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地の竜、空の虎  作者: 遠縄勝
会戦編
85/96

第25話 空の虎3

「奴らまでもう少しじゃあ。走れええ。」


 タントタンの声が獣人たちの足の動きを加速させる。咆哮しながら長柵に向かって一直線に突っ込んでいく獣人族からとてつもない迫力が漲る。


 一方、先程まで慌てた様子だった王国軍の動きが止まっていた。獣人たちの圧力に屈したという訳ではなく、じっと耐えている雰囲気である。それでも、その雰囲気に気付く者はいない。勢いと気持ちを全面に押し出し、王国軍に襲いかかろうと鋭い爪をうならせながら走る。


 両者の距離が100メートルを切るほどの近さに縮まったその時、王国軍の中から大きな声が響いた。


「構えええええ。」


 その一声を合図に長柵の上に造られている足場に乗った兵士たちが一斉に弓を構えた。


 タントタンはその光景を見ると、すぐに声を張り上げる。


「構わず突っ込むんじゃ。突っ込めえええ。」


「放てえええええええ。」


 獣人たちの頭上から無数の矢の雨が降り注ぐ。1人、また、1人と獣人が倒れていき、ザジロ盆地に悲鳴にも近い叫び声が響く。


 矢に討たれた獣人たちを横目で見たタントタンの顔に血管が浮かび上がる。そして、グッと前を向くと1人の獣人が矢の雨の中を恐ろしい形相で駆けているのが目に入った。


「ケイじゃ。ケイに遅れるな。」


 矢の雨にさらされ、混乱する獣人たちもケイの姿を捉え、その勢いを取り戻した。


*****


 ケイは無心だった。ただ、長柵の中にいる王国軍の兵士だけを視界に捉え、獣の左腕に力を入れていた。


「ああああああああああああああ。」


 ついに辿りついた長柵に向かってケイが飛びかかる。宙に舞った瞬間、長柵の中できらっと光るものが見えた。体がすぐに反応する。自身に向かって飛び出してきた槍を左腕でなぎ払う。


 その勢いのまま空中で回転すると、長柵を踏み、再び宙に舞った。その圧倒的な速度に長柵の中から繰り出される槍は空を突くばかりである。


 ケイは吠えながら長柵の中に飛び込んだ。そして、顔をあげると完全に引きつった顔をしている兵士と目があった。


「うわあああ、ぎゃああ。」


 ケイの左腕がその兵士の悲鳴を掻き消した。激しく飛び散った血に新たな悲鳴があがる。


「悪魔だ。赤い悪魔だ。」


 囲いこみ槍で突き刺そうとする兵士たちを次々と沈めていくケイ。白いマントが薄黒い赤に染まった。マントだけでない。返り血で綺麗な顔を染め、鋭い目だけが動く。


 混乱しうろたえる兵士たちをその目が捉えると、ケイは足場を蹴りあげ飛びかかった。赤く染まったマントが揺れ、返り血で赤くなった顔の中で光る牙。そこには間違いなく“赤い悪魔”の姿があった。


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