあ、今度こそ出発だ。


 2体のワイバーンが、空に飛び立った。

 ガブリエルの背中は、ごつごつしていて乗り心地は、いいとは言えないが空からみる景色は最高だった。


 俺たちの住むのどかな田園地帯を眼下に見下ろしその先には緑の森の地平線が広がっていた。


 リンカとアリサも感動している様子で俺に笑顔を向けていた。


 ヒナとメルも喜んでいるだろうと思い俺は、ミハエルの方を見た。

 渋ヅラだった!おいっお前らミハエルさんに謝れ!


 目的地に着くまでは、そう時間は掛からなかった。

 俺たちは、森の手前の少し開けた場所に降り立ち探索の為の準備を始めた。


 目の前の森にカブト豆があるはずなのだ。

「今回は、モンスター討伐が目的じゃないから危険だと思ったらすぐ逃げる事にしよう、あとなるべく固まって行動しような」


 俺は、もっともらしい事を言ったが100%自分を守りにいったことは間違いない。だって弱いから俺


「「「「了解!」」」」

 よし、バレていないぞ!


 森の中に入ると誰かが切り開いた様な痕跡があり少し俺を安心させた。


 カブト豆は、大きな丸い実の中心に細かい種として存在し実の形が兜の形に似ている事からその名が付けられたようだ。


 カブト虫を連想していた俺としては少々がっかりしたのだが。


 メルが、木からぶら下がっている大きな実を発見した。


「隊長、もしかしてアレですかっ?」

 その実は、どす黒い紫色で白いマダラ模様だった。

 明らかに、毒だろこれ!


「違うよメル、もっと黄色っぽい爽やかなやつを探してくれっ」


「お兄様、私も見つけた」

 アリサが指差す先に黄色い実があった。ただしひょうたんだった。

「アリサ、もっと丸い感じの実をさがしてくれ」


「タケルっ、こっちも見てくれないか」リンカが叫んだ。

 黄色くて丸い実がそこにあった。

 おっ、これはと思って近づいた時

 どこからか飛んできた虫がその実にパックリ食われたのだった。

 次いってみよう!


「なかなか見つからないもんだなぁ」

 結構探しては、いるんだがな

 俺が途方に暮れているとヒナの声がした。

「あったよっ、お兄ちゃん」

 俺はみんなを連れてヒナの方に向かった。

 なるほどそこにはカブト豆が群生していた。上から見ると兜というより黄色いヘルメットが並んでいる感じだった。カブト豆は、森の沼に生えていたのだった。


「やったな!ヒナ!」

 他のみんなも喜んでいた。


 しかしそれも束の間だった。ゴリラの様な大型モンスターが数体姿を現したのだった。モンスターにとってもここは貴重な水源なのだろう。

 のんびりカブト豆を収穫させてもらえる雰囲気ではない。


「お兄様、あれは、ロックデュオ、とても硬い皮膚を持ったモンスター」

 アリサは、博士くんのような説明をしてくれた。


「弱点はあるのか、アリサっ」

「打撃系の攻撃は、効きにくい上に魔法耐性もある。ただし大きな音には極端に弱い」

 なるほど何か爆発させれば気絶するか逃げていくかするようだ。


 ただ今の装備では、該当する持ち合わせはあるわけもなく、奴らに気付かれれば撤退するしか無いだろう。


「爆弾じゃなくても大きい風船みたいなものがあればいいんだか」

 リンカがそんな事をつぶやいた。


 なるほど、上手くいくかはわからないが試してみる価値はある。


 俺はメルとヒナを呼んで、ある事を頼んだのだ。


 "ぱあーーーん"森全体に響くような破裂音がした。その瞬間ロックデュオは、慌てて逃げ出してしまい姿を見せる事はなかった。


 上手くいったようだ!

 俺は、メルに魔法でカブト豆の実を大きくしてもらい、それをヒナに火の魔法でゆっくりあぶってもらったのだ。

 膨張したカブト豆の実は、大きな音を立てて破裂したのだった。


 アリサの知識とリンカの発想それにふたりの魔法が組み合わさった結果だった。

 もっとも他にも方法はあったかも知れないがリスクの少ない選択だったと思う。


 魔法で大きくした実からは大きなカブト豆が弾け飛んできた。


「でかっ、なにこれ」


 それを俺たちは、持ち帰る事にした。程よくローストされたカブト豆を…


 数日後、俺たちは商店街のパンデミックスに集まっていた。ヒナが完成したチョコレートを持ってくる予定なのだ。


 ヒナが遅れてやって来た。


「皆さん、この前は、ご協力ありがとうございましたっ」

 そう言ってヒナは、箱を差し出した。


 箱の中には、ハート形のチョコレートがたくさん入っていた。

 見ためは、俺の知っているチョコレートに違いない。


「さあ、食べて見てっ!」

 みんなは、見た事のない食べものに少し躊躇していた。

 まず俺が食べるしかないよな。

 ひとつとって口に入れた。


「えっ、これチョコレートだよ」

 想像以上にチョコレートだった。

 変な表現だけど……


 それを見たメルが、続いてパクリとやった。

「ん、んん、なにコレ、すごい美味しいっ」

 その後は、みんな争ってチョコを食べていた。やはり女の子は、チョコが好きなんだなと思いヒナを見た。


「お兄ちゃんっ、ありがとう!」

 嬉しそうなヒナの笑顔がそこにはあったのだ。

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