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未来の足音  作者: 桜 風
奇妙な隣人
5/10

はじまりのワルツ


 

「ごちそうさまでしたぁ♡」

 

こいつご飯3杯もおかわりしやがった。

遠慮しろよ少しは。

米なくなる。

 

「もういいでしょう。自分の部屋に戻ってくれませんかね」

 

「えーじゃせめて!ピアノ弾かせて!」

 

「いいですけど…」

 

この人ピアノなんて弾けんのか?

確か音大がどーのこーのって……

 

「…」

 

隣人がピアノイスに座った瞬間

空気がかわった気がした。

 

どことなく張り詰める舞台の空気。

昔の発表会で感じた古い記憶が引き出される。

 

ピンと張って

外の雑音さえも耳から消える

きっと

これを人は緊張感と表現するのだろう。

 

その静かな

張り詰めた空気を壊すように

ピアノの音がなめらかに流れ出す。

 

ゆったりと優しく包み込むような音色

途中低音が加わり音に深みが増す。

まるで桜吹雪が目の前で舞ってるのが見えるような気さえした。


どこか

春の花畑に誘うような曲。

なめらかな優しい三拍子曲。

 

ワルツだ。

 

俺は少しピアノをかじっていた。

だからわかる。

この人はうまい。

 

テンポが早くなり曲は最大の盛り上がりへ向かう。

途中、彼女は手を止めた。

 

小さな沈黙が訪れた。

聞こえないはずのそよ風の音が耳に届く。

 

「この先は知らないんだ」

 

彼女は少し寂しげに微笑んだ。


俺は

なんだか追い出す気にはなれず

黙っていた。

 

「知らないかな?流行らなかったもんね…ここまでは曲調がすごい好きでさ覚えたんだ」

 

確かに

俺も割と好きな曲調だ。

 

暖かく優しい音色。

余韻。

弾き方。

全て綺麗だった。

 

「さてとっお邪魔しました!これからよろしくね!」

 

 

彼女は明るすぎる笑顔を向け

俺の部屋を出ていった。

 

俺は何も言えず

しばらく曲の余韻に浸っていた。

 

曲の余韻…というより

彼女の悲しげな笑顔に何か引っかかっていた。

 

何故…あんな顔をしたのだろうか…





まぁいいか。

そんなこと考えもしょーがないよな。


俺は静かに2人分の食器の片付けに入った。



 

 

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