15年目の真実
不快になる表現が一部ございます。苦手な方はご注意ください。
「・・・お迎えに参りました、イリスお嬢様。」
いつも通りの朝。カーテンから溢れる朝日を浴びて目を覚ましたあたしは、いつも通りの朝食(修道院で分けてもらった黒パンを、作り置きしているスープに浸してゆっくり食べるのが最近のあたしの楽しみの一つだ。)を平らげて、代わり映えのしない、流行遅れで継ぎ接ぎだらけのワンピースドレスを着て、三つ編みを手早く編み上げ、いつも通りの時間に出かけようとしたその直後に、あたしの『いつも通り』は終わった。
・・・理由は解らないけれど、身なりの良い男たちがあたしに向かって頭を下げていたから。
・・・・・・一体、なんの冗談なんだろう、これ・・・・・・・・・
「え・・・えぇっと・・・・・・人違い・・・じゃ、ないですか?」
出来うる限りの笑顔(かなり引き攣っているだろうけど、この際気にしない!)で、未だに頭を下げ続けている男たちに声を掛けると、その中でも一番偉いのだろう、アッシュグレーの髪をオールバックに整えた品のある中年男性が、見蕩れるほど綺麗な笑顔で「いいえ、人違いではございませんよ、イリスお嬢様。」と言い切った。
「いやいや、だってあたし、スラムで育って15年目だけど、そんな良いトコの血なんて引いてるわけないじゃん!常識的に考えて!」
「それが、ちゃんと引いているのでございますよ、イリスお嬢様。ですから我らがこうしてお迎えに参ったのですから。」
「や・・・だから・・・有り得ないって・・・・・・」
一歩も引く気はなさそうな中年男性(と、未だに頭を下げ続けている男が数人)にあたしは思わず頭を抱えた。・・・時間に余裕はあるけれど、これ以上遅れると後が怖い。・・・何せここは貧困街。高貴なる者たちが定めし『法』がゴミ屑以下の無法地帯。そんな中で漸く今年から一人前として仕事を任されるようになったあたしとしては、遅刻は厳禁。休みなんて返上してでも覚えなければならないことはたくさんあって、ぶっちゃけ、お貴族様の戯れに付き合っている暇はない。
「ともかく、あたし、急いでるんで――――――――――」
「・・・おぅ、イリス・・・朝から何騒いでやがるんだァ?」
「!!お父さん!!」
戸口で押し問答していたのが、奥まで聞こえていたのか、ぬぅっと寝ぼけ眼で顔を出してきたお父さんに、あたしはぎゅうっと抱きつき、助けを求めた。
「聞いてよ!この人たち、あたしが人違いだって言ってんのに聞いてくれなくて・・・・・・」
「・・・あぁん?ウチの娘に何の用――――――――――――――――」
「お久しぶりでございます。ダニエル・グロッシュ殿。」
「あんたはシュミットバウアー家の・・・・・・。」
しかし、追い返そうと意気込んでいたはずのお父さんは、その中年男性を一目見るなりはっと息を飲んで、あたしと男性を交互に見遣った後、はぁっと息を吐いた。
「・・・そうか・・・・・・漸く炙り出せたのか・・・・・・」
「はい。全てが万事片付きましたので、こうしてイリスお嬢様をお連れするべく参ったのです。」
「・・・・・・長かったというべきか、短かったというべきか・・・・・・イリス。」
「はい?」
「そういうことだから、お前は本来あるべき場所に帰れ。」
「えっ!?」
ぐいっと、あたしを引き剥がし、中年男性に押し付けるよう力強く押し出すお父さんに、あたしは「どういうこと!?」と叫んだ。
「ちょ・・・待ってよ、お父さん!!」
「詳しいことはそいつらに聞けばいい。・・・それから、イリス。俺はお前の本当の父親じゃねぇ。だから金輪際、俺を『お父さん』と呼ぶなよ。」
「や・・・待って・・・待ってよ、お父さん!!!」
バタンと無情にも閉じられた扉に、あたしはただ混乱するだけで・・・・・・や・・・マジ・・・ちょぉ・・・待って・・・・・・何がどうなってやがるんですか・・・・・・意味がわからん!
「さぁ、イリスお嬢様。詳しい話は馬車の中で。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「イリスお嬢様?」
「・・・・・・あぁ、もう!!考えてもわっかんない!!クソオヤジめっ!!!!」
せめてもの腹いせ・・・もとい、苛立ちをぶつける様にガツンっと、家の扉を蹴りつけるけれど、家の中からの反応はなく、あたしはチッと舌打ちを零す。
・・・・・・15年・・・そう、15年もの長い間、あたしとお父さ・・・ダニエルは親子関係だったのだ。・・・そこに血は繋がってなくとも、確かにあたしと彼は父と娘だった・・・・・・なのに、そんな関係は一瞬にして、しかも一方的に物凄くあっさりと切られてしまった。――――――――親子関係ってこんなにあっさり終わらせられるものなの?つーか、親子だと信じきっていたのはあたしだけで、あのクソオヤジにとっては所詮は小娘のおままごとだったのだろうか?・・・それはそれで腹が立つ。どんだけ道化なんだ、あたしは。つーか止めなかったダニエルにだって否はあるだろう。
それでも、普段ならこんな暴挙に出たならば、すぐに飛んできて雷を落とすダニエルがウンともスンとも言わないのだから、本格的にあたしは彼に捨てられてしまったのだ。・・・ここは貧民街。親が子を捨てたり高値で売り飛ばすのなんて珍しくもない場所だ。ましてあたしと彼の間にはそんな関係もなかったらしいのだから、尚更・・・・・・
「・・・っ・・・・」
嫌だ・・・・・・そんな簡単に壊れてしまうような・・・・・・そんな関係だったなんて思いたくない・・・・・・だって、あたしは・・・いつだって貧民街ではダニエルに守られて生きてきた。この場所で生き抜くための覚悟も、技術も・・・教え育ててくれたのは何時だって・・・・・・
「・・・嘘だって言ってよ・・・・・・いつもみたいに・・・『迫真の演技だろ?』って・・・・ねぇお父さんっ!!」
縋るように、みっともなく喚きながらもう一度、扉を叩くが、結果は同じ。・・・マジ、覚えてろよ、クソオヤジっ!!
「――――――――――こうなったら、最後の手段・・・・・・」
「イリスお嬢様?」
「三十六計、逃げるが勝ちっ!!」
「あっ!?ちょ・・・イリスお嬢様!!?」
お労しや・・・という表情であたしを見つめていた中年男性の横をするりとすり抜けると、あたしは知り尽くした貧民街の細い路地を走り抜ける。勿論後ろから慌ててあたしを追いかけてくる気配を感じるけれど、ここはあたしの領域。数多ある抜け道をも知り尽くしてるあたしに一見様連中が追いつけるはずがない。
取り敢えず、彼らを撒いて、サンドラ院長に話を聞いてもらって・・・ついでに暫くの間修道院で置いてもらうこともお願いしなきゃ・・・・・・
博打好きのティム爺さんのボロ小屋の裏側にある塀には、借金取りから逃れるための、ガリガリの爺さんが通れるだけの小さな穴がある(もちろんあたしもギリギリ通れる)。そこを抜けた先は安っちい娼館の裏庭。あまり手入れされてない天然の草木の迷路を抜ければ、貧民街の中でも割と栄えているであろう商業区域(盗品や借金のカタに取られた曰くつきの品々が流通する、所謂闇市が開かれている場所だ)の路地へ出る。朝っぱらの今の時間は人気が殆どないが、あたしが身を隠す場所はいくらでもある。追っ手の気配に気を配りながら、目抜き通りを駆け抜け、見えてくるのは修道院へと続くなだらかな坂道。・・・ゴールは目前だ。
そう、逃げきれる勝算はあったのだ。・・・あったはずなのに・・・・・・・・
「なぁんで、アンタ、そんな余裕そうな表情でここに居んのよ!!?」
修道院まで後僅かの所で、汗一つかかず涼しげな表情であたしの前に立ちふさがったのは、家の前で、あたしを迎えに来たと言い張った品の良い中年男性の後ろに控え、ずっとあたしに頭を下げ続けていた、黒髪の男だった。
「それは勿論、私がイリスお嬢様にお仕えする執事ですから。・・・例えお嬢様が何処に居られようとも探し出してみせますとも。」
にっこりと、物凄くいい笑顔で言い切った男は「いけない、申し遅れました、私、ブルーノ・フォルトナーと申します。どうかブルーノと、お呼びくださいませ、イリスお嬢様。」と、綺麗な仕草でお辞儀をした。・・・何て言うか・・・どこからツッこむべきか・・・・・・・
「あぁ・・・ソウデスカ・・・・・・つーか、その割には15年も放置(?)だったわけですが・・・・・・」
ヤケクソで放った言葉に、その男、ブルーノは途端に表情を曇らせ(どういうことだろう・・・うっすらと瞳には涙が浮かんでいるんだが・・・)「お嬢様・・・それには深い、深ぁ~い理由があるのです。」と言い放つと、徐にパチンと、指を鳴らした。
「!?」
「さぁ、お嬢様。その理由をお話しますので、どうぞ、お乗りください。」
ブルーノの合図に反応して、ズザザっと、猛スピードであたしたちの前に停車した馬車に驚いている間に、あたしはブルーノによって馬車に乗せられていた。・・・あれ?今、どうやったの??魔法??んなバカな。この世界にそんな非科学的なものは存在してない・・・ハズ・・・・・・
「???」
見事なまでにあたしの思考はそれまでの鬱屈したものから、今起こった出来事にすり代わってしまったのだが、あたしと対面する座席では「よくやった、ブルーノ。」と中年男性がブルーノを褒め、ブルーノはと言うと「当然です。私が、イリスお嬢様を見失うはずがありませんよ。」と少し得意気に語っていた。・・・そもそもブルーノのその自信はいったいどこから来るのだろう?(何か・・・こればっかりは聞いてはいけない気がするのは・・・あたしの気のせいではないだろう。聞いたが最後、絶対後悔する予感がする。・・・うん。)
「ともあれ・・・・・・イリスお嬢様、混乱なさるのは当然の事と思いますが、まずは我々の話をお聞きください。」
こほんと、気を取り直して話しかけてくる中年男性に、あたしも観念して彼らと向き合う。
「・・・その前に、名前、教えてください。あたしは・・・ご存知の通り、イリス・・・です。」
イリス・グロッシュ・・・・・と言いそうになるのをぐっと抑え、名前だけ名乗ると、ブルーノも中年男性もうんうんと、満足そうに頷いた。
「おっと、これは失礼致しました。私はシュミットバウアー伯爵に仕える執事のルーカス・フォルトナーと申します。以後お見知りおきを、イリスお嬢様。
「・・・ルーカス・・・フォルトナー?・・・ブルーノも確か・・・」
「イリスお嬢様・・・・・・・・」
「って・・・・・何で泣いてるの、ブルーノ!?」
「ブルーノも確かフォルトナーって名乗ってたよね?親子なの??」と、言いたかった私の言葉は、突然泣き出したブルーノによって見事に遮られてしまった。・・・・・・落ち着け・・・落ち着くんだ、イリス。この短い間で彼が泣き出す理由ってあっただろうか?・・・いいや、ないはずだ。(ないと信じたい!!切実に!!)
「お・・・お嬢様が私の名前を・・・・・・ちゃんと覚えてくださっていて・・・しかもその愛らしいお声で呼んでくださって・・・あぁ・・・神よ!今全てのことに感謝致しますッ!!」
「大袈裟すぎんだろ!!」
そんな程度で神に感謝するとか、そもそもあたしが名前を呼んだくらいで大袈裟だろう!とツッこんだものの、ブルーノの隣にいるルーカスも何故かいつの間にか取り出したハンカチを目元に当てていた。・・・・・・ダメだ・・・コイツ等マジ早く何とかしないと・・・・・・
「・・・えぇ、お察しの通り、私と彼は親子なのですよ、イリスお嬢様。」
ブルーノもいつ取り出したのか解らなかったけれど、皺一つないハンカチで綺麗に涙を拭き取りつつそう答えた。
「我がフォルトナー家は代々シュミットバウアー伯爵家にお仕えしている一族なのでございます。勿論、イリスお嬢様には歳が近いブルーノが仕える事が決定しているので、どうぞ、お嬢様の手足としてお使いくださいませ。」
「・・・・・・・・・・・。」
先程までの泣き顔はどこへやら、今度は期待に満ちた瞳をあたしに向けてくるブルーノ(立ち直り早ぇなぁ、オイ)からあたしはそっと視線を外して、ぼんやりと車窓、流れ行く景色を見遣る。
馬車は貧民層をちょうど抜けた所なのだろう、現在は平民層・・・貧しくもなく裕福でもない民たちが暮らす区画へと差し掛かろうとしていた。
あたしが暮らすこのこの場所は【レベンスブルク 】と呼ばれる大都市だ。
都心部にはこの地方を収める領主様が暮らしている大きな城が聳え立ち、城を囲むように貴族たちが住まう屋敷が立ち並ぶ【貴族層】が、その次に飲食店や正規商店が立ち並ぶ【商工層】と【平民層】が取り囲み、最後に【貧民層】が覆う様に形成されているのが、この【レベンスブルク 】である。(あたしはこの都市から出たことがないから他の都市と比較はできないけれど、多分どこも似たようなもんじゃないかな?)
見慣れない、長閑な風景が飛び込んでくる。貧民層では考えられないくらい、行き交う人々は無警戒で・・・それが当たり前なのだろう・・・・・・あたしには考えられないけれど。
「・・・・・・・・・そもそも、あたし、本当に『お嬢様』なの?」
ぽつりと呟いた言葉に、直ぐ様ブルーノが反応を見せた。
「勿論でございます!イリスお嬢様は、シュミットバウアー伯爵家当主であらせられるボリス・フォン・シュミットバウアー様の一人娘、イリス・フォン・シュミットバウアー様で間違いはございません!!」
「お嬢様が疑問に思われるのも無理はございません。しかしながら、お嬢様の内に流れていらっしゃる血は、我が主と同じく高貴なものに相違御座いません。」
そうですね・・・どこからお話しましょうか・・・と目を細めたルーカスはぽつりと「旦那様・・・ボリス様は良くも悪くも人を惹きつけるお方なのです。」と零した。
「シュミットバウアー伯爵家は昔から、このレベンスブルクの領主様を支える、右腕の役割を担っていらっしゃいます。勿論現当主であらせられる、イリス様の本当のお父君、ボリス様も然り。・・・しかし、それを良く思わぬ輩も少なくないのが現状だったのです。」
こんこんと語りだしたルーカスの話を要約すると、つまりは、何とかしてシュミットバウアー伯爵の地位を奪いたい、弱みを握りたいと画策した連中がいて、丁度そのタイミングで伯爵には一人娘が生まれたところだった。何とか使えそうな家令を買収して、あたしと同じ日に生まれた、自分の駒に出来る都合のいい赤子(それこそ貧民層には幾らでも居る孤児だろう)とすり替え、本物の娘は処分してしまえばいいと計画を実行した輩がいた。その計画は確かに順調に進んでいたのだが、すり替えたはずの伯爵の一人娘がいつの間にか気付けば居なくなってしまっていたというのだ。(そこ、一番重要なとこじゃないの?)殺すことを前提にしていたその輩は深く考えもせず、処分する手間が省けたと、別段その娘を捜索せず今に至っているらしい。(まぁ、そのお陰で今、あたしは生きているのだから感謝すべきなのかもしれないけれど・・・)
「勿論、我々は最初の段階からその計画にも気づいておりましたし、遅かれ早かれそういう事が起こるであろうと危惧しておりました。そこで旦那様が頼られたのが・・・貧民街を統括する立場にある一人である、ダニエル・グロッシュ殿・・・そう、イリスお嬢様の『育ての父』でございます。」
「・・・・・・・・。」
「彼にはその輩の手下のフリをして、赤子のすり替えを行った後、本物のイリスお嬢様を貧民街へお隠し、時期が来るまで護り通すようにと、依頼していたのです。・・・彼は実に見事に仕事をこなしてくださいました。」
「・・・・・・そう・・・あたしが貧民街で育った理由はわかったわ。でも・・・その・・・偽物のあたし?っていうのは・・・・・・?」
今どうしてるの?と、聞こうとしたのだけれど、ルーカスもブルーノも怖いくらい綺麗な笑顔を浮かべ「イリスお嬢様の偽物など存在いたしませんよ。アレは単なる操り人形・・・いえ、人形ほど可愛らしいもではありませんね。道化・・・そう、単なる道化ですよ、お嬢様。」とさらっと毒を吐いた。
「道化は道化らしく、旦那様を謀ろうとした輩諸共処分致しましたので、イリスお嬢様は何も気にせずとも良いのですよ。」
「そうですよ。イリスお嬢様が気にかける価値もないような存在ですから。」
「・・・・・・・・・そう・・・。」
別に気にかけているわけではない。陰謀に巻き込まれたとは言え、あたしはこの15年間幸せに暮らしてきたし、その・・・あたしの代わりを務めたというその子も、貴族暮らしはさぞ幸せだっただろう・・・人間関係やそこに含まれる感情は別として。ただ・・・人からの悪意にも図太く気づかず今まで生きていたのだから、それそれで将来立派な悪役を務められただろうとは思う。繊細な心の持ち主なら、謀略が張り巡らされた日々の中でいつかは心が壊れてしまっていただろうから。
幸か不幸か。そんな性格が彼女にとっては寿命を短くさせる要因となってしまっただけだ。
敢えて泳がせておいた買収された家令と共に、言われるまま我侭三昧、湯水のように伯爵家の金銭を貪り続けた彼女たちの悪事は先日、公の下に晒された。貧民街までは届かなかったが(ううん、ひょっとたら届いていたもかもしれないけど、あたしの耳には敢えて入らないようにされていたのかもしれない。)、大スキャンダルとしてレベンスブルク 中を駆け巡っていたらしい。そしてこの件を裏から支援していた領主様の優秀な部下たちが、芋蔓方式で諸悪の根源共をしょっ引いてきて、そのまま見せしめのための公開処刑を行い、この件は終了となったそうだ。・・・諸々の手続き等で騒動から一月経った今日、漸くあたしを迎えに行く準備が整い今に至るのだと、ルーカスは言った。(大分あたしなりの解釈になっているけど、大体合ってるはず)
「・・・ご理解いただけましたか?」
「・・・・・・えぇ・・・・・・でも、本当にあたしでいいんですか?全然お嬢様ってガラじゃないんですけど・・・」
「何をおっしゃいますか、イリスお嬢様!!その愛らしいお姿にお声!!口調はまぁ、仕方がないとしても、練習すればすぐにお嬢様言葉も喋れるようになります。そうすれば完璧に!!どこの貴族にも負けない、世界一のお嬢様の完成です!!」
「・・・・・・ブルーノは一回眼科か・・・精神科に連れて行ったほうがいいんじゃない?」
「・・・・・・大袈裟に聞こえるかもしれませんが、お嬢様はそのままでも充分、お仕えするのに値する方ですよ。」
「あっ、父さんずるい!」
「職務中は執事長と呼べと言ってるだろう、バカ息子。」
「・・・・・・・・・・・・。」
そうか、社交辞令は遺伝性か・・・。未だに言い合うフォルトナー親子を横目に、あたしは再び車窓の外へと視線を投げた。
あんなに遠かった(っていうか貧民層じゃ全然見えなかった)領主城が、今ではすぐそこまでで迫ってきているように見える。・・・という事は、ここはもう【貴族層】――――――――――――
「・・・もうそろそろですね。お嬢様のお帰りを、旦那様をはじめ、屋敷の者たち全員が楽しみに待っておられますよ。」
ぱちんと、懐中時計を閉じたブルーノがにこやかに笑いかけてきたが・・・あたしは笑えない。
「・・・・・・スラム育ちのお嬢様を?」
「イリスお嬢様を、ですよ。どこでお育ちになろうとも、私たちのお仕えすべきお嬢様に相違ございませんから。」
これからの日々は確かに貧民街での生活とはかけ離れたものになるでしょうが、イリスお嬢様ならば、すぐに馴染めますよ。えぇ、私の敬愛するイリスお嬢様ならば余裕です!!(あっ、コイツ盛りやがった!)
「最後の一言が余計だっつーのっ!!!」
あたしたちを乗せた馬車は軽快に走り続けた後ゆっくりとそのスピードを落とし、ぴたりと、ある屋敷の前で停車した。
「さぁ、イリスお嬢様、到着いたしましたよ。」
「長旅ご苦労様でございました、イリスお嬢様。」
長時間の馬車での移動(貧民層から貴族層までにかかった時間は・・・太陽の位置からして約4時間。丁度お昼ご飯の時間に近い)は初めてだけど・・・体の疲れよりも精神的な疲れの方が大きのは気のせいではない。(主にブルーノとかブルーノとかブルーノとかの精神攻撃の影響。)
「・・・・・・っし、もう、こうなりゃどうにでもなれ、よ!」
先に降りたブルーノにエスコートされながら馬車を降りると、そこにはずらーっと両側に並んだ人々が沢山いて・・・
『お帰りなさいませ、イリスお嬢様!!!』
って・・・マジか・・・・・・マジでお屋敷総出でお出迎えですか・・・・・・・金持ちパネェな・・・・・・