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第145話 虹色の悲劇

直径にして20メートルは、あっただろうか、エスキモーなら大所帯が住めそうな半球状の氷の塊は、ガラスの様にひび割れ砕け散った。


「マジかよっ!!」


「信じられないよ!」


さすがのメルもシュベルトの恐ろしさを肌で感じ始めたのかもしれない。霧散した氷は、キラキラと光を反射しながら宙を舞う。


「ああ、お前もそう思うか」


「うん、信じられないくらい、綺麗だねっ」


待てコラ! そうじゃねえだろっ!!


そもそもシュベルトが、あらゆる音対策を想定しているのは当然の事だろう。充分な対策を考えられる程奴らの寿命は長くもあり、力こそ個体の価値基準とされている環境で生き抜いて来たのだから不利な状況下でのシミュレーションなど終わっているに違いない。


「多分シュベルトは、自分の周りに無数の空気の粒を作り出したんだと思う」


アリサが、推論を述べる。確かに炭酸水などを凍らせた時、気泡が含まれた柔らかい氷が出来ると聞いた事がある。もし笛魔法が、風だけではなく空気や酸素ような細微な物質の操作まで行えるなら恐怖でしかない。


「アリサの考えが、合っているかは分からないけど俺は、それ以上は無いと思うんだ」


「私もそう思う。この空間から酸素を無くす事が出来るならとっくにやっているはず」


「だよな」


やはりアリサは、頭の回転が速い、と言うか他にこんな話ができる奴がいなさすぎる……


へこむよ、俺のパーティの顔ぶれ……


「諦めるなっ! タケル! ゲラップ!」


「そうだよ、あたしがパーンとやるからさ!」


いや、テンション下がったのお前らのせいだから!!

パーンってもう雑すぎるだろっ!


リンカとメルは、ドヤ顔で謎の強メンタルを漂わせる。


「さあ、これを食べて元気を出しなよ」

 

メルが、懐から肉まん(正確には似ているもの)を取り出して俺に渡した。この局面で肉まんを食べようとするコイツの余裕がどこにあるのが不思議でならない。


「いらんわっ!!」


怒りで闇雲に投げつけた肉まんは、虹色の物体の後頭部にぶち当たりダラリとジューシーな肉汁を流す。


「ぎゃーーーーーーっ!!!! 脳みそがあぁぁぁぁっ」


虹色の物体(ホサマンネン氏)は、自分の後頭部から具と肉汁が流れ出るのを脳味噌が流出したものと勘違いして死ぬ程驚いたうえにキリモミしながら卒倒した。


「駄目だな、こりゃ」


メルとリンカは、倒れてピクピクしている虹色のホサマンネンさんにそっと手を合わせる。


いや死んでねえし、ちょっぴり俺にも責任あるから!


「やれやれ、こんな酷い戦いは初めてだな」


鋭い殺気を放つ主は、粉砕された氷の霧の中から姿を表す。その身に傷一つ負うことなく霜の様に纏わりついた氷の粒を払う。


「シュベルト!」


シュベルトは、砕け散った玉座の上に不気味に佇んでいた。それまで見せていた余裕の笑みは無く、その目からは、一切の感情が消え失せていた。


ですよね〜っ……


初めて訪れた魔王城の書庫で見た時のシュベルトの顔が、思い出された。


「あっ! アイツっ!」


「どうしたメルっ! 何が気が付いたのか!」


「うん、アイツ、魔王ランドで会った奴だよっ!!」


おいいいいっ! 今かよ、それ気が付くの!!

そして魔王城を魔王ランド言うのやめろっ!


どうやら何と闘っているのか今まで知らなかったらしいのが、途轍も無く心配になって来た。


「おい、タケルっ! あの笛ピッピが、何が仕掛けて来るぞっ!」


とんでもないディスりが、リンカの口から放たれた。確かに笛は、ぴーぴー吹いているが流石に酷い。


「ロザムンデ」


何かを唱え笛を吹くシュベルトの体は、青白い光を放つ球体へと包まれた。


広範囲に強力な魔法を打ち出す事が出来る笛魔法だが全てにおいて都合の良い訳では無い。その強力さ故に引き換えにしているものが、あったのだ。俺が、それに気が付いたのは、既に奴が青い半透明の防御壁を創り上げた後だった。


「まさか……」


アリサを見ると俺の考えを察したのか深刻な表情で頷いた。


恐らく笛魔法の弱点は、インデックスとなる魔法名の呼称を起点とし笛を鳴らす事によって発動する。つまり発動までの速度が、若干遅いのだ。流石に喋りながら笛が吹ける奴などいない。


もっとも先手を取れるのはヒナやメルみたいにほぼノータイムで詠唱を唱えられる奴らに限られるけど。


シュベルトが、寡黙に見えたのはひょっとすると欠点を悟られぬように予め幾つかの詠唱を唱え準備していたのかもしれない。


だが今は、硬い魔法防御の殻に守られ安全な立ち位置で戦う準備が整っている。


「あいつ、遂に引きこもりになったよ!」


メルが、叫ぶ。


「確かに友達は、いなさそうだが笛吹きながら引きこもる奴はいないだろ!」


「じゃあ吹きこもりかな?」


そんな賑やかな引きこもりはいない。


さらにシュベルトは、抑揚をつけた複雑な音階の音色を高めていく。


音色に呼応するかの様に輝きを増す防御壁は、イルミネーションの様に様々な色彩に変化して心を魅了する。


「タケルっ! 何て美しいんだっ! はわわわわっ!」


「おいっ、リンカっ! あからさまな罠だぞアレ!」 


「で、でもっ……ああ、美しい青い光が……」


リンカは、人一倍可愛い物や綺麗な物が、好きなのだ。まるで夜光虫の様にシュベルトの球体に吸い寄せられていく。


それだけではなく、メルやヒナ、そしてグライドまでもフラフラと光に引き寄せられるように近づき始めている。


「お兄さまっ!! あれは幻術の光、取込まれれば操られて購買にアンパンとか買いに行かされるかも……」


「えええーっ!? あるのか購買部!」


きっと笛魔法が、最も得意とする分野の魔法なのだろうがアリサのせいでちっとも緊迫感が湧いてこねえ。


「やべぇ! このままじゃ、パシリンカが爆誕してしまうぞ!」


味方が、敵に寝返るなんて最悪のシナリオでしかないがこの状況を打ち消す程のインパクトを与えない限り奴の思惑通りにことが進んでしまう。


この時になってようやく俺は、シュベルトがぬるい攻撃ばかり仕掛けてきた意味を理解した。


ーー 味方同士の殺し合い ーー


奴の狙いは、それを愉しむことだったのだ……









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