少女の考えること
少女はただ夢想する
浮かびあがる腕の静脈を手首から
鋭利な刃物ですっと肘まで撫でれば
切り開かれた静脈が芋虫のようにうねうねとのたうつ
溢れ出る血をそのままに
やがて血管は使い古された巻紙のよう
くるくるくるくると内側へと丸まっていく
それをみて少女は、外側に丸まってくれればもっと愛らしいのに、とつぶやく
少女は夢想する
腕から血が抜ければ今度は肩を
鋭利な刃物で少しずつ撫でれば
ぼとりと床に落ちぬよう、少しずつ少しずつ
少女から離れた腕は白く、ほくろのひとつもみあたらない
それを見た少女はつぶやく
あともう少し
少女はたまらなくなる
重厚な刃物で肘の軟骨を断つ
焼いたあとに縮まって、ブサイクにならないよう
切断面は引き締まったピンクの肉と気だるげな黄色いプリプリとした脂肪
悦楽の涙に浸からせて
好奇心をスパイスに変え
こんがり焼くなんて野蛮だわ
思い出を酒に変えて風味を加え
蒸焼きにするのよ
蒸焼きにするの
私の腕はそれが一番おいしいのだわ
蒸しあがるまで、片腕のコンテンポラリーダンス
はたからみりゃ片腕の盆踊り
くるりと回れば血しぶきが
無垢の壁にラインを引く
灰色になったお肉には
彩りが少しもの足りないから
ハーブの類いを添えましょう
仕上げのバターを切りわけて乗せ
溶けだして食べごろ
香りたつその匂いは羨望を燃した薫香
冷たいバターを切るよりも
たやすくナイフを受け入れる
豚のようにはがっつかず
骨から剥がして食べましょう
ほろりほろりと切り分けて
薬指だけ残しましょう
余計なイメージ残るその指は
豚の餌にちょうどいい
ごちそうさまは誰に言う
脚はハムへと加工しよう
腹はミンチにしてコロッケよ
最後は心臓を
動いたままにマリネして
動いたままに少しずつ
味が染みたところから
さくりと薄く削っては
ビクビク動く肉片を
ぺろりと舌で楽しむの
それってとても素敵だわ
それってとても素敵なことだわ