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POWER GAME  作者: 高木智之
1/1

一戦目

  残り時間:十二時間


 紫がかった曇天から、雷鳴が降り注いでいた。

 鬱蒼と茂る樹木。一体の怪物が北村貴志を見下ろしていた。

 迅雷の光を反射して魔獣のように妖しく光る両目。体長は中木の天辺に届いている。隆起している逞しい筋肉を、何かの罰のように棘だらけのベルトがきつく締め付けている。コイツは闇戦士デビルウォーリアーだ。

 恐怖のあまり、言葉が出なかった。ごくりと生唾を飲み込み、蚊の音のような声を絞り出した。

「……ここは、何処だ?」

 正直な疑問だった。

「ここは呪紋の森です。マスター」

 闇戦士デビルウォーリアーは平然と言った。

 ごつごつとした見た目とは裏腹に、紳士的な喋り方だった。言葉の合間に聞こえる、野獣の唸り声のような音を除いて。

「君は闇戦士デビルウォーリアーでいいのか?」

 魔獣は頷いた。

「左様です。マスター」

 一拍間を置いて、貴志は言った。

「何故、俺はここにいる?」

 魔獣はすまなさそうに小声で言った。

「……分かりません」

 茫然として、鬱陶しい空を見上げた。稲光が射すように光った後、轟音を立てて散った。


  残り時間:一時間


 貴志は闇戦士デビルウォーリアーと呪紋の森を散策していた。

 何時間も歩き回ったが、切れることなく木々が続いていた。何の木かは分からない。たぶんここは地球の何処かではないので、図鑑で血眼になって探しても、どんな木なのか発見することは敵わないだろう。

 闇戦士デビルウォーリアーと話したことを反復するように言った。

「後一時間で戦争とやらが始まるんだな? そして俺達はそれに絶対に参加しなければならない」

 魔獣は頷いた。

「戦いが終わる度に、十二時間間を置いて、戦いは始まります。貴方が勝利するまで、戦いは終わりません」

 魔獣は元気づけるように言った。

「心配ありません。私が全身全霊をかけて、お守り致します」

 貴志は溜息をついた。

「……後、攻撃力ってやつは一体なんなんだ? 意味が分からない」

「何度も申しますように、攻撃力は相手の駒を獲れるかどうかの指標です」

「じゃあ、君の攻撃力は幾つなんだ?」

「それは知りません」

「はあ?」

 魔獣はキョロキョロ辺りを見回した。

「そろそろ始まりますね。まあ、やってみれば自ずと分かることです。百聞は一見にしかず、です!」


POWER GAME START


 貴志と闇戦士デビルウォーリアーは荒野に立っていた。辺りに残丘のように鉄のドームが点在していた。

 闇戦士デビルウォーリアーは西の方角、はるか遠くに視線を向けている。

「何か、来るのか?」

「ええ。おそらくあれは――」

 砂塵を巻き上げながら、接近して来る物体があった。

 貴志は目を細めた。視界に入ったのは、光鬼の鎧に身を纏った騎士だった。

 闇戦士デビルウォーリアーはおぶるように身を屈めた。

「乗って下さい!」

「は?」

 貴志は唇を尖らせた。さっきからこの不条理な状況に不満たらたらだった。

「一体、今、何が起こっている? 早く説明しろ!」

 魔獣は立ち上がった。体長が五メートルをはるかに超えているだけあって、大人に見下ろされている赤ん坊のような気分になった。

 身を竦めながら、貴志は精一杯虚勢を張った。

「な、何だよ。俺に暴力を振るおうっていうのか?」

 闇戦士デビルウォーリアーは巨大な手で貴志を鷲掴みにした。

「う、うわ――!」

 握り潰される。そう思った時、魔獣は貴志を抱えて、騎士がやって来る方向とは逆の方向に、自動車より速い速度で地を駆けていた。

「な、何が起きて――」

 手足をばたつかせる貴志を、魔獣はぎょろりと一瞥した。

「奴の名前は神速のブロッカーです。私の足では逃げきれません」

 鉄のドームの入口に、貴志を降ろした。

「ドームの中に身を潜めていてください。私がここを食い止めます!」

 入口には扉が無かった。縁に手を掛けて、後ろを振り向いた。

 闇戦士デビルウォーリアーは神速のブロッカーの元に、四足歩行で疾駆していた。

 貴志は朽ち果てた鉄の階段を登った。

 硝子の無い穴のような窓から、下を見下ろした。

 魔獣の絶叫が、宙に響き渡った。

 身が凍る思いだった。さっきまで話していた闇戦士デビルウォーリアーは、巨大な槍に身体を貫かれ、単なる肉塊と化していた。

 神速のブロッカーの三六十度回転する機械の眼が、貴志の視線を貫いた。

 目が合った。殺される――。

 荒い息を吐きながら、無限に続くような螺旋階段を上った。

 日頃の運動不足が祟ったのか、脇腹が異常に痛い。

 階下から、壊れた玩具のような声が聞こえた。

「うきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!」

 総毛立つ思いだった。

 神速のブロッカーの超ヘビー級の体重が余命僅かもない鉄の階段を踏みしめ、軋みを上げている。

 とうとう屋上に辿り着いた。辺りを一望することが出来る。どこまでもどこまでも荒野が続き、鉄のドームが点々と散らばっていた。

 貴志は突然咳き込んだ。階段へ続く入口に目やると、まだ神速のブロッカーは現れていない。

 なぜ、咳き込んだのだろうか?

 屋上の縁に、異様に長い毛むくじゃらの指がかかっているのが見えた。

 なんだあれは――。

 姿を現したのは、機械仕掛けの巨大な猿だった。機械の顔をぼうぼうの黒い長毛が覆っている。鼻の穴から、黄色がかった毒霧を噴き出している。

 死を目の前にして、貴志はようやく気付いた。

 あの奇声は神速のブロッカーのものではない。この奇妙な猿の声だったのだ。

 ソロモンの悪猿は空高く飛び上った。

 貴志は悪猿に背を向け、階段に駆けだした。

 まるでスローモーションのようだった。悪夢のように階段の入口からは、神速のブロッカーが顔を出した。斜め上方向に首を回すと、ソロモンの悪猿の鋼鉄の両拳が、貴志の頭を捉え、貧弱な首をへし折った。

 そして視界は暗転する――。


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