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実父との再会とゆかいな使用人たち。

不快に感じる表現が一部ございます。ご注意ください。




『お帰りなさいませ、イリスお嬢様!!!』





馬車付き場から屋敷の玄関までかなりの距離があるものの、隙間なくびっしりと、そこまでに至る通路の脇にずらりと並んだ屋敷の使用人たち(だと思われる)に出迎えられ、あたしは早くも逃げ出したくなった。(・・・何だ、これ・・・・・・やっぱりあたし・・・夢でも見てんじゃないの?)




「・・・・・・ん?」




内心怯えながらも、状況確認のため視線を彼らに向けると、ある一点でふと、違和感を感じた。・・・なんだろう?距離があるからよくわかんないけど・・・あのメイド・・・何か変じゃない??




「・・・ねぇねぇ、ブルーノ。」




小声で、そっとブルーノの服の裾を引っ張れば、ブルーノは何に感動したのかよくわかんないけど、ぱぁっと表情を緩め、あたしと視線を合わせるように屈んでくれた。





「・・・如何なさいましたか、イリスお嬢様?」




「あ・・・うん・・・えっと・・・・・・あそこにいるメイドさん・・・・・・なんか・・・・・・他のメイドさんと違って見えるんだけど・・・・・・」




「・・・・・・・・・。」




「あたしの気のせい・・・だよね?」





何がどう違うかはここからじゃきちんと見えないので何とも言えないのだけれど・・・なんでだろう・・・今までに培ってきた危険意識というか・・・第六感っていうの?そういうのが物凄く警鐘を鳴らしているというか・・・できれば近づきたくない部類なんだと思う。




そんなあたしの不安に、ブルーノは「・・・イリスお嬢様。」と、それはそれは綺麗な笑顔を浮かべた。(あっ・・・これ、駄目なやつだ・・・)




アレ(・・)は居て居ない者と思っていただいて結構ですよ。いや・・・お嬢様の美しい琥珀のような瞳に一瞬でも映すのは烏滸がましいというもの・・・・・・いっそ、存在自体を否定なさって、見ないようにして頂ければ私も色々と安心できます。」




「・・・ブルーノ・・・それ、ちょっと無理があるよね?・・・・・・ルーカス・・・」




「・・・お嬢様がお気になさっている者というのは・・・・・・あの一番奥のメイドのことでございますか?」




「そう!」




ブルーノでは話にならないと判断したあたしは、ルーカスに話を振ると、彼は彼で酷く疲れたような表情を浮かべていた。(あ・・・やっぱりこれ駄目なやつだ・・・・・・)




「(・・・・・・一番奥に配置しても目立ってしまうか・・・・・・)」




「え?」




「・・・いえ、何でもございません。・・・そうですねぇ・・・あの者に関しては・・・やはり直接お嬢様の目で見ていただくのが一番かと。」




旦那様もきっと首を長くしてお待ちでしょうから、さぁ、行きましょう。と、歩き出したルーカスに続くようにあたしも一歩足を踏み出し、止まることなくしっかりと歩く。




そして玄関に近づけば近づくほどはっきりしてくるのは、あたしが違和感を感じたメイドは―――――――




「・・・で・・・でかっ!!しかもムッキムキ!?」




身長は多分約2m近いんじゃないだろうか?長身で見事に鍛え抜かれた筋肉はメイド服を着ていても、その素晴らしさをしっかりと見せつけていて・・・・・・一見すれば「筋肉こそ最大の武器ッ!」と宣言する格闘家のようにも見えるが・・・悲しいかな、メイドだ。シックな黒と白を基調としたエプロンドレス(その肉厚で今にも破れてしまいそうではあるけれど)にヒラヒラのヘッドドレス、長い三つ編みお下げが辛うじて、メイドらしさを残している。(うん・・・残してあるんだと信じたい・・・)




その異様さに思わず足を止めてしまったあたしに、ルーカスやブルーノは勿論、周りの使用人たちも何故かどこか諦めたような表情浮かべ視線をあたしとそのメイド(彼女?はこんな異様な雰囲気でも平然と姿勢を崩さず、あたしたちが過ぎるのを待っている。)へと視線を交互に投げかけていた。




「あー・・・イリスお嬢様・・・・・・アレは・・・・・・。」




「ねぇ、ブルーノ・・・・・・・・・伯爵家(このいえ)では傭兵をメイドとして飼う習慣でもあるの??」




まぁ、護衛的な意味ではいいのかもしれないけれど、あからさますぎない?と、疑問をぶつけた瞬間。そのメイドはピクリと反応したかと、凄まじい勢いであたしに近づいてきた。




「ひっ!?」




「聞き捨てならないわ、お嬢様!!私を、そこらの傭兵如きと一緒にしないでいただきたいッ!!」




「え・・・?あ・・・・・・え・・・・・・えぇ~!?おっ・・・お・・・男ぉ~っ!!???」




「弁えろ、ルーファス!!イリスお嬢様が怯えているだろう!?」




私の前に立ちふさがりそのメイド(・・・メイドって呼んでいいのか?男なのに??や・・・でも格好は確かにメイドだけれども!!)の間に入ってきたブルーノを見て、あたしはほっと安堵したのだけれど・・・




「お帰りなさぁい、ブルーノぉぉぉぉっ♥会いたかったわぁぁぁ!!」




男の猫撫で声ほど気持ち悪いものはない。さっきまでの、あたしへの威勢はどうしたと言わんばかりの変化に、唖然としていると、ブルーノも特にそんなメイド(仮)の態度に表情を崩すことなく、すっと、抱きつこうとするメイドの胸倉を掴み上げると、まるでゴミでも捨てるかのようにぽいっと、使用人たちの壁の向こうへと投げ捨てた。(えっ・・・マジ?その細腕で、アレ、投げられんの!?)




投げ捨てられたメイドはというと顔面から地面に落ち崩れ、「ぐふっ・・・ブルーノたんの愛が痛い・・・」と一言呟いた後動かなくなった。(・・・・・・もうやだ・・・・・・何これぇ・・・・・・)




「・・・・・・・・・・・・さぁ、障害物(がいちゅう)は排除いたしましたので、先を急ぎましょう、お嬢様。」



「・・・・・・う・・・うん・・・・・・」





ゴシゴシと、ハンカチで手を拭きながら笑顔を向けたブルーノに、あたしは若干青褪めながら頷く事しかできなかった。(そして他の使用人たちのスルースキルが素晴らしすぎて辛い・・・)





・・・そんな使用人たち(かれら)の逞しさはあのメイド野郎の所為なのだろうと・・・そう思っていたあたしでしたが・・・・・・・甘かった。えぇ・・・非っ常ぉぉぉに、甘かった。(や、確かに大半はヤツの所為であるのは間違いないんだけど。)






「イィリィスゥゥゥゥゥ!!!!!会いたかったぞぉぉぉぉぉっ!!!」





ルーカスとブルーノに連れられ屋敷に入ったあたしは直ぐにシュミットバウアー伯爵が居るという書斎へと案内された。そして、その扉を二人が左右同時に開いた瞬間、そう叫びながらあたしに抱きついてきたのは、あたしと同じ赤茶色の髪を持った、中年・・・までは多分行ってないないと思われる年若い男性で・・・・・・



「ごめんなぁ・・・今まで迎えに行けなくて・・・・・・怖い思いをたくさんさせてしまって・・・もう大丈夫だからなぁ?パパがちゃあんと守ってやるからなぁぁぁぁ!!」




高速頬擦りと共に聞こえてくる大きな声は歓喜と同じぐらい後悔が混じっていて・・・そこに嘘は一つもない。






「(この人が・・・あたしの本当のお父さん(パパ)・・・・・・)・・・・・・えと・・・・・・はじめまして?」




「!!は・・・初めまして・・・じゃあ・・・ないけど・・・そうだよなぁ・・・イリスが覚えているわけがないかぁぁぁ。」





そうだよなぁ・・・・・生まれたばかりじゃあ記憶にも残らないよなぁぁぁ、と、ショックのあまり崩れ落ちた実父に、あたしはどうすることもできずにいると、ふとブルーノが「イリスお嬢様。」と声をかけてきた。





「ブルーノ・・・」




「折角の感動の再会シーンなのです。お嬢様も『パパ』と、呼んで甘えてみてはいかがですか?」




「え?や・・・・・・うん・・・・・・そう・・・なんだけど・・・・・」




果たして『伯爵位』に居る実父に『パパ』と呼んでもよいものか・・・(あ、でもさっき自分で『パパ』って言ってたような気も・・・・・・でも・・・・・・・)




「・・・・・・お父様(ファーティ)・・・・・・。」




「!!!!!いっ・・・・・・イリスぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」





意を決して呼んでみたけれど、やっぱり『パパ』とは呼べなかったあたしだが(やっぱりあたしにとっての『パパ』は、ダニエル(パパ)だけだから・・・)、それでも感激したらしいお父様は再び泣きながら私に抱きついてきた・・・・・・・・・うん、正直・・・重い・・・・・・・。(いろんな意味で)





「ほらほら、旦那様。嬉しいのはわかりますが、お嬢様が困っておられます。一度あちらで落ち着きましょう。」




「・・・・・・・・・そう・・・・・・だな・・・ブルーノ、お茶の準備を。」




「畏まりました。」




「くれぐれも、ルーファス(アイツ)にはやらせるなよ?」




「心得ております。」




気を利かせたルーカスの言葉に、お父様も少しは落ち着いたらしく、ブルーノに簡単な指示を出すと(その内容に些か不安があるのはあたしだけだろうか・・・)あたしの手を取り、書斎の奥にあるソファ(流石金持ち貴族!ふっかふかで座り心地良さそう・・・)まで連れて行ってくれたのだが・・・・・・




「あ・・・あの・・・お・・・お父・・・様?」




「何だい、イリス?」




「あ・・・あの・・・えと・・・・・・さすがにこの格好は・・・どうかと・・・・・・」





思うのですが・・・・・・と言う私の抗議の台詞は、お父様の満面の笑顔に圧され、どんどんと小声になっていく。




現在どんな状況になっているかといえば、至極簡単。ソファまで来たのはいいけれど、いざ座ろうかという時に、先に座っていたお父様に腕を惹かれ、そのままお父様の膝上にすとんと、そう・・・所謂膝抱っこ状態になったのである。な・・・何というか、小っ恥ずかしいというか・・・・・・うん、要するに慣れないことなんてするもんじゃない。




「いいじゃないか。君とこうして過ごすのも、15年ぶりなんだ。・・・・・・あんなに小さかったイリスが・・・良くここまで大きく育ってくれたよ・・・。」




出来ればその成長過程を間近で見ていたかったんだがねぇ・・・。ぽんぽんと、嬉しそうであり寂しそうな笑顔であたしの頭を優しくなでるお父様の言葉に、あたしはそれ以上の拒絶の言葉は紡げなかった。




「その・・・・・・今まであたしの代わりだった人・・・には?」




「ん?あぁ・・・君と彼女がすり替えられてからはね、私もユリア・・・君の母親も乳母のニコラに任せっきりでね。なるべく関わらないようにしていたんだよ。・・・情が湧かないようにね。・・・私たちの娘はイリス、君であってあの子じゃないからね・・・。」




父親としてあの子に接してことはないよ。勿論、間者に疑われない程度には演技はしてたけれど・・・こうして甘やかした事は一度もなかったよ。・・・私たちの全てはイリスだけのものだからね。




甘く蕩ける様な優しい声で語るお父様の、その内容は中々に非道で・・・(なんか、不憫に思えてきたよ・・・好きであたしと入れ替わったわけじゃないだろうに・・・)・・・・・ん?お母様・・・・・・??





「そう言えば・・・お父様・・・・・・お母様(ムッティ)はどちらに?」




「ん?ユリアかい?ユリアも今は彼女の実家に戻っているんだよ。病気療養という建前で、数年前から・・・ね。でもイリスがこうして帰ってきてくれたんだ。彼女もすぐに屋敷に戻ってくるだろう。」




ユリアも、イリスに会えるのを凄く楽しみにしていたからね。と、嬉しそうに語るお父様に、あたしもほっと息を吐いた。・・・良かった・・・・・・相談できる同性(ひと)が一応は居るんだ・・・・・・メイドさんでも良いけれど・・・身内の方が安心できるし、言いたいこと言えるから・・・。




そんなこんなで近況を話しているうちに軽やかなノック音が響いた後「失礼致します。」と言うブルーノの声とカラカラカラと言うワゴンの音が聞こえてきた。




「旦那様、お嬢様、お待たせ致しました。」




そう言ってにこやかにお茶の準備をするブルーノの背後には数人のメイド達そして・・・




「はぁ・・・給仕してるブルーノも素敵・・・・・・」




うっとりとブルーノに熱い視線を送る・・・メイド野郎。(あっ・・・生きてたんだ・・・。)しかし、すかさず隣にいたメイドに鉄拳制裁を受けていた。(お・・・お姉様・・・お強いですね・・・)




「こほん、改めまして、はじめまして、イリスお嬢様。本日からイリスお嬢様の身の回りのお世話をさせていただきます、アンナとお申します。」



「クララと申します。」



「エリーと申します。」



「サラと申します。」



「ルーファスと申します。」



「どうぞ、よろしくお願いいたします。」





この中では年長の部類に入るのだろうアンナさんから順に名を名乗っていくメイド達を呆然と眺めながら、あたしはちらりとお父様へと視線を投げかけた。




「ん?どうした、イリス?」



「えと・・・()も、ですか??」



「あぁ・・・イリスの言いたいことはよぉぉぉく、解る。が、アレは確かにメイドとしていろいろ欠陥してはいるが、裁縫だけは他のメイドも真似できないくらい上手でな・・・。」




世話係というよりはイリス専用の針子とでも思ってもらえれば。と遠い目をしながら言うお父様にルーファスは「そ・・・それはないですよ、旦那様ァ!!」と抗議の声を上げるが、やはりサラさんの鉄拳に沈んでいた。(魅せ筋なのか・・・アレは・・・?)




「え・・・でも・・・」



「心配無用ですよ、イリスお嬢様。採寸や着付けに関してはヤツには手出しさせませんので。」



「勿論、お嬢様には私たちが用意したとびきり美味しいお茶をお出ししますからね!」



「イリスお嬢様は私たちがお守りしますのでご安心ください!」



「ほぉら、ルーファス、アンタの大好きなブルーノがとぉっても冷たぁい瞳で見てるわよ。嬉しいでしょう?もっと喜びなさいな。」



「~~~~っ!!~~~~~~~っ!!!!!」




うつ伏せでマウントポジションからぎりぎりとルーファスの首から頭にかけて、その細い腕で締め上げていくサラさんの何処にそんな力があるのだろうか、と、感心してみていると、ふっと目の前に影ができる。




「?」



「お嬢様。瞳が汚れますので見てはなりません。」



「やー・・・我が家も平和になったねぇ・・・・・・。」





遮ったのはブルーノで、そんな光景を全部ひっくるめて、お父様はあははは、と力なく笑った。?・・・大丈夫なのだろうか、この伯爵家?と疑問を抱いたあたしはきっと悪くない。(悪くないはず!)

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