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第102話 『闘いの始まりにゃー』


「ニャルロッテ!」


ヒナは、地下室に突然現れた得体の知れない相手を指差し、そう叫んだ。


外見は可愛い女の子、だがその頭には二本のネコ耳が生えており、背中に白い羽根まで備わっていた。もちろん作り物なんかじゃない!


「アイツを知ってるのか? ヒナっ」



どうやらヒナの魔族の知り合いらしい。

だが奴のセリフとヒナの強張った表情から味方だとは思えなかった。


「お兄ちゃん、用心して!」



ヒナの言葉が俺の推測を裏付ける。やはり敵に違いないのだろう。



「あら、ヒナっち、仲間に対して随分とつれないことを言うのね」



「あんたを仲間だと思ったことなんてない!」



「ふ~ん、だったら殺してもいいかしら? そこにいるあなたの彼氏を」



「か、かか、かれしっ!?」



「そう、そこの彼氏、ちょっとタイプだけど惜しいわねシュベルト様のご命令だから」



何故だかヒナは、下を向いたまま固まっている。



「それは聞きずてならないわね!」



メルが髪の毛を金色に染めた。つまりメルの本気モードだ。


「あんた確かニャロルッテって言ったよね、あんたの間違いは、あたしが正してあげるわ」


ニャルロッテなメル、正すのはお前の方だよ!


「いい、良く聞きなさい。タケルはあたしの彼氏なんだよ! スイートハニィなんだよ!」



いや、それ今はどうでもいいよね! 色々間違ってるぞ、お前!



「メルっ! あんたの言ってることはおかしいよ!」



さすがリンカ、脱線した話を戻すのはお前しかいないぞ!



「タケルは、私のモノだ!」


遂にモノに降格した俺、リンカもあてにはならなかった。



「お兄様、ここは私に任せて欲しい」



おおっ、アリサ! やっぱり頼りになるぜ!



「私とお兄様は婚約指輪を交わした中、それ以上に確かな物などないっ!」



ええっ、この指輪やっぱり婚約指輪だったの!?

俺は、ダダ漏れのテレパシーを抑える指輪をあらためて眺めた。



「あなた、タケルという名前なのね。随分モテモテのようだけど強そうな感じはしないわ。シュベルト様のおっしゃるように殺す価値なんてあるのかしら?」


呆れたように言い放つニャルロッテ!

君は間違っていないよ、だって俺も呆れているのだから……


「ね~え、タケル、いっそ私の下僕にならないかしら? もれなく可愛がっちゃうんだから」



ニャルロッテは、猫型魔族特有の甘い声で誘いをかける。しかしこの場に渦巻く殺気に気付いて腰から伸びた尻尾を逆立てた。


「な、何なのコレ……!?」



ニャルロッテの額から一筋の汗が流れ落ちた。


殺気を放つ俺の仲間達は、それぞれの攻撃態勢を整えてニャルロッテに狙いを定めていた。

一体どちらが悪党なのかわからない!



「言っていい事と悪い事がある! あんたがタケルを取るつもりなら容赦はしない!」


メルの言葉に軽く後ずさりするニャルロッテ。


怖いよお前ら……



「こ、こここ、こうなったら、私も総力戦に持ち込むわ! いい加減出てきてよ!」



ニャルロッテの呼びかけに3つの影が浮かび上がる。恐らく奴の仲間に違いない!


「ふふっ、臆病な奴だな、まったく」


黒い影の一人が呆れたような声でニャルロッテに言い放った。



「だって怖いんだもの……」



瞳をうるうるさせるニャルロッテ、もはや緊張感のかけらもなかった。



「ふふっ、やはり俺達に頼らないとダメなようだな」



「ヒナっ! あいつらは何者なんだ!」


「うん、あいつらは上級魔族だよ。それぞれが特殊な能力を持っていてかなり強いんだ。そして私と同じ魔王候補生だよ」



「マジかよ! だったら奴らも『時のグリモア』を狙ってここに来たんじゃねえの? 城に入り込んだカイニバルって奴がすぐにクラッカル達を狙わなかったのは『時のグリモア』の場所を探ろうとしていたからだと思うんだよ。その城で手掛かりが無かったとしたら……」



「それは分からないけど、シュベルトの考えそうな事だわ。きっと何らかの取引をしてるはずよ。あいつらは損得でしか動かないから」



ヒナの言葉に苦笑する魔王候補生の面々。


「ふふっ、すぐにお別れとなるお前達には特別に教えてやろう。シュベルト様は俺達『ダークファイブ』に幹部の地位を約束して下さったのだ。あの方には、誰も勝てない。だったら配下についた方が得策だと考えてもおかしくはないだろう」


ひときわ背の高い魔族が腕を組みながらペラペラと喋り出した。


「計算おかしいんじゃないの? 4人しかいないじゃん」


メルは、4人組に対して人差し指を突き出した。


「ふふっ、1人はエルフの森で不慮の事故によりくたばったのだ。恐らくとてつもない数のエルフの戦士にでも囲まれたのだろう。でなければ奴がしくじる訳はないからな」


ノッポの魔族は、俺の世界で言うところのキリンのような長い首をしていた。体が黄色っぽいのも違和感がない。


俺達は、そのキリンの話に身に覚えがあった。


「ひょっとしてタージリックって奴の事を言ってるのか?」


俺がキリンに問いかけた。


「なぜその名を! いや、待て! ヒナとか言うそこの忌々しい人間の娘が教えたに違いない」


「いや、そうじゃない、直接本人に会っている」



俺の言葉を聞いたキリンの額にピンク色の汗が水滴となって溢れ滴り落ちた。白いシャツを着ていたならいちいち汚れるに違いない。


そんな事を考える程、俺は落ち着いていたのだ。


「タージリックは、俺達が倒した!」


明らかに動揺するキリン達……


「ハッタリだ……そんな訳はない……」


他の2人の魔族も声にならない叫び声を上げた!


「がああああっ!」


再び前に出たニャルロッテは、さっきのメルのお返しとばかりに俺達を指差した。



「ふ、ふふ、お、お前達、そ、それが本当なら、か、か、か、覚悟して、ふ、震えなさい!」



アンタが震えすぎだろ、ニャルロッテさん!



かくして今までベールに包まれていた魔王候補生と俺達の命を懸けた闘いの幕は切って落とされようとしていた。



互いの緊張感がピークに達したその瞬間、更に階段を降りてくる足音がした。何故か奴らもビクついている。



「あの~っ、皆さん忘れ物届けにきましたよーっ! お弁当! お弁当忘れてましたよ」



そこには、大きな包みを抱え、満面の笑みをたたえたホサマンネンさんの姿があった。



本当に間の悪い人っているんだな……



この時、俺は生まれて初めてそう思った。








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