第25話 空の虎1
フセ山脈の森の中にも日差しが容赦なく差し込んでくる。その光を眩しそうにジプが見上げる。
「雨ばっかりじゃと思ってたら急に晴やがって。」
白いマントを被っているライが小さな溜息をついた。
「天気に文句を言っても仕方ないじゃろう。」
「うぐ…。それもそうじゃが文句も言いたくなるわ。暑い。」
その時、後ろから大きな笑い声が聞こえた。
「相も変わらずやっとるなあ。でも俺はこの晴れは我ら獣人族へお天道様のはなむけじゃと思うぞ。」
巨岩に座っていたタントタンはそう言うと立ち上がり周囲をぐるりと見渡した。
「これから地に堕ちた人間どもと戦う我らへの光じゃ。」
そう言ってタントタンはニヤリと笑う。この言葉に周りに集まっていた獣人たちが大きな声をあげる。その数は500を超えていた。皆、鋭い牙や爪を光らせ、鼻息は荒い。
「皆、よくこの戦いに集まってくれた。獣人族の誇りと意地を見せるこの戦いに。嘘と侮辱を塗り重ねていく人間どもを一網打尽にしてやろうぞ。」
勢いよくそう言い切り吠えたタントタンに続くように周りの獣人たちも吠えた。獣人たちの戦闘意欲が最高潮に達したその時、巨岩の陰からキャパが顔を出した。
「タントタン。新たな兵隊があの柵に来たぞ。」
「ほう。」
「それも兵数は少ないんじゃけど、今までの隊よりも無駄に煌びやかなんじゃ。もしかすると…。」
「もしかすると…上の位のやつが来とるかもしれんと。それが大嘘つきの元凶、あいつらの王かもしれんのか。」
そう言うとタントタンは再びニヤリと笑った。
「やっぱり運は我らに味方しとるな。直接、あいつらの王を殺せる機会が転がりこんでくるとは。」
「…まだ王だと確定した訳じゃないけどな。」
キャパが小声でささやくがタントタンはそれに構わず再び戦士たちのほうを向き大声を張り上げた。
「勝負は今日じゃ。地に堕ちた人間どもを一気の踏みつぶして空を駆けあがるのは我らじゃ。いくぞ。」
再び森の中に獣たちの声が響きこだました。
(皆、気持ちが全面に出とる。兵力には何倍もの差があるが我らの強さとこの気持ちで押し切れる。いや、押し切ってやる。)
タントタンの心の中も熱く燃える。
(さて、先陣として切り込んでいく者をどうするか。…俺が一番に切り込んでやるのも良いが。)
タントタンがそう思った時、皆から少し外れた場所で木にもたれかかり腕を組んでいた女が動いた。
「タントタン、先頭は私に行かしてもらえんか。」
「…ケイ。」
辺りの獣人が振り返り、ケイのほうを見る。
(ケイは先のカヤでの戦いで俺だけでなく族の皆にその力と意志を再び認めさせた。ケイなら誰もが納得するじゃろう。)
「ええで。ケイが先陣じゃ。」
タントタンの言葉にケイは表情を全く変えず小さく頷いた。
(…良い顔をしとる。)
タントタンはケイの様子を見てニヤリと笑うと、戦士たちに向けて大きく声を張り上げた。
「山を下るぞ。戦いの始まりじゃあ。」




