第24話 雨の緑1
昼過ぎに降り始めた雨は次第に強くなっていき、日が落ちた街には轟々と雨音だけが響いていた。
真っ暗な世界しか見えない窓の外をフーガンが見ている。以前ほどの力強さもなく濁りかかった瞳が窓に映る。
「戻りました。」
扉が開く音と同時にファイアの声が部屋に響いた。
フーガンは窓に映るファイアの姿を確認する。ファイアは雨に打たれたのかぐっしょりと濡れていた。
「しっかり濡れてるじゃねえか。風邪をひいたりでもしたらどうするんだ。」
フーガンは小さく溜息をつくと近くに置いてあったタオルをファイアに投げた。ファイアは小さい声で御礼を言うとそのタオルで濡れた髪をぐしゃぐしゃと拭いた。
「フーガンさん。」
ファイアは唐突にフーガンの名を呼んだ。
「何だ。」
ファイアは濡れたタオルを頭から離し、フーガンの目をしっかりと見た。
「以前、フーガンさん言っていましたよね。何のために戦うのか。何故戦うのか教えてくれって。」
クイの高見櫓の中でフーガンがファイアに向けた問い掛け。何故、戦っているのか。その場では答えることの出来なかった問い。
フーガンは小さく頷く。
「ああ。確かに言ったな。」
「…俺はこれ以上、“今”を変えたくないんです。」
「今?」
「はい。争いが始まる前まで流れていた“今”はもうありません。あの辛いことがあったとしても平和で穏やかな雰囲気だったあの時の今です。」
「ああ。」
「俺はあの時の王国が好きだった。それでも戦争が始まってそれが壊れた。ハークシーで獣人族に敗れて多くのモノを失いました。…大切な盟友も。」
「…。」
「王国が負けるという結果が悲しみを生み出し、そこにあった“今”を変える。…そのことが身にしみてよく分かりました。」
ファイアは顔を伏せる。
「これは自分勝手で相手からすれば横暴な論かもしれません。それでも、…それでも戦いの原因は関係ないんです。俺はこれ以上、“今”が壊れてこの王国内に悲しみを生みだしたくない。」
そこまで言うとファイアは再び顔をあげた。
「だから、この命が尽きようと戦います。…国王様のためとか、王国のためじゃなく、人々のために。」
腹を据えた男の顔がそこにはあった。
「相手が誰であろうともか?…“赤い悪魔”が相手でもその意志は変わらずに戦えるのか。」
フーガンの細く鋭い目がファイアに問いかける。それでもファイアの瞳は揺れることは無かった。




