花畑の笑顔
「いらっしゃいませー」
明るく透き通る声。
様々なフルーツや花の甘い香り。
のどかなBGMと
木の陳列棚に並ぶ色とりどりの瓶。
まるで別世界だ。
カフェエリアを覗くと結構な人集り。
女性客が多いのかと思ったが
結構男性客もいる。
店員がかわいいからか…?
それにしても
俺がいるべきところではないが…
「こんにちわ!今日面接の約束してた木菅です!」
「かしこまりました。今オーナー呼んできますね」
低気圧女からもらった桜ジャムが美味すぎて。
つられて面接にきたってわけだ。
帰るわけにはいかない。
「こちらにどうぞ」
案内されたのはレジ奥の扉。
扉の奥には甘い香り漂うキッチンがあった。
キッチンを通ってまた違う扉に入ると
そこには無機質な白い空間が存在していた。
白い部屋にドンッと置かれた大きな業務用パソコン。
唯一の柄は更衣室と思われる2つ扉のハートとマークとスペードのマーク。
壁に沿ってある大きめの長机にはメニュー表が乗っている。
賄いメニューだろうか。
少し待っているとスッタフルームの扉が開き
1人の立端な女性が入ってくる。
彼女は艶やかな髪を後ろで一つに縛り
表現は柔らかい。
微かに桜の香りがする気がした。
「はじめまして私がオーナーの藤澤 咲。今回はご応募ありがとう」
綺麗な声に1本芯が通ってる声だ。
男性客を魅了する女性オーナーってところだろうか。
「はじめまして!木管 翼です!」
「琥管 奏汰です。」
「あら、2人ともこすがって言うのねご兄妹かしら。」
「いえ違います。」
「アパートの隣人なんですけど彼も仕事探してたみたいなので!」
俺は別に探してない。
「ふふ そうなの。2人はこの店で好きな商品とかあるかしら?」
「私は桃ジャムとマーガレットのジャムを使った紅茶です!甘い香りと爽やかな香りがたまらなくて…」
「俺は桜ジャムです。あの桜独特の香りにほのかな甘さ。桜の塩漬けがアクセントになっていてやみつきになりそうです。」
「そう ありがとうね」
この人すっごい嬉しそうに笑うな…
花が咲き誇ってるみたいな笑顔だ。
「それじゃ履歴書もらおうかな。」
用意してきた履歴書を藤澤オーナーに渡す。
藤澤オーナーは二人分の履歴書を真剣な表情で見つめた後…
「翼さんはなんのバイトしてたの?」
「はい!ファミリーレストランで接客やってました!」
「そっかそっか。元気あるものね」
「俺は特にバイトしてないですが家でジャム作りにチャレンジしたことはあります」
「あら なんのジャム作ったの?」
「俺の庭に大きい梅の木があったので梅ジャムを」
上手くできなかったけど。
「素敵ね。ありがとう。私から聞きたいことはもうないわ。あなた達からなにかあれば…」
「はい!このあとお店寄ってってもいいですか!」
「もちろんよ。それじゃゆっくりしてってちょうだい。」
やっぱり
藤澤オーナーの笑顔は
太陽を浴びた花のようだ。
オーナーは俺たちをカフェエリアの空いている席に案内して
そのままどこかへ姿を消した。
働くなんてまっぴらだと思ってたが
ここならいいかもなんて
思い始めていた俺にすこし驚いた。
そんな事には目を背け
今日も平穏に時間は過ぎ去っていく。