第27話 舞台1
男達の叫び声と獣の咆哮が交じり合う戦場を見下ろすエムダの表情はピンと張り詰めていた。
ザジロの長柵内に築かれた木造の塔の一室。国王ハーク・ジー3世とエムダが戦況を見る後ろにファイア、フーガン、ミニカの3人が槍を持ち、真っ直ぐに立つ。
「まさか此処へ着いたそばから獣人どもが攻めてくるとは。俺はなんてタイミングの良い王だ。」
ハーク・ジー3世はエムダとは対照的に高揚した様子で戦況を見ていた。
「まさに仰る通り。」
エムダはハハッと乾いた笑いを付け加えた後、すぐに髭に手を伸ばし少し考える素振りを見せる。
(…ザジロの長柵がこうも容易く破られ、獣人に侵入を許すとは。)
(それにやつらが真っ直ぐにこの塔を目指して侵攻しているのは明らかだ。…これだけ目立つ建物だから当然ではあるが。)
(だが、策は用意してある。獣人どもが思いのほか深くまで攻めてきているのだ。先手をうっておいたほうが良さそうだ。)
エムダが国王に声をかけようした時、先にハーク・ジー3世が口を開いた。
「王国軍が苦戦しているように見えるが、どうなんだエムダ。」
「…確かに仰る通り、今は少しばかり押されているようです。ただ、我が軍とやつらには圧倒的な兵力の差があり、獣人どもを全て討ち果たすのも時間の問題かと。」
エムダの言葉を聞き、国王は「そうか。」とつぶやき再び戦場に目をやった。
「そうだとしても、ここで見ているだけというのはもどかしい。俺が直接、獣人を討ち果たしに降りようか。」
国王の言葉にエムダは焦った。
「それはなりません。それは。…国王様が軍を後ろから統率することが、獣人どもに勝利する最善の方法です。」
「だが、こう押されっぱなしの戦況を見せられ続けてジッと我慢などできるか。」
ハーク・ジー3世の口調が荒ぶる。そして、さらにそのまま続けた。
「ならば…。」
国王は後ろに控える遊撃隊の姿を見た。
「こいつらに戦況を変えてきてもらおう。」
「なりませんっ。それは…。」
エムダの言葉を遮り、ハーク・ジー3世がこう言い放った。
「お前は慎重が過ぎるぞ、エムダ。英雄である遊撃隊だ。力をここで見せてもらうぞ。行けえ。」
(本来、裏舞台で暗躍する遊撃隊が真っ向からぶつかっていくなんぞ。)
エムダは額に汗がにじませながら3人の顔を見た。しかし、3人は国王の命令を受けても表情を全く変えていなかった。覚悟を決めている面構えであった。
フーガンは厳しい表情を一切変えることなく国王の命令に「はっ」とだけ返事をした。そして、ファイアとミニカに視線をやると、互いに小さく頷き部屋を出た。




