第28話 地は轟く4
ハークシーの民兵軍は雪崩のように獣人族の戦士たちを飲み込んでいく。個の力で勝る獣人であったがここまでの数に囲まれたらひとたまりもない。まさに数の力が圧倒的な威力を発揮していた。
傷だらけのケイが力を振り絞って、右往左往する獣人と王国軍の兵士たちの間をすり抜け、向かった先にはライがいた。
ライも混乱しており、その視線は四方をぐるぐると回っている。
(…ミニカの姿がみえん。この混乱でライとミニカは引き離されたか。)
「ライッ。」
ケイの呼ぶ声に先ほどまで目まぐるしく動いていたライの視線がピタッと止まる。
「…ケイ姉。」
ケイは上手く力が入らない顔を一生懸命動かし、笑みを作った。
「あの男をやれんかった。やりそこねた。」
ライが本当に申し訳なさそうに謝る。
「お前はよく戦ったで。…よく戦った。」
ケイがライの肩に手を置く。
「じゃから、今すぐこの戦場を脱出せい。」
ケイの言葉を一瞬、飲み込めなかったライだったが、すぐに言葉を返した。
「なんでじゃ。私も獣人族の戦士。敵に背を向け、1人生きる自分は許せれん。」
「逃げるんじゃない。お前に、お前に先を託すんじゃ。」
ケイは早口で怒鳴りつけるように言葉を吐き出した。
そして、ライの肩に置いた手に力をこめた。
「…ライ。」
もう一度、優しい笑みを作り、柔らかくその名前を呼んだ。
ライはケイの顔を目を見開き見つめた。荒れた息に全身傷だらけで血が滲むマント。そして、震える手。
ライは大きく息を吐き出し、意を決したように何度も小さく頷いた。そして、地を蹴り上げる。空にひらめいたマントが長柵に向かっていく。
混乱する戦場の中を駆け抜けていくライの後ろ姿を見たケイの耳にライの最後の声が響いていた。
「またじゃ。また、あの森で。」
ケイは全身から力が抜けていく感覚に陥った。そして、同時に重たい衝撃が背から胸を貫いた。
「っうぅ。」
ケイは膝から崩れ落ちた。背中から血があふれ出る。
うつ伏せで倒れたケイが震えながら顔を起こすと、後ろにファイアが立っていた。
「…ファイア。」
ケイは呼び慣れたその名を呼ぶと、優しい笑みを浮かべた。
荒れた息を吐き出しながら、ケイを見下ろすファイアの瞳の色が赤から黒にゆっくりと変わっていく気がした。
「…あぁ…、ケイ…。」
ファイアは震えた声で小さく呟くとガクンと頭を下げた。そして、力尽きたかのように膝から地に崩れた。
赤い悪魔の異名とは程遠い、柔らかい笑みを浮かべたまま、ケイは目を閉じた。
(お前に殺され、生かされとる命じゃ。)
いつか何処かで聞いたケイの言の葉が丸くなったファイアの背中に降り注いでいた。




