第26話 地の竜1
ケイは次々と兵士たちを鋭い獣の爪で沈めていく。しかし、その瞳にはもがき苦しみながら倒れていく兵士の姿など映っていなかった。ケイは必死に探していた。
(こいつらの本陣はどこじゃ。どこじゃ。)
ザジロの長柵の内側は短期間で築かれたとは思えないほど街が形成されていた。ずっと奥まで建物が建ち並んでいる。
(戦っているうちに柵から少し離れてしまったか。)
ケイは少し顔を歪ませた。いくら戦闘能力が高いケイとはいえ、敵の中に飛び込み暴れ続けたツケは確実に身体に回ってきている。後ろを振り返るとケイの後に続いてくる獣人の姿が見えなかった。
(後ろのほうで騒ぐ声が聞こえる。…皆はまだ後ろのほうで暴れとるんか。)
「死ねえええ。獣人めええええ。」
怒声にハッとし、前を向くと槍先を向け勢いよく走ってくる兵士たちが視界に飛び込んできた。
「ぐうっ。」
ケイは辛うじてその槍を避けた。しかし、間髪入れず後ろにいた兵士の槍が飛んでくる。ケイは足に力を入れ、飛びあがった。そして、その勢いのまま建物の屋根に飛び乗る。
(…3人か。)
ケイは小さく息を吐くと、トンと再び地上に飛び降りた。
「馬鹿か。自ら殺されに来たぞ。」
兵士の1人が充血した目を見開き叫んだ。その瞬間、その兵士の首元にケイの獣の爪が飛んだ。瞬く間に辺りが血の色で染まる。
ゆっくりと崩れていく兵士の姿を見ることも無く、ケイは地面を蹴り上げ、体を鋭く切り返す。小さく砂埃が舞う中、もう1人の兵士が倒れた。
「ひいいいい。化け物…化け物だ。」
残された兵士の表情は恐怖に支配され、その声は震えている。
ケイはポタポタと血が落ちる左腕をだらりとしながら、その兵士の顔を睨みつけた。
「…っ。」
睨まれた兵士は青白い顔で一歩、二歩と後ろに下がり逃げようとした。その退路を断つようにケイが兵士の後ろに回り込んだ。そして、その首筋に爪を突きたてた。
「教えて欲しいんじゃが…、お前らの王はどこにおる。」
兵士の耳元で囁くように問いかける。
「あ…、あ…。」
兵士は恐怖からか上手く口が回っていない。
「教えてくれたら、…そうじゃなあ。この爪でお前を殺すことはせんでおく。じゃけ、教えろ。」
先程より強いケイの口調に、兵士は震える腕で南の方角を指した。
「と…と…うに。」
「とう?」
「そう、塔に…。」
「塔か。嘘じゃないんじゃろうな。」
念を押すケイに兵士はゆっくりと頷く。
「そうか・・・。約束通り切り裂くことはせんでおこうか。」
その言葉を聞き、兵士の目が安堵する。しかし、それも一瞬だけであった。兵士は大きく目を開き苦しそうな表情を浮かべると、唸りながら倒れた。
ケイは黒い瞳でその兵士を見下ろしながら、口元の血をゆっくりと拭う。
「…切り裂くことはせず、ちょっとばかり噛んでやったぞ。」
瀕死の状態でケイを見上げる兵士にそう呟くと、ケイは南の方角へ走り出した。




