第27話 舞台2
フーガンを先頭にして遊撃隊は戦場に繰り出すべく塔の階段を降りていく。誰も一言も口を開いていなかった。靴音と息遣いだけが耳元に残る。
階段を降りきったところでフーガンが腰にさげていた竹筒に手を伸ばし、酒を口に含んだ。そして、大きく息を吐くと、振り返えることなくファイアとミニカに対し言葉をかけた。
「獣人の先頭を切って攻めているのは獣のお嬢ちゃんだろう。」
ファイアの脳裏には、いや、3人の脳裏には1つの名前が鮮明に映し出されていた。
“ケイ”。
それまで昔話の中の存在であった獣人族。その獣人族の娘、ケイとフセ山脈で遭遇したのが遊撃隊と王国全土を巻き込んだ獣人族との争いの始まりだった。そして、共に血を流し、死線をくぐり抜けながら辿り着いたのは敵として刃を交える舞台であった。
「…正面から行く。」
フーガンの言葉に迷いは感じられなかった。
「俺たちの仕事を明確にしておく。」
フーガンは戦場につながる扉の前で立ち止まった。
「獣人たちを引っ張っているであろうタントタンとケイを叩く。…俺たちの手でな。」
ファイアは息を飲み込み、フーガンの首筋を見つめた。
「そうすれば王国軍に一気に流れがくる。」
小さく笑みを浮かべ、2人のほうを振り返ったフーガンの鋭い眼の先に微かな哀愁が漂っていた。
「…もう迷いはないな、ファイア?」
フーガンの唐突な問いかけにファイアは思わず目を閉じた。
(お前は俺の味方だと、そう言ってくれた。死の境を彷徨っていた俺を守ってくれた。…心が折れて立てなくなっていた弱い俺に優しい微笑みをくれた。)
(血だらけになりながら倒れていく兵士を見て、自分への後悔を口にしていたお前が今、“赤い悪魔”と呼ばれながら牙を奮っている。)
(再びそうさせてしまったのは、あの時迎えにいけなくさせた時代の流れが悪い。種族の壁が悪い。いくらでも言い訳はできる。)
(でも、もうそんなことを考えている場合じゃない。…お前は王国の脅威として向かってきていて、俺は王国の兵士。)
(…自分の非を全て背負ってでもお前を地にひれ伏すことが俺の使命。)
ファイアは剣をゆっくりと抜くと、フーガンの顔をぐっと見た。
「…今はただ勝利という使命を果たすことしか考えていません。」
フーガンはファイアの返答を聞くと小さく頷いた。そして、再び前を向き自身も剣を抜いた。
「いいか、誰がどうなろうと気にするなよ。遊撃隊がどうなろうと、関係ない。タントタンと獣のお嬢ちゃんを止めることができたなら俺たちの勝利だ。」
そう言うとフーガンは勢いよく戦場へ続く扉を開けた。




