俺の人生における、主な失敗の理由は酒
時は俺が奴と出会う少し前、ちょうど白百合山の中腹にある帝国軍の野営地の1つに奇襲を仕掛けたあの晩に遡る。
俺はその日ひどく酔っていた。
というのも俺はかなりの下戸で、夜中の作戦だってのに夕方から上官が強酒を煽って俺にも勧めてくるもんだから、断るにも断れず、一杯だけ頂戴したんだ。
するとどうだ、作戦決行1時間前になっても一向に酔いは覚めねぇ。
上官の野郎酒に変なもん混ぜやがったか、とあのアホの方を見ると、少し顔を赤らめてるだけでピンピンしてやがった。やつは弓使いのくせに、戦いの前でも酒をひっかけていたりする。曰く、「酔ってるぐらいが丁度いい」だそうだ。
ナイフを持つ手が寒さ以外のもので震えるのは初めてだった。
松明の光は茹で上がった俺の眼球にズキズキと刺さる、かといって下を向いたら今にも腸の中のものが戻ってきそうで、かなりキツかった。
俺は、酒がすっかり抜けて松明片手に山道をぐんぐん進んでいく上官のバックパックに手をかけ、自分は目をつぶって体を前に傾け、つまづかないことだけを祈りながら無理やり歩を進めていった。
正直自分でも転ばなかったのが信じられないぐらいだ。
暗い森の中にある凍りついた小さな池を目印に、俺たち反乱軍ゲリラは様々な方向から合流した。
大勢で固まって移動していると道中、市民や警備隊の目をひくからだ。
そしてそこからは時間との勝負、合流地点に全員が揃うと、やはり警備の目をひかないように、ブリーフィングもそこそこにすぐさま作戦が開始される。
俺は、作戦の最初に野営地の北にある高台からありったけの火矢を打ち込む第一部隊の副隊長だった。
隊長の上官は先ほど言った酒に強い弓術師で、俺は弓を射ることよりもっぱら兵士達の指揮を任されていた。弓が苦手なのではなく、隊長がアホすぎて弓以外で使い物にならないので、隊長と同じく従軍暦の長い俺が指揮系統を任されることになったのだ。
頭の悪い上司を持つと辛いんだぜ。ほんと
そんなこんなで帝国軍の野営地には大量の火矢が降り注ぎ、月明かりに青く照らされていた雪山の一角が、真っ赤な光を放ちながら燃え上がった。
「打ち方やめ!全員第二部隊に続けぇ!」
第二部隊、通称使い捨て部隊は、訓練の浅い兵士達で結成された突撃部隊で、いきなりの急襲にパニックになっているところに全員で突撃する、最も死人の多い部隊だ。
俺たち第一部隊は、火矢を打ち終えた後間髪入れずにすぐさま移動し、第二部隊が野営地に突撃して帝国兵隊と死闘を繰り広げているところに加勢していくことになる。
副隊長の俺の専門は剣なのでもちろん俺も戦地には乗り込む、しかしこの日は本当にコンディションが悪かった。
俺たちがいた高台から野営地に乗り込むには、来るときに登った緩やかな山道とは別の、傾斜のきつい坂道を下っていかなければならなかった。
火矢を北にある高台から放ち、野営地東門から第一部隊が突撃し、西門から第二部隊が突撃、西側の砦内部に囚われた捕虜達を脱出させる。というのが今回の作戦だった。
しかし、酔いのさめてない俺にはこの「下山」は少々ハードだった。
いや、おそらく先ほどの山道で運を使い果たしていたのもあったんだろう。
兵士達に続けて坂道を下り始めて間もなく、俺の身体は木の根に足を取られてあっという間に坂道をごろごろと転がっていた。
頭の中で火花が散り、目の前が真っ暗になった。
こんな所で、戦いもせずに死んでいくのか。
そんなことを思いながら俺は意識を失ったんだった。