第25話 空の虎2
「あれが人間どもが作った柵か。近くで見れば中々よく出来とる。」
タントタンがザジロの長柵を目の前にして思わず感嘆の言葉を漏らす。獣人たちはタントタンとケイに率いられるようにしてザジロ盆地の手前まで進んでいた。
「あんなものなぎ倒してでも進んでやるわ。」
ジプが太い腕を鳴らしながら鼻を鳴らす。その横からキャパが冷静な口調で言葉を挟む。
「兵士をあの柵から引きずり出さないと厄介じゃと思う。じゃないと、奴らが持つ飛び道具に晒されることになるで。」
キャパの耳が忙しそうに動く。
「それに、人間は俺らの存在にもう気付いとるみたいじゃな。少し慌てとる様子も感じ取れるけど、隊列を整え始めとるぞ。」
キャパの言葉にタントタンがニヤリと笑う。
「あれだけ騒いで山を降りてきたんじゃ。そこらで寝とる野ウサギでも気付くってもんじゃ。」
そして、横で口を開かずにじっと長柵と慌ただしく動く王国軍を見つめていたケイの顔を見た。
「…さて、どうするよ。」
「…中央から切り裂く。」
ケイの静かに力強く帰ってきた言葉にタントタンは不敵な笑みを浮かべた。
「悪くないな。下手な小細工が似合わず正面からぶつかるのが獣人族じゃ。この状況を怖がるような奴は族にはおらんじゃろう。なあ?」
タントタンは語尾を強めながら後ろにいる戦士たちに呼びかける。この言葉に呼応して獣人たちは大きく吠えた。森が震える。
「見てみい。さっきの咆哮で人間どもが慌てとるぞ。」
獣人たちの叫びは確実に王国軍に届いているのだろう。一気にザジロの長柵の向こうが慌ただしくなった。その様子を見てジプが大きな笑い声をあげる。
返り血を浴び過ぎたせいか少し黒ずんだマントを風になびかせながら立つケイの横にライが並んだ。2つの白いマントが揺れる。
「ケイ姉。ついにこの時が来たな…。」
ライの表情は少し嬉しそうにも映る。幼き頃に交わした姉妹の約束。共に同じマントを着て人間と対峙する。その約束を思い出したのかケイも少し微笑んでライを見た。
「ケイ姉には色々なことがあって、色々な気持ちを抱えとると思うけど…。」
ライが慎重に言葉を紡ごうとするのを見て、ケイは再び優しく微笑むとライの胸を左腕で小さく叩いた。
「安心せえ。私は、…私は獣人族の戦士じゃけ。」
ライの安堵したような表情を優しい顔で確認すると、ケイは再び前を向いた。その瞳に深く黒い炎が燃える。
さっとタントタンのほうを見ると、彼はいつもと変わらない怪しい笑みを浮かべながら小さく頷いた。ケイもタントタンに小さく頷き返すと、左腕に巻いていた包帯をゆっくりとほどく。
「うおおおおおおおお。」
ケイは叫びながら斜面を駆けおり、ザジロの長柵に向かって飛び出した。
「ケイに続けえええ。」
タントタンも走りながら戦士たちを煽る。ケイの勢いとタントタンの言葉につられるようにしてザジロ盆地に獣人たちがなだれ込む。
ハーク王国と獣人族の雌雄を決する戦いが始まった。




