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第101話 『サイコロと運命』

壁に浮かんだ青白い文字は、暗いフロアーの周囲をほのかに照らしていた。


「読めないね、何かの文字か記号みたいだけど」


メルは、壁の文字を見て首を傾げている。確かにこの世界の人間からすれば壁の文字は、記号にしか見えないに違いない。しかし……


俺が、ヒナを見るとわかったという顔で小さくうなずいた。


「ヒナ、これカタカナだよな?」


「うん、私にもそう見えるけど」


「大賢者がいた頃ってカタカナってあったのかな」


俺とヒナの予想は、遥か昔に国王とこの時計台を造った大賢者が、俺達の世界の人間だという事だ。


「私もそれは思ったんだけどお兄ちゃんと私がこの世界に飛ばされて来た時も時間のズレがあったよね。だからもし大賢者さんが遥か昔に飛ばされていたとしたら……」


「そうかっ! だったら可能性はあるな!」


「うん、試す価値はあると思うよ」


俺とヒナの会話にアリサ以外の仲間達は、不思議そうな顔をしている。仲間には俺達が他の世界から転移してきた事は告げてないのだ。ただ遠い国からやって来たものだと思っている。


壁に刻まれた青く光る文字は、『口口口カタブラ』と浮き出ている。


「う〜ん、これ『ロ』じゃなくて四角だよな? 穴詰め問題なんかでよくあるやつ」


「うん、だよね、お兄ちゃん。だとしたら四角に文字を書くんだろうけど、やっぱりアレだよね、どう見ても……」


ヒナは、複雑な顔をしている。それは、ややドン引きな様子にも見えた。



「確かにこの世界の人間には、わからない呪文かもしれないけど……だとしたら、この鍵にべっとり付いているモノがヒントになっているってことだよな」


「ヒント要らないよね……」


「ああ、要らないよな……」


ヒナと俺は、この謎を作った大賢者に軽い怒りをおぼえた。おかげで手はベタベタのままだし。



「まあ、書いてみるか」



俺は鍵を使って壁の四角に文字を書き込んだ。

そこに青く光る文字の軌跡が刻み込まれる。



「ア・ブ・ラ」



これでいいはずだ! てか、これしかねえ!

ここに辿り着くまでに費やしたお小遣いに目頭が熱くなる。


サラサラと呪文の文字を書いた俺に尊敬のキラキラとした眼差しを向ける仲間達……


なんだか申し訳ない気持ちになるのはなぜだろうか。


壁の全ての文字が点滅し周りに長方形の光の亀裂が入った。ちょうどドアのように型どられた亀裂は、強い光に包まれ、やがて壁に空間を作り出した。


「入り口? だよな」


俺の言葉に黙ってコクコクと首を振る仲間達。


近づいて覗き込むと開け放たれた四角い空間に地下に降りる階段が造られていた。


「流石に罠じゃないだろうけど、用心しながら進んでみようか」



薄暗い通路だがほんのりと魔力による青白い光が点々と続いており、何とか足元を見失わずに済みそうだ。


慎重に確かめながら階段を降りていくと地下には時計台の敷地と同じ広さの空間が作られていた。


その中央に箱のような四角いオブジェがあり天井の灯りに照らし出されていた。色合いから壁と同じ素材の石で作られているように見える。


「あれだな!」


「あれだね!」


「それだね!」


「これだね!」


「どれだね?」


なんか変なのも混ざっていたが概ね全員の意見は一致していた。


箱型のオブジェに近寄って観察してみると土台である箱にサイコロのような模様の付いた箱が更に三段ほど積み重なるデザインになっていた。


ちょうど三段目のサイコロに手を伸ばせば届くらいの高さで積み上げられていた。


「どこか開くように出来てないかな?」


「タケル! この箱って穴がたくさん空いてるよ」


リンカが声を上げた。それは俺も気付いていたのだがまさかの仕掛けだろうか。だったらふざけてるんだけど……


「お兄ちゃん、やってみようよ」


複雑な表情のままヒナが言った。


「うう〜ん、それしかないよな」


ちょうどサイコロの目のような穴は、手にも持った鍵と同じくらいの大きさに見える。

差し込んでみるとやはりピッタリと奥までハマった。


「なんの反応もないね……」


メルが座り込んでつまらなそうに呟く。

完全に飽きてきてるよ、この人。

もう少し時間が過ぎれば魔法で破壊しようとしかねないだろう。

それにしても、さっきまでの占いのテンションは、どこいった!


「このサイコロの穴に鍵を順番に差し込んで当たりを見付けた者が勝ちでいいと思う、お兄様」


勝ちってなんだ、アリサ!

だがこの言葉は、本当にバカバカしいが全員の闘志に火を付けた。



「タケルっ、ボヤボヤしてる場合じゃないよ」


さっきまでつまらなそうに座り込んでいた奴のセリフかよ!


お決まりのジャンケンで順番を決めた仲間達は、俺を無視して穴に鍵を差し込んでいく……


「いやったあああああっ!!!」


こんな時のメルは、実に運がいい、見事に当たり穴を引き当てた。箱全体が強烈に青く輝き地下全体を明るく照らす。バラバラと崩れるサイコロの箱。



離れて様子を見ていた俺にメルが近寄って頭を差し出した。



「当たったご褒美!」



どうやらコレがこいつらの目当てだったらしい。



「お手柄だな、メル」



俺は、メルの頭をナデナデしてやった。嬉しそうにしていたメルの表情は、次第にこわばりやがて涙目に変わった。



そう言えば俺の手って油でベトベトだったよ……



油でベットリとなったメルの髪の毛は、艶やかな光沢を浮かべていたのだ。

どうするコレ……


「うわ〜ん、ひどいよ。タケル」


「何言ってるんだよ。ツヤツヤだよ、メルの髪の毛」


「えっ!」


俺の言葉に驚いた表情のメル。


仲間達も俺に同調するように機械的に頷いている。気の毒に思う反面、皆自分じゃなくて良かったという気持ちが滲み出ている。


「本当にツヤツヤなのか?」


「ああ、本当だ!」


俺は、自動販売機でもう一本缶ジュースが当たった時のような爽やかスマイルで答えた。



「そうか、ツヤツヤなんだな、私の髪」



笑顔を取り戻すメルは、本当に良い子だと思う。

すまんメル、ツヤツヤと言うよりテカテカなんだよ……

俺の心は、ちょっぴり痛んだ。


ともかくメルのお陰で手についた油が少し取れたのは大手柄だ。



あらためて箱のオブジェに近づいて崩れたサイコロのカケラを取り除くと中からフタの付いた小さな箱が現れた。



「あったぞ! きっとコレが魔導書に違いない!」



俺は、期待に膨らむ気持ちで覗き込んだ仲間達の前でゆっくりと箱の蓋を開けた。



「………………なんか薄くね」



現れた魔道書は妙に薄くちょうどノートくらいの厚さだったのだ。


「で、でもなんだか高そうな雰囲気はあるよ。表面は革張りみたいだし」


ヒナの言葉は、まるで慰めのようにも聞こえる。



「確かにそう言われると、ほのかに気品を感じるような気にもなってきたけど、魔道書って漬物石の代わりに使えそうな、もっと分厚い物だと思っていたからな」



「そうだよね。私も枕にも出来そうなほど分厚いイメージだったけど本物の魔道書なんて見たことないから」



実際、アニメやゲームの中でしか無いんだよね、魔道書のイメージってさ



きっと先入観ってヤツが邪魔をして大事な物を見失う事もあるのかもしれないな。



少し反省をして魔道書を見ると古びた風合いがタダならぬ気配を放っている。表面には時計を模した魔法陣と死神の鎌のような図形が金色のインクで描かれていた。



もう何も迷う事はなかった……




魔道書『時のグリモア』は、長い時間をかけて俺達が来るのを待っていてくれたのだから……


それに応えるかのように俺は、その表紙を優しく開いた。




ぺらり




" やったね! 楽しんでもらえたかなっ、これを読んでいるあなたは、超やった感に震えているに違いないでしょう。そうですとも、この数々の謎を解き明かしたあなたは、自分をほめてあげて良いんです! なぜならあなたは愛されているのです。ゲームの神に、にゃは!

でも残念、ここには『時のグリモア』はありません。えへっ、実は最強といわれるあの人に預けてあるんだよね。これは、国王様にも内緒なのだ。だからその人からもらってちょんまげ

ではでは、おつかれちゃん


大賢者エクス・タシーィ "





「…………………………。」




「…………………………。」






「うぜーーーーーーーーーーっ!!!!」





俺は、その魔道書ではなかった只のノートを一気に破り捨てた。案の定、文字は日本語で書かれていたのだ。




「タケルが魔道書を破ったあ!」




「タ、タケルっ、一体どうしたんだ」




メルとリンカは、何が起こったのか分からず唖然としながらも俺を抑えつけようと駆け寄って来た。



破り捨てたノートを拾ったアリサは、書いてある文字を目で拾い、なるほどという顔をしている。

どうやらアリサは、日本語も読めるようなのだ。



マシュは、俺がおかしくなったんだと思い、怯えながらウロウロしだした。確かアイツは、俺の考えがわかる筈なんだが……




「みんな落ち着いて! お兄様はそれほどおかしくはありませんっ!」




アリサが、珍しく大きな声を張り上げた。その声は、皆を驚かせ鎮静を促すには充分なものだった。



ありがたいのだが、それほどってなんだ!




「お兄様が破り捨てたのは魔道書ではありません。只の自由帳です。ふざけた大賢者エクスは偽物の仕掛けで私達を欺いたのです! だからここには魔道書『時のグリモア』は初めからなかったのです」



「「えええっ! これ自由帳だったの?」」



メルとリンカは、驚いてその場にガックリと膝をついた。自由帳かどうかは大事じゃないから、お前ら!



「あ、あたしの懸賞金が……」




いや、そもそも、そんな賞金掛かってないし!

それでもメルの思考回路は、至って正常だ。




「いいか、このノートに書いてある通りだとすると……」




俺の言葉は、唇に当てられたアリサの指に遮られた。




「しっ! お兄様、ヒナ、何かがやって来ます! ノートを燃やして下さい!」




ヒナは戸惑いながらも大賢者のノートを魔法の炎で消し去った。




それとほぼ同時に地下室の入り口から足音が近づいて来るのがわかった。

その足音はやがて立ち止まり、甲高いアニメチックな声に変わった。




「はあ〜い! 魔道書泥棒の皆さん! あなたがたを粛清に参りましたわ。 現行犯のあなたがたに与えられる刑は、たった今確定致しました。うふふ、聞きたいかしら……聞きたいわよね。でははっぴょーしまーす! あなた達は、死刑です!今から強制的にこの世から卒業してもらいますので……よ・ろ・し・く・ね」



得体の知れない相手はそう言って意地悪く笑みを浮かべた。











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