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第105話 『終わりなき白昼夢』

ドルフィーナさんの情報を受け取ってから早くも1週間が経とうとしていた。クラッカルは、城の防御を固めるべく入念に防御魔法の準備を進めていた。

街の外周に造られた壁の補強と二重丸の効果を拡げる為に直接壁面に魔法陣を描いていく。ある程度の間隔を開けながらもその作業は、かなりの時間を費やさなければならなかったようだ。



「タケルが、遊んでる間にこっちは大変だったんだからね」


どうやらクラッカルは、一緒に時計台に行けなかった事を恨んでる様子だ。だが普段、城から出る機会がほとんどないクラッカルにとって王国の端まで出かけられた事は良いリフレッシュになったようだ。そのせいか声に疲れたようすは、なかった。


「ありがとうございます。クラッカル様、シュベルトが来るという事は相当な数の魔族の部隊を引き連れているはずです。少しでも守りを固めるに越した事はありません」



「ええ、タケルに言われた通り避難出来る国民は全て他国に避難させたわ。もっともここに戻って来るのかはわからないけれど……」


クラッカルは、少し寂しそうな顔をした。国民がいてこその王国なのだ。ここは、クラッカルにとっても大切な故郷である事には変わりない。バルセイムに人がいなくなればそこは廃墟に変わってしまうだけなのだ。


「ねえ、クラッカル様、国民は君を信じて国を離れたんだ。だったら君も国民を信じればいいんじゃないかな」



俺の言葉にはっとした顔をしたクラッカルは、次の瞬間ニッコリと微笑んだ。そして鈴の音のような澄んだ瞳を俺に向けた。



「タケルは不思議な人だね。落ち込んでるのが馬鹿らしくなったわ。きっと、あなたの仲間もそんな気持ちなんでしょうね」


クスクスと笑いだすクラッカル



「えっ、俺なんか変な事言った?」



「ええ、変ね、本当に変な人だわ」


クラッカルは、そう言って俺の頬に口づけをした。


「な、なななな!?」


「ありがとう! タケル!」


お礼を言われる覚えはないのだが、今のはクラッカルなりの感謝の気持ちだったのだろう。

素直に喜ぶべきなんだろうな…………背後からの刺さるような視線がなければね!!



「お・に・い・ち・ゃ・ん・っ!!」



部屋の入り口辺りにヒナがいた…………


「ギリッギリッ」


どうやら擬音を口で言ってなさるようだ……



「や、やあ、ヒナじゃないか! な、何か用かなっと」



「ちゅ」


ヒナは、ジト目で俺に伝える。完全に見られていたようだ。だが俺はちっとも悪くないよね。


「あ、挨拶の事か、いやぁ、国が違うとこうも文化に違いがあるなんて驚いちゃったよ、お兄ちゃんは、ハハッ」


「挨拶じゃないわよ、タケル! 好きでもない人にこんな事するわけないし……」


ちょちょちょ、な、何言ってんだあんた!


クラッカルは、俺の渾身のフォローを一瞬でミジンコに変えた。何度も言うが俺はちっとも悪くないはず……だ……



ドガッ!!!!



またまた俺の身体は、部屋の壁面にめり込んだ。

薄れゆく意識の中でヒナの掌底を放った姿が見えた。

ああっ、また俺は階段を踏み外すかのような間違いを……




気がつくと目が覚めた俺を誰かが介護してくれていた。濡れタオルを額に当てがってくれているようだとわかった。顔までは見えないがタオルの下からその相手の服装がわかった。どうやらメイドさんのようだ。



ヒナでもクラッカルでも他の仲間たちでもないようだ。場所は先程の部屋の中であることだけはわかった。



「あっ! 目を覚ましたみたいね。別にアンタの事が心配で世話をしていたわけじゃないから! これも業務の一環というか仕事なんだからね」



メイドさんは俺が意識を取り戻した事に気付いて声をかけた。

ツンデレ? いや、ビジネスライクなのか!?

しかし、その声にはどこかで聞き覚えがあった。

どこだったかな? 意識が朦朧としてハッキリと思い出せない。何か重要なことのような気がしてならない。



「タ、タケル隊長殿ーっ!」



今度は、俺を呼ぶ声が近づいてくる。間違いなくホサマンネンさんだ。



「まあ、ホサマンネン様、凄い汗! タオルで拭きませんと!」



そのメイドは、俺の額から素早くタオルを剥ぎ取るとホサマンネンさんに駆け寄った。その後ろ姿にやはり見覚えがある!



ホサマンネンさんの上半身が裸なのはともかくとして、そのメイドの横顔を見た俺は驚きのあまり叫んでしまった。



「ニ、ニャルロッテ!」



今の俺でもハッキリと分かる。時計台で俺達を殺そうとしていた魔王候補生ニャルロッテがメイド姿でホサマンネンさんに寄り添うように立っていた。


そして流れる汗を甲斐甲斐しく拭き取っていたのだ。



「い、一体何が起こっているんだ……」



俺は目の前の光景が夢であって欲しいと願う事しか出来なかった……
















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